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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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ギルド『ウォーグレン』、リターンズ 一頁目


「善さーん」

「ん、どした蒼野。って、すごい様子だなお前」


時は過ぎ、午後八時。

夕食を取るために宿の部屋から下に降りたところで善を見つけた蒼野が、顔に涙の跡を残したまま近づいて来る。

 その様子にやや面食らった善は、そばにあった席を勧め蒼野が座る。


「なんかみんなに隠し事をされてるみたいでして。正直辛い……」

「隠し事?」

「ええ。なんかみんな気になることがあるらしくって」

「へぇ」


 やって来た店員に対し蒼野がA定食と書かれた食事を頼み、出てきたからあげ主菜の食事を口に運ぶ。

 そうして蒼野が食事をしながら話しをしていると、それを聞いた善が短く、しかしいくつかの感情が混ざった声を発する。

 

「それであんまりにも気になったんで康太にめっちゃ迫ってみたら、どうやら善さんの様子がおかしいことが気になり始めた原因の一つらしくって、何か知りませんか?」

「…………」


 康太は蒼野には甘すぎる

 そんな感想を内心で抱きつつ、どう取り繕ろうかと考える善。


「ま、あいつの気のせいだろ」


 結果的にさしてうまいいいわけを思いつかなかった善は頬を掻きながらそう言って話を終えようとするが、蒼野の視線は厳しく一挙一動を見守るように凝視している。


「わかったわかった。隠し事があるのは認めるよ」


 食事を終え、部屋に戻ろうと動きだそうとする善だが蒼野から逃れることはできず、延々と追いかけ回されること十数分、時間回帰で閉じた扉を無理やりこじ開けられたのを確認し両手を挙げる。


「やっぱり隠してた!」


 諦めたと口にする善を見て蒼野が口を尖らせる。

 その様子を愛おしげな視線で眺めながら頭を撫でた善は、落ち着けと口にしながら少年をなだめる。


「康太も優も、それにゼオスもお前に不利益なことを隠すやつじゃないだろ?」

「いやそれはそうなんですけど」

「だったら、たまには黙ってそれを許容するのも重要なんじゃねぇか?」

「うーん」


 ギルド内でみなが最も優しげな態度で接する人物を決めるとすれば、それは蒼野である。

 これは彼がまだそこまで馴染んでいるわけではないというマイナスの理由ではなく、蒼野自身が誰に対しても優しく接するためである。

 そんな蒼野に対して彼らが不利益な事を隠すことなどさしてなく、なだめるように説得する善の言葉を聞くと、蒼野もその点について理解し、不満げな様子はあれど渋々と言った様子で納得。


「…………その隠し事の正体は、またいつか教えてくれますか」

「ああ、それは約束する」

「なら、今回は我慢します」


 その答えを聞いて善も表情には出さずとも内心で安堵するのだが、


「あ、それともう一つ聞きたいことがあったんですけどいいですか?」

「な、なんだ?」

「いや、今回ゼオスが出した二択って『ムスリム』と『コルク』だったじゃないですか。その二択なら観光都市として過ごしやすいコルクの方がいいんじゃないかなー、とか思ったんですけど、何で即答でムスリムだったんですか」

