第二高校VS第七高校 七頁目
第二高校の面々は自分たちがやるべきであると考えていたことを行えたと言っていいだろう。
計画を実行する前から籠城戦になると想定し準備を行った。
その結果イレが率いていた第七高校の面々は彼らの側に近寄る事が出来ずにいるのだから、彼等の努力は実を結んだとみても問題はないだろう。
「よーしよしよし。よくやったモスキッチョ! お前のおかげで欲しいデータが集まったぞ~」
「ほ、本当ですかぁ!?」
「ホントだよー。あ、その影響でたぶんワタシに対する攻撃が激化するから、しっかーり守ってね!!」
「「はい(うす)!!!!」
惜しむらくは計画の根本的な部分。そもそもの大前提が間違っていたことであろう。
というのも彼等は二つ、大きな失態を侵した。
一つ目は籠城戦になると断定していたこと。つまり視野を狭めてしまった事。
第七高校側はそもそもの話として、真正面から攻め込む事を本命としていなかった。意識を目の前の戦闘に向けるための陽動として扱ったのだ。
『そういえばそもそもの話だけどさ、対抗戦の試合の決め方ってどうやってるのさ?』
事の発端は二校が運営用のテントの前で衝突する少々前。イレが動き出す直前に、シェンジェンが投げかけた疑問が全ての始まりだ。
これを聞いたところで側にいた我龍とヌーベは顔を見合わせ、答えを知らぬ我龍は肩を竦め、二年生のころから対抗戦に参加していたことで、その辺りにも詳しいヌーベが答える。
『巨大なクジやらサイコロを使ってはいるが、選手である我々に届く紙面はいつもと変わらない物だ。だからたぶん、いつも通りPCを使った自動生成だと思うよ』
『つまり………………ネットを利用したシステムっていう事かな?』
『そうなるね………………………………………………あ』
『それなら馬鹿正直に攻めるんじゃなくて、搦め手でやった方が成功率が上がると思うんだけどどうかな?』
その答えを聞いた瞬間シェンジェンはしたり顔でそう答えヌーベも肯定するが、直後に気が付いた。
今多くの生徒を率いて攻め込んでいる美女の得意分野がどこにあるかを。
「そいつマジですごいっすね。ハエにしか見えませんよ!」
「モデルはその通りだからね~。さぁて、パパッとやっちゃおっか!」
あらゆる科学分野に精通し、専門家や一部の職人しか使えないような技術を、一般家庭に普及できるよう簡略化させることに長けている三賢人が一人アル・スペンディオは優れた頭脳の持ち主であるが、娘であるイレもその才を引き継いでいた。
十代という若い身ながら、PCを使った操作に関しては父に遜色ないものであり、どれほど難解なプログラムであっても、自身の支配下に置く事ができるだけの力があったのだ。
「せ、先輩! イレさんがプログラムに直接攻撃を!!」
「外部から干渉されないよう十重二十重に守りを固めたんじゃないのか!?」
「し、しました………………しましたけど易々と破って来たんですよぉ!!」
もう一つの想定外の事態はまさしくその類稀なる手腕で、第二高校側の面々の想定を遥かに超える物であったことだろう。
籠城戦を行う傍らで他の可能性に関しても考えていた彼らは、相手が第七高校という事でイレによる干渉ももちろん想定していた。
そのためそれを弾くために様々なプログラムを仕掛けていたのだが、彼女はそれを突破した。
いやそれだけではない。
第二高校に通う少女がリアルタイムで飛ばしている妨害プログラムを片手間で処理し、その上で試合に関する抽選を弄れる場所にまで、たった一分で到達してしまった。
となれば後は、第七高校にとって都合のいい抽選結果に改ざんしてしまえば全てが終わるはずだったが、
『おぉっと早い! 早すぎる! イサミ選手! 一分もかからず我龍選手をノックアウト! 第二高校対第七高校の第四回戦は! 第二高校の勝利だぁぁぁぁ!!』
「ちょ!?」
一つだけ問題があるとすれば、時間が足りない。あまりにも足りない。
試合開始から三十秒も経たぬうちに、第四回戦が終わってしまったのだ。
「め、女神様ぁ!」
