表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
136/1359

無貌の使徒 三頁目


「こいつはホントに一個人、ていうかヒュンレイさんが率いてた部隊なのか?」


 善に渡された資料を彼らが眺め初めてから二時間が経過。一人一人が別々の個室に居座り、手にした資料を熟読していた。

 そんな中、康太が食事をしたいと思い個室から出ると、図書館に併設されていたコンビニで食料を購入。未だに資料の熟読を続けていた蒼野に買ってきた食料の半分を渡し、近くにあったベンチに座って二時間で得た情報について情報交換を行い始めた。


「確かお前が見てた資料ってのは……」

「『無貌の使徒』の構成員についての本だ。構成員の説明だけで一冊使うっていうのはどんなものなんだと思ってみてたんだが、おっそろしい内容の本だったよ」

「というと?」


 コンビニ袋の中から骨なしチキンを取り出した康太がそれを頬張り、口の中に広がるジューシーな肉汁にうっとりとしながら蒼野の説明を聞き返すと、信じられないと訴えかけるような声色で彼は本の中に書いてあった内容を説明した。


「『無貌の使徒』の構成員は様々な人々から構成されてるって聞いてはいたんだがホントに多種多様でな、種族で言うなら獣人や魚人、鳥人なんかも所属してる、んで、それも驚きなんだがさらに驚きなのは所属している人々の職業やら社会的地位なんだが、一般家庭の主婦から財界の大物、それに裏社会で活躍するヤクザや、闘技場の人気選手なんかも出てやがる」

「そりゃまた、節操がないな」

「まあ逆に言うと構成員の広さが特徴かな。絶滅したと言われる巨人族や竜人族以外は、恐らく全て所属してる」

「所属する理由は?」

「まあ大体は今の世の中に対する不満とかだな。そういう面々を集めて、ヒュンレイさんが指揮してたらしい」

「なるほどな。あ、こっちも見るか?」

「ああ」


 蒼野が説明を終えると康太が自身が持っている本を投げ飛ばし、蒼野も持っていた本を康太に渡した。


「お前の持ってた本。これはえーと、対『無貌の使徒』戦術一覧……つまり交戦記録か」

「ああ。明日の戦略のキモになる部分の本だ。正直、今回の件抜きにしてもすっげぇ役立つ本だ」

「…………普通に戦術書って感じだな」

「ああ。まさにその通りだよ」


 渡された本の内容を一瞥した蒼野がぼそりとそう呟くのだが、それを聞いた瞬間康太の表情が曇る。


「ん、どした?」


 康太から手渡された鮭おにぎりを食べ、ペットボトルのほうじ茶を口にしていた蒼野が、少々暗い口調の康太に尋ねると、康太は何事かを考えるかのように押し黙り、


「…………いや、何でもない」


 一度口を開いたかと思えばそのまま静止し、口に出しかけた言葉を飲み込んでしまう。


「な、なんだよ。気になることがあれば言えよ」

「そう思ったんだがな。たぶんこれは言わないほうがいいことだ」


 康太の態度に煮えたぎらない様子で尋ねる蒼野だが、康太はその言葉に答えることなく立ち上がり、手についた油を掃いのけ、渡された本の中身を眺めながら元のスペースに戻っていき、


「この戦い、やっぱおかしいぞ」


 そして蒼野の姿が完全に見えなくなったところでふとそう呟いた。




 それから一夜が明け、少女が泊まっていたホテルのベットで目を覚ます。

 外を見れば先日と変わらぬ銀世界が広がっており、部屋の中にいるにもかかわらず凍えるような感覚を覚えるが、なんとかベッドから飛び出る。


「着替え着替え」


 それから彼女はすぐに着ていた寝間着を脱ぎ、灰色のインナーに白のシャツを着て、その上に小麦色のタートルネック・赤の縦セーターの順で服を装着。

 黒いストッキングの上に群青色のスカートと黒のブーツを履くと部屋から出る。


「あー温まりそうな朝食ね」


 ビジネスホテルゆえに食事の質はそこまで高い物ではなく、出された朝食はおにぎりにお味噌汁、それに焼き鮭に漬物というシンプルなものであったが、凍えるような窓の外の景色をじっと見つめ、そのあとに湯気の昇っている料理を見ると、それだけで食事が数倍おいしくなるように思えた。


