ルーエンス・マグノリカ
集合場所を訪れたシェンジェンらの前に現れた人物は、クセのある見た目をした人物だった。
訪れた子供達と同様に巨大化している彼は猫背気味ではあるのだがシェンジェンより大きく我龍よりはやや小さい程度のサイズで、肌は不健康に白く、髪の毛は同様に白く爆発事故に巻き込まれたかのように派手なアフロ頭。更には奥に隠れている目が見えないほどレンズが曇ったメガネをかけていた。
瘦せぎすな体系を隠している服装に関しては下は飾り気のない黒のチノパン。上は顎を隠すように首元が長い空色のタートルネックを着ているのだが、自分達を羨ましいと言いながら頭を抱えたその人物がうずくまる瞬間、この場に訪れた数人は確かに見たのだ。
顎の部分に竜の鱗が僅かではあるが生えている事を。
「あ、あの………………我々はギルドを観光するためにベルラテスを訪れ、ここに来れば案内人がいらっしゃると聞いたのですが…………貴方がその人物でよかったのでしょうか?」
嗚咽を漏らし続ける未だ名前も知らぬ人物に対し勇美は声をかけ、尋ねられた彼は振り返るのだが、その瞬間、見た目以上にクセのある性格が表に出てきた。
「お、おぉ………………おぉぉぉ!! じょ、女性が! 貴方のような美しい女性が! こ、このワタクシにわざわざ話しかけると!?」
「………………は、はぁ」
「おぉぉぉぉぉぉ!! 困惑した顔も美しい! 一つ一つの仕草や体型! 全て私が持っていないものだ! う、羨ましい!!」
「おいおっさん。あんたもうちっと落ち着いて………………」
「お、おぉぉぉぉ!! 君は………………君は!! 若くしてそれほどまで分厚い筋肉の鎧をまとっているのか! よく鍛えられたのだね! 体がそれに答えてくれたのだね!! あぁ素晴らしい! なぜこの世界にいる多くの人らは、私の持っていない美貌を! 力を持っているのだろうか!? な、涙が止まらない………………!!」
有り体に言えば、話が全く進まないのだ。
勇美や我龍、いやこの場にいる誰が話しかけてきても半ば無理やり美点を見つけ、それと比べた場合の自分の矮小さを延々と悲しみ続ける。
そんなあまりにも無意味な無限ループを彼は飽きもせず繰り返すのだ。
この不本意な状況。つまり彼の悪癖を崩すためには何らかの外的要因が必要なのだが、当然その辺りの事情を知らぬ子供達では、自分達に対し敵意を抱かない相手に手出しをするという選択肢は浮かばない。
「ほーら、その辺にしときなルーエンス。お客さんが困ってるじゃないか」
「おほぉ!?」
「第一、仕事はどうしたんだい仕事は。人に嫉妬するのは勝手だけどね、それでやるべきことを放棄するってのなら、お前さん今日から寝床はないからね!」
だからこそ彼女は現れた。
藍色の着物に身を包んだ真っ赤な肌と額から飛び出た一本角。
一升瓶の中身全てを注げるほど大きな真っ赤な盃と、その辺りに置いてあった竜人族用の巨大なモップを手にしているその人物を、シェンジェンは知っている。他の者とて名前や立場ならば知っている。
「よく来たね小僧共。こいつはあんたらの旅に同行人であるルーエンス・マグノリカ。竜の血が四分の一を占めてるクォーターだ。性格に難があるのは認めるけど人見知りみたいなもんでね。慣れてきたら有能な面を覗かせる男だから、ちょっとの間だけ我慢しておくれ」
「壊鬼さん!」
彼女こそはギルド『麒麟』を束ねる三人の当主が一人。鬼人族の長である壊鬼で、勝気な笑みを浮かべながらされた説明を聞きシェンジェンは顔を綻ばせ、他の者らは昨日に続き凄まじい地位の者が突然目の前に現れた衝撃から、目を丸くし言葉を失っていた。
「い、いきなり暴力に訴えかけてくるなんて…………ひどい! ひどすぎます! 壊鬼様は鬼だぁ」
フローリングの床に頭を叩きつけていたルーエンスと呼ばれた男はというと、すぐに復帰すると頭にこぶを作り大量の涙を流しながら不平不満を漏らすのだが、残念ながら鬼人族の長に効果はない。
「そうだよ鬼だよ。んなことはいいから仕事しな。戦闘面はからきしでも、こういう仕事に関する才覚は本物なんだからさ!」