「連中の攻撃が激し過ぎます!!」
「っっっっ」
おまけに目の前にいる敵からの攻撃は熾烈を極め、撃ちだされた攻撃の一つが彼女の作った傑作や集まった生徒達を乗り越え、イレの真横に着弾。巨大な火柱が鼻先にまで迫っていた。
「弄れるのはたぶん一つが限度な気がする! どれにする!?」
その状況を前に、彼女は直感で判断する。
残された時間と迫る攻撃の熾烈さからして、自身が手出しできるのは『自分側の出場選手』『相手側の出場選手』『戦闘形式』のどれか一つであろうと。
加えて言えばどれを弄るべきかの判断をつける事がイレにはできないため、戦闘中通信をずっと繋いでいた幼馴染に判断を託す。
『こ、ち………………選手! 僕が………………………………!』
「きーこーえーなーい!!」
周囲一帯を襲う轟音が通信機越しからやってくる指示を塞ぎ、思うように動くことができない。
そうこうしている内に再び彼女の側に攻撃が着弾し、強風に晒され激しく舞う自身の美しい黒の長髪を抑えながら、彼女は己の直感に身を任せるしかないと断じ、
『――――――――――――だ』
「!?」
指を動かす直前に、声が聞こえる。
幼馴染の物とは違う。けれど信頼を置くことができるその声を聴いた彼女は迷うことなく動き出し、その数秒後、彼女が改ざんを終えたのに合わせるよう、第五回戦の抽選結果が第二高校と第七高校へと向け飛ばされた。
「さあ! さあさあさあさあ! 皆さんお待ちかね! 残る対戦カードの発表は今年度の優勝争いを行う二つの高校! 第二高校と第七高校に関する物だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
イレを筆頭とした面々の努力の成果。
それが発表される事になったのはそれからしばらく後。他の六校が行っていた第四回戦が終わり、それらの高校の第五回戦のカードが発表された後の事であった。
「ホントに上手く弄れたんだよね?」
「ホントーだって。もうちょっと信じてよ!」
第四回戦まで行っていたクジやサイコロを用いた仰々しい抽選結果の発表は、この第五回戦に関してはまるでなく、抽選結果を告げる度に、その人物の顔が映されていく。
『第二高校からはこのお方ぁ!!』
熱の籠った声と共にスクリーンに映しだされるのは、第二高校の長。
「第四回戦を最速で終わらせた彼女が! 再び戦場に舞い降りる! イサミ・テンチィィィィ!!」
白の長髪携え凛々しい顔つきをした美少女は、女性用ではなく男性用の制服に身を包んでおり、その上から漆黒マントを羽織り、多くの黄色い歓声に包まれながら前へ。
『対する第七高校の選手はこのお方!』
それに向かい合う青年はシェンジェン・ノースパスでは非ず。
「我々は! 貴方が出てくるのを待っていた! ヌーベ・レイィィィィィィィィ!!!!」
第七高校の大将であるヌーベ・レイで、今から戦う事になる二人はその視線を真正面からぶつけ、
『そしてそしてそしてぇぇぇぇ!!!! 彼らがぶつかりあう試合形式はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』
「失敗したね」
「…………なに?」
この戦いを待ち望んでいた多くの観客たちの声援と運営の声に包まれる中、ヌーベは目の前にいる美少女に語り掛け、対する美少女の口からは苛立たしげな声が発せられ、
「確実に勝つつもりなら、五回戦の対戦相手はエラッタにしておくべきだった。自分のエゴを出すべきじゃなかったんだ」
ヌーベのささやきと共に示されるのだ。
今回の試合形式が『ワンダネスハイランド』全域を使った、一対一のなんでもありのガチンコバトルsであるとと。
直後にイサミ・テンチは目を見開き、
「…………問題ない。どこであろうと私は勝つ。そして――――お前より優れていることを証明する」
しかし二度ほど瞬きすると元の顔に戻り、
『紳士淑女諸君は刮目せよ! これより行われるはオルレイユ全八校における個人戦ランキング第一位VS第二位の戦い! オルレイユ全高校生の頂点が! ここで