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開幕! 第一位VS第二位!


『勝利条件は至って単純! 対戦相手の意識を奪う事だ! その上で今回の戦いには特殊敗北条件が一つ追加される! 『ワンダネスハイランド』全域が戦場ではあるが、禁止エリアを三つ! これは他三組の戦いを邪魔しないようにする措置だ! 二人共覚えておいてくれよぉ!!』


 観客の歓声に押されるようにマイクパフォーマンスが激しい物になっていく中、大移動が始まる。

 これは両陣営の大将二人が衝突するにあたり園内にいる事は危険であると判断されたためで、残る三試合に出場する選手以外は移動を開始。


『おっと! 忘れかけていたが、二人共神器は前もって預けてくれよ! 致死領域回避用結界の効果を受けれない状態になるとヤバイからなぁ!」


 放送の声が徐々に大きくなるのを感じる中でシェンジェンら他の代表選手たちもテントから出ていき、園外に用意された観覧スペースにまで移動。

 ヌーベを除いた第七高校の代表三名がたどり着いたのは、園内が一望できる空中に設置された観覧スペースの一角で、戦場から近い事もあり中継用のモニターなどはなく肉眼で見るようになっていた。


「…………来たか」

「先日ぶりだなシェンジェン」

「二人共暇なの? 学生はお休みだけど、大人はそうじゃないと思ったんだけど?」


 ここで意外だったのは自分らが移動するように指示された観覧席に見覚えのある顔。

 すなわちレオン・マクドウェルとゼオス・ハザードの二人が座っていた事で、シェンジェンと一緒に移動した我龍が言葉を失い、エラッタが眩暈を覚えふらつく中、話しかけられた本人は慣れた様子でそう会話。


「おいてめぇ、このお二人と知り合いってどういうことだよ? 何やらかしたんだ?」

「僕が素行不良児で偉い人のお世話になってるみたいな態度やめてくれない………………チョットエンガアッテ、カオヲシッテルダケダヨ!」

「なんだその嘘くさい態度は! ホントの事を言えホントの事を!」


 我龍が掴みかかる勢いで問いただすが、シェンジェンにとって意外な事態はさらに続く。


「すまない。我々も観戦したいのだが、少々そちらに寄ってもらって構わないかな?」

「お、おう。悪いな」

「ありがとう。助かるよ」

「…………マジで。高校の一行事にあんたらまで来るの!?」


 巨体ゆえにさほど大きくない観覧スペースの大部分を占有している我龍に話しかけたのは、それ以上に大きな体をしたシュバルツ・シャークスで、自分より大きな存在がやや申し訳なさそうに話しかけて来れば我龍とて強気な態度に出る事はなく応じた。


「おいおいおいおい。なんだこれは。今日は無駄に図体がデカい奴が一人増えてるじゃないか。暑苦しいのにもほどがあるぞ!」

「なんだぁこの偉そうなちんちくりんは? 生意気だなオイ。てか無駄に装飾華美なんだよ! 傘も閉じろ! 迷惑だろ!」


 問題があるとすればシュバルツと共にやって来たエヴァの方で、フリフリの黒ドレスに加え赤い日除け傘をさしていた事で我龍がそう反論。

 彼女は真っ赤な瞳の上にある細長い眉を意外そうに持ち上げた。


「知らんのか小僧。かわいい女の子は無限に盛っていいんだ。しかしチンチクリンとはレディに対して失礼な奴だな。その無駄にデカい図体を、縦横共に半分以下にしてやろうか?」

「おいおい冗談キツイぜ! スプーン以上に重い物を持ったことがなさそうな姿で何しようってんだよ!」


 至極残念なのは、新しくやって来た二人が世間一般からは身を顰めている強者であった事だろう。

 そのため先に観客席にいたレオンやゼオスが内心で冷や汗を流すような煽りを我龍はエヴァに対し行い、それを聞いたエヴァは見る者を魅了する笑みを浮かべながら額に青筋を立て、右腕を持ち上げた。


