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オルレイユ個人ランキング第一位 ヌーベ・レイ


未だ天致勇美の得意とする砂漠エリアのど真ん中で、ヌーベ・レイは立ち上がる。

 その姿は血まみれ砂まみれな上に着ている白い制服はボロボロなのだが、その瞳には未だに強い光が宿り、背をまっすぐ伸ばしているのもあり、第一位を名乗るのにふさわしい風格を備えていた。


「敗北の味を覚え直す。つまりもう一度教え直すという事か。その必要はないな」


 これを目にする彼女の様子は、明らかに先ほどまでと異なる。

 この戦いが行われるまでの数年間で溜まった恨みつらみを延々と垂れ流す態度はなりを顰め、深紅の瞳を細めながら語る姿には、対峙する男と同等の風格が伴っていた。


「なにせ私は――――その味を忘れたことなど一度もないからな!」


 直後、彼女の体が消える。

 真下から吹き上がった砂の爆発により隠れ、刀を戻した状態で手首を捻り空中疾走に特化した状態へと変化。

 ヌーベの真後ろを瞬く間に奪い、鞘に左手を、柄に右手を携えた状態で急降下を始める。


「………………背後か」

「!」 


 これにヌーベがすぐさま応じる事が出来たのは、彼が自身の周囲に風属性粒子を撒き、彼女の居場所を探っていた故なのだが、ここで彼は自身の真骨頂を発揮する。


『こ、これは凄まじい! 凄まじすぎる! 第一位であるヌーベ選手の背後が、雷の雨により埋め尽くされた!!」


 実況の告げる通り彼の背後の空間は、背中に展開していたクラウン・クラウドが繰り出す千を超える雷の放射で埋まり、人一人通るだけの隙間がなかったため勇美は急いで方向転換。まっすぐに向かう事を即座に諦め、別の方角から攻め込もうと画策する。


「…………悪いが容赦はしない。このまま、勝ち切らせてもらう」


 その思惑を、ヌーベは真正面から捻じ伏せる。

 勇美のいる場所を感知するとその方角一帯を吹き飛ばすように雷を放射。それに加えて地上から上空にかけて巨大な竜巻を幾重にも発生させ砂漠の砂を吹き飛ばす。

 いやそれだけではない。雷と混ぜることで凶悪な戦場に変化させる。


「これは………………すごいね。僕でも無理だ」


 ヌーベは指一本動かさず思念だけで数キロにも及ぶ砂漠エリアを吹き飛ばし、自分が立ち回るのに最適な空間を構築したわけだが、これを見ていたシェンジェンの口からは素直な勝算が飛び出した。


「おの、れ!」


 そんな戦場の中を駆け続ける勇美は、この劣勢を覆すべく頭を働かせる。


 絶え間なく繰り出される攻撃により周囲一帯を制圧され距離を詰めれず逃げ回る事しかできない現状。

 この状況を最も簡単に打破する方法は離れる事、更に距離を取る事だ。

 そうすればこれほど凄まじい攻撃に晒される心配はないだろう。


 しかしそれは自身の勝機を手放す事に等しく、迫りくる脅威を躱しながら深呼吸をした彼女は覚悟を決める。


「っ!」

 

 刀を鞘にしまった状態で何度か捻り、自己再生能力を付与する状態で固定。

 自身の体内で滞留する土属性粒子に、周りに飛び散っている砂漠の砂を混ぜると、己を包み込む砂の球体を構築し風と雷により構築された異空間へと飛び込んでいくが、全身を襲う被害は並みの物ではない。


「ぐ、うぅぅぅぅっっ!!」


 砂の守りは突入一秒後には砕かれ、風属性による斬撃と雷の直撃による痺れと衝撃が彼女の全身を包み込む。

 それによって負った傷の数々は、けれどヌーベの目の前に到達するよりも早く修復。

 己が刀が届く射程距離にまで迫ったところで、この戦いを終える意気で大きく一歩前に踏み込み、居合による一撃をヌーベの胴体へと撃ち込んだ。


「一つ聞きたいんだがね」

「なぁっ!?」

「君の知る僕は、苦手分野をそのまま放置するような人間だったかな?」


 ヌーベはそれを、完璧に防いだ。

 これまでのように回避や周囲に漂わせている雲を使うことなく、両手を使った白刃取りで、彼女の繰り出した渾身の一撃を掴み切った。


「多彩なメモリーを使った戦術は見事の一言だ。しかし明確な弱点が二つある。一つはモードチェンジをするために毎回鞘に刀を戻す必要があること」

「あっ!」

「もう一つの決定的な弱点は、自身の力ではない故に壊されたり遠くに投げ捨てられた場合、使えなくなることだ」


 この状態で勇美が腰に携えている鞘を、クラウン・クラウドの一つから撃ち出した雷の槍で貫けば、鞘は焦げた臭いを発した直後に爆発。本来の機能を発揮できなくなる。


「当然それを自己修復する機能もあるんだろうけどね。その前に決着を付けさせてもらおう」

「っ!」


 直後にヌーベは一歩前へ。

 これまでのようにクラウン・クラウドに頼る戦術ではなく、徒手空拳を混ぜた物で勇美へと攻めていく。


「近接戦で私に適うと思うな!」


 しばらくのあいだ剣と拳が衝突し、その果てに繰り出された一閃がヌーベの脇腹に叩き込まれ、彼は体をくの字に曲げながら再び遊具の揃っている遊園地エリアへ。

 それを追いかけるように勇美は駆け出し、


「そうだな。流石に勝ち越すのは無理だったよ。だけど準備はできた」

「これ、は!」


 そんな彼女の体から、細長くて白い管が無数に伸びる。

 それは先程ヌーベが徒手空拳で戦い続けているあいだに付けた勝利の道。自身の攻撃を通すための雲の道であり、


「チェックメイトだ」


 天致勇美はすぐに切り離そうとするが一歩遅い。

 自身の周りに滞留させていたクラウン・クラウド全てを攻撃に転じさせ、雷属性を固めた砲弾を雲の道へと挿入。

 その全てが彼女の身を包むと、威力の高さを伺える音と光が戦場を包んだ。


「これは決まったかな?」


 その光景を観客席で見守っていたシェンジェンはそう告げ、


「さてどうかしらね。なにせ姫様には、もう一つ秘密兵器がある」

「なんだって」

「おそらく邪魔な雲が全て消え去った今こそ効果を発揮するでしょう」


 那須鉄子が目を閉じながらそう告げた直後、それは訪れた。


「――――そこ!」


 二人のいる遊園地エリア一帯を包み込むように、これまでとは異なる何かが奔る。

 それの正体を明確に判断する事がヌーベにはできなかったのだが、少なくとも己が身に何か危険が迫っていることは察せられ、急いで攻勢に回した雲の一部を自身に侍らそうと考え、


「なっ………………!!!?」


 それよりも早く、天地勇美は離れた場所にいるにも関わらず、ヌーベ・レイの全身は土色の光を宿した斬撃により切り刻まれた。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


ヌーベ君逆転回。そしてクラウン・クラウドによる大暴れ回。

『すばしっこく動く相手の対処? 戦場広範囲を包めばいいのです』という身も蓋もない解答をお出しするお話です。

これに加えて戦場の気候まで変えれて、天候に関係する『風・雷・氷・水』属性の支配権を得る事ができるので間違いなく当たりの希少能力。相手が神器でもない限り、大抵の相手には優位に立ち回れるスペックがあります。


そんな物を使いこなす彼を襲った秘策。

そのお披露目と決着は次回で。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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