「…………綺麗ね」


 一面の銀世界を走り続ける蒸気機関車と年から年中作られている雪と氷を使ったアートは、旅行客の少ないこの町の数少ない観光スポットで、それを眺めた少女の口からはふとそんな言葉が漏れて出る。


「ムスリム、か。確か蒼野が来たがってたっけ」


 その後、自分の買い物に付き合わせた際に蒼野が口にしていたことを思いだすと、だから善はこの場所を選んだのだろうかと考えながら、深夜まで見ていた本の中身を思いだしながらその本にそっと触れた。


「『無貌の使徒』活動記録、ね」


 『無貌の使徒』の活動期間は短い。ほんの数年ほどだ。

 彼らの物語はヒュンレイ・ノースパスが世の中に不満を持ったところから始まり、彼が同じ意志を持つ仲間達を集め、様々なところで暴れまわり、その末に敗北することで終わりを迎える。

 今世界中で暴れている『境界なき軍勢』との違いは出ている被害者の数や規模だが、それを除けばほとんど変わらない集団だ。


「そろそろ時間かしら?」


 個室に分かれる前に話した約束として、善を除く四人で午前十時には集まる約束をしていた。時計を見れば午前八時、約束の時間まであと二時間ある。


「…………中途半端な時間だけど、誰かと変えてもらおうかしら」


 思ったよりも時間が余っていた事に動揺しながらも席を立ち、自分の部屋から一番近い蒼野の部屋に寄る優。


「蒼野ー、持ってる本は読み終わった?」

「集まる時間には早いと思ったが、本の交換か?」

「ええ。あ、アタシの持ってた奴は結構情報量も多いわよ。たぶん四つの中で一番なんだけど……読む?」

「まあ、いけるところまで」


 ノックを耳にして部屋から出てきた蒼野に対し、少々遠慮がちにそう尋ねる優。

 それに対して蒼野は苦笑を浮かべながらも本を受け取り、交換を終えると優は踵を返した。


「あ、ちょっと待ってくれ優」

「ん、どうしたの?」


 そんな所で、彼女が蒼野に引きとめられる。


「いや一つ気になってることがあるんだ。昨日から康太とゼオスの様子がおかしいんだ。何か知らないか?」

「んーそうねぇ」


 蒼野にそう尋ねられ少女は頬に手を当て、唸るような声を発しながら考察。

 昨日一日の事を振り返り、


「あ」


 ふと、違和感に気が付いた。


「え、何々、何か気が付いたか」

「うーん」


 目を丸くして、聞き返してくる蒼野から視線を外す優。


「これについてはその……ノーコメントね」

「えぇ」


 その末に返された康太と全く同じ反応に、彼は困惑の表情を浮かべた。


「ちょ、マジで教えてくれよ。ゼオスも康太も、それに優も違和感に気がついたとなれば、もう俺だけ仲間外れじゃん。かわいそうじゃん!」

「…………アハ」

「可愛げに言ってもダメだぞこの野郎!」

「じゃ、じゃあまた後で!」

「ちょ、待ってくれよ」


 それからごまかそうとする優を一蹴すると、彼女は逃げるように去っていった。


「俺だけわからない情報ってなんだ?」


 それから二時間後、四人は食堂に集まった。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


という事で先日話した通りのタイトルで更新です。

言うなれば敵はデカい、という事を示す話です。


それはそうと蒼野以外はある事実に気が付き、物語は大きく動きます。


それではまた明日、お逢いできれば幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