持っていたモップを近くの壁に置きながら適当にあしらう姿は彼の操縦方法を知っているゆえで、そんな扱いを受けるルーエンスという男には憐れみの視線を向ける者さえいるのだが、入り口から入ってすぐに繰り広げられた騒動はこれにて終わりを迎えた。
「と、突然取り乱してしまい失礼しました。そういう性分なもので。改めまして、ワタクシ、ルーエンス・マグノリカと申しまして、今回は十年間で変わったギルドの歴史。それにベルラテスの中でも有名な飲食店の紹介をすることになりました。短い期間ではありますが、よろしくお願いします」
「こーんな風に気弱な奴だけどね、さっきも言ったけど実際のところはかなりできる奴だ。なにせやって来た観光客を全員巨大化させようなんて奇抜な意見を出したのはコイツだからねぇ」
冷静さを取り戻した彼は、弱気で神経質な事が汲み取れるか細い声を発しながら自己紹介を行うのだが、彼の肩を叩きながら壊鬼が言った内容は確かに特筆すべきものである。なにせ文字通り同じ目線で語るという発想があったからこそ、竜人族と他種族の親交はスムーズなものになったのだから。
「まぁはい。そうなんですが………………それとてアルさんに色々と協力してもらった結果ですから、ワタクシの成果と言われると………………ちょっと」
「あ、一時期パパが熱心にやってた仕事。雇い主が一度もやってこないからどんな人だったのか気になってたんだけど貴方だったんだ!」
更にイレが褒めたたえるような声色で言葉を発すると俯き気味だった頭は持ち上がり、彼はやっと今回の件における本題の一つ。今のギルドに関して話しだした。
「えっと、今回の旅行は学生様一行という事で、キングスリング様。それにエルドラ様から、今の亜人の在り方を学んでほしい。つまり多少でもいいので勉強してほしいと仰せつかっております」
「………………めんどくせぇな」
「そんな事はありませんし失礼ですよ我龍君。弁額は我々の本文です。というかギルドに関する事を、発端の地であるここで学べるんです。光栄に思いむせび泣くべきでは?」
すると我龍がワックスで固めた髪の毛を掻き毟りながらぼやき、すぐ側にいたガルゴネシアが叱るような声色で口にするのだが、ここでシェンジェンは片方の眉を持ち上げる。
魚人族の長であるキングスリングがこういう提案をするのはよくわかる。目の前の男と同じく神経質な上に真面目で実直な彼ならば当然するであろう提案だ。
しかし豪放なエルドラがこういう提案をするのは中々ない事で、その裏に何らかの意図が隠されているであろうことを彼は感じ取った。
「当然、授業などというものが皆様に歓迎されないことくらいわかっております。ですから此度の授業でお伝えするのは一つだけ。我々ギルドがここ十年で育んだ成果。近いうちに『団結商会』と名を変える経緯です」
「その噂ならお父様が話していましたね。近いうちにギルドは新たな形になる。これまで以上に世界の深い位置に関わってくることになると」
「ええそうです。その点に関して皆様にはいち早く詳しく知ってもらいたい。そして十年二十年後に、世界を牽引する人材になってほしいと思っているのです」
そんな事を考えている内にホワイトボードを生成したルーエンスは、メイの言葉に反応しながら手にした水性のペンで様々な事を語り始め、その点に関して追及する暇はなくなった。
その意味を知ることになるのはもう少し先の事であるのだが、この時のシェンジェンはまだ何も知らなかった。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
案内人であるルーエンス君紹介回。
この人物もリインと同じく性格に難はあれど、かなりの有能人物です。
なおかつ本人は『羨ましい』といって周りに嫉妬しているのですが、本人は他の誰もが羨ましいと思うような能力を持っています。
この辺に関しては食事中心に行うまた次回で。
今回はヤバい人物などが現れない、おそらく平和なギルド訪問となると思います。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