「一応言っておくが穏便にな。凄惨なスプラッタは私は勿論あいつだって望まないぞ」

「………………わかってるよ」

「なんだその腕は?」

「腕相撲だ。私が本当にスプーン以上に重い物を持てないか弱い美少女か、試してみるといい」


 そのタイミングでシュバルツが言葉を挟むと、深いため息の後にエヴァはそう告げ、我龍は躊躇なく応じ、


「久しぶりねシェンジェン。元気してた」

「アイリーンさんまで! 何なの? なんでこんな集まるの!? 怖くなってきたんだけど!!?」

「私は久々に顔を合わせないかって誘われてやって来たんだけど、剣士三人の目的は天致勇美てんち いさみちゃんでしょうね」

「てんちいさみって………………」あぁ相手の大将イサミ・テンチか。そんなにすごい人なの?」


 我龍の悲鳴が木霊する中、アイリーン・プリンセスまでもが到着。

 シェンジェンが気になった事を聞いたところで彼女は頷き、


「あの子は独立国家倭都のお姫様。世間に顔を出さない大将軍様の一人娘よ」

「そりゃすごいね。でもそれだけであの三人は来ないでしょ。ていうことは」

「お察しの通り。彼女は十代という範囲内尾では現代最高峰の剣士よ。そんな彼女が因縁深い天才児と戦うってなるから、わざわざ見に来たんでしょうね」

「十代最高峰の剣士………………」


 男性陣三名がやって来た理由を説明。そのタイミングで別の方角に視線を飛ばせば、倭都の面々がいくつかの観客席に集まっている事を確認でき、この戦いが一部の層にとって重要度が高いものであることを把握。


『ではでは両者入場したので! 開幕前のワンタイムだ! 己がエゴを通すために! 全身全霊で動き回れ!』


 そのタイミングでワンダネスハイランド全域を超える勢いで発せられた放送部員の熱の籠った声を聴き、シェンジェンは首を傾げた。

 攻撃などをすることなく動き出した二人の選手。ヌーベと勇美の姿に疑問を覚えたのだ。


「多分両者の得意分野を考えての措置だろう」

「どゆこと?」


 その意図を察し答えたのはゼオスと肩を並べていたレオンで、尋ねられると周囲一帯に聞こえる声。まさしくこの場限りの解説者としての役割をこなす。


「ヌーベ・レイの得意分野はある程度の距離を取って中距離以上での一方的な制圧だ。対する天致勇美は近接戦主体の速度と威力に特化した形。つまり近くても遠くても、スタート地点を運営側が決めてしまうとどちらかに有利でどちらかに不利な状況が生まれてしまう」

「それを避けるのが目的ってことか。理解したよ」


 聞けば伝言掲示板に示された一分が減っていっている意味をシェンジェンとアイリーンは理解。

 レオンの言った通りヌーベはできるだけ距離を取ろうと動いており、それと同等かそれ以上の速度で勇美が髪の毛や着ているマントを揺らしながら追いかけ続けていた。


「流石に、そう簡単には撒かせてくれないか」

「当然だな。私を本気で引き離したいのなら、もう少し本気を出せ」

「あいにく僕は省エネ主義でね。ケチれる部分はとことんケチりたいんだ」

「貴様………………」


 エラッタとアレクシィが戦った戦場。今は元の形を取り戻した大森林を抜け、海中にまで追いかけっこは続き、それでもヌーベは勇美を振り払いきれず、残り十秒を切った。


「対戦相手に対する攻撃は許されてないが、遊具にはありだからね」

「!」

「怪我する前に後退する事を勧めるよ」


 状況が動いたのは試合開始三秒前。

 三段建てのメリーゴーランドや我龍と東一郎が戦ったジェットコースターがある遊園地エリアに入った数秒後、ヌーベの言葉に合わせ巨大ジェットコースターが崩れていく。

 これを前にした美少女剣士は両目を見開きながら後退し、


「お、これはヌーベさんが一本取った感じかな」

『それではぁ! 試合開始ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!』


 その光景を見たシェンジェンが声を弾ませる中、試合開始を告げるゴングが周囲一帯に木霊し、


「…………いや、少し甘かったようだな」

「え?」


 ゼオスがその声に応じると同時に勇美が仕掛ける。


 両者の距離はおよそ一キロ。


 間には崩れ落ちた巨大なジェットコースターの真っ赤なレールが横たわり周囲の様子を隠す砂煙やほこりが舞う中、彼女は右足を前に左足を後ろに置いた状態で僅かに腰を落とし、右手で腰に携えていた鞘をしっかりと掴み、左手で刺さっている刀の柄にそっと触れ、


「初太刀・砂利蜻蛉」


 一閃。


「!」


 繰り出された抜刀術は圧縮された砂を纏った飛ぶ斬撃であり、目標への道を阻むあらゆる物を破壊。

 僅かに威力は減衰したものの、その奥にいるヌーベの肉体に到達し、その胴体に食いついた。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


さあさあ始まりました第五回戦大将戦。

正直なところ自分でも、前回までと比べ書くことに力が入っていることを実感しております。

観客も豪華なうえ、これまでなかった前哨戦まであるわけですからね。


そんな二人の戦いですが、初手を制したのは天致勇美。

ここ最近はあまり出ていなかった地属性重視の彼女の戦い方に注目していただければと思います。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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