「ああ。それか」


 続いて蒼野が口にした質問に対し目を細め、


「………………ここは、ヒュンレイの生まれ故郷で、加えて俺とあいつが初めて会った場所でな。なんか、来なきゃならねぇと思ったんだ」


 しみじみ、昔を懐かしむ様子でそう口にする。


「そう、なんですか」


 その時の表情を、仕草を、空気を直で浴び、蒼野はそれ以上余計な事を口にしない。


「善さん」

「ん?」

「明日、頑張りましょう」

「あぁ」


 どれだけ足掻こうがやってくる期日を前に蒼野は意気込み口にし、それに対して外の景色を眺めたまま善は答えを返し二人は分かれる。


 降り積もる雪は止む様子は一向になく、どこか寂しい様子の町を目に焼きつけながら夜は更けいき、朝を迎えた。




「来たか」


 午前六時十分前、各々が自らの得物を携え、出撃の準備を終え、善の部屋に入って行く。


「昨日のうちに聖野の奴に連絡を取って情報を仕入れてもらった。これが、俺達のキャラバンを覆っている霧の全景だ」


 備え付けの机とは別の、ゼオスが能力で取り寄せた机を中心に輪となって広がる五人の真ん中には、拳ほどの大きさの小さな食う対型の機械が置かれる。

 その後善が装置の底にあるスイッチを押すと、青白い光が広がり、ほんの少しの間を置いて真っ白な霧が映しだされる。


「これが……」

「ああ、お前らが見たっていう、キャラバンを覆う濃霧だろうな」


 善が手に持っているリモコンを操ると映っている映像が引いていき、周りの景色まで見えるようになる。


「今映ってるのは濃霧の中心から半径十キロ圏内の景色だ。まあ見た通り、木々全体を覆える程の巨大さだな」

「この映像はいつのものなんっすか?」

「昨日の午後三時時点の映像だ。この映像を取って二分後、カメラは破壊された」

「康太、この陣形って」

「ああ。一昨日見たものと同じだ。どうやらこれが、連中の基本陣形のようだな」


 映像の解像度はかなり高く、コメ粒ほどの大きさになってもしっかりと確認できる複数の影を見て康太が口にする。

 その部分の映像を拡大すると五人一組の塊を確認することができ、均一に距離を取っている事もはっきり分かる。


「今回のお前らの仕事は、こいつらをヒュンレイと俺のいる場所まで向かわせないことだ。具体的にはお前らが最初に突撃をかまして相手を誘導してる間に、俺がこっそりと霧の中に侵入する」

「要するに鉄砲玉って事っすね」


 嫌な役割だと言いたげな様子で、康太が苦々しく口にするが、それを聞いて善は苦笑。


「そこまでひどい言い方はしねぇよ。てか一時的に誘導さえしてくれりゃ、後は無理をしない範囲で遊撃を続けてくれりゃあいい」

「ゼオスの能力で一旦離れて、また別の方角から奇襲、って感じで続ければいいんですね」

「ああ。てかそれが最良だな。要はあいつらの注意をこちらに向けさせるな。それ以上のことは求めねぇよ。で、情報収集の方は捗ったか?」

「ええ。もうばっちしよ。善さんの言った役割を、完遂させてみせるわ」


 その後善が尋ねると優は不敵に笑い、その様子を確認し彼は満足気に頷きゼオスに視線を向ける。

 それだけで自分の役目を理解した少年は能力を使用。

 善達のいる部屋に突如として黒い渦が現れその中へ一人ずつ入って行き、彼らは再び占領されたキャラバンの付近にまで移動していく。


「ゼオス、ここは?」

「…………赤レンガの建物から数キロ離れた地点。一昨日俺がお前達と合流する際に利用したポイントだ」


 辺りを見渡していた蒼野が空に昇る真っ白な煙を見つける。

 物音を立てぬように慎重に動きながらその方角に向かうと、そこには一昨日の戦いで本拠地としていた赤レンガの建物があり、その付近には複数人の目出し帽が存在していた。


「待ち伏せ、か」

「……斬るか?」

「馬鹿言うな。一人でも取りこぼせば仲間を呼ばれて無駄に危険が増える。敵全体を誘導可能な場所に辿り着くまでは戦闘は極力控えろ」


 剣の柄に手を伸ばすゼオスの頭を小突く康太。


「じゃあ、ここはスル―ね」

「ああ」


 その後優がそう口にすると善もそれに同意し、先頭を歩く彼の後に少年少女がついていく。

 それから濃霧が目に入る場所に辿り着くまでの間に、数回にわたり敵影を目にするが全て躱し接近。


「さて、ここからは別行動だ。派手に頼むぜ」


 先頭を歩いていた善が四人から距離を取り、それを見届けた蒼野が剣を取り出し風を纏わせ、


「さぁて、先日の借りを返させてもらいますか!」


 康太がそう口にすると同時に、彼らは各々の武器を装備。


 ギルド『ウォーグレン』が、反撃の狼煙をあげる。


 




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


今回話しに出たように彼らの隠し事はまた今度

本編はここらが折り返し地点です。


まだ今回の戦いは続くと思うので、次回からもよろしくお願いします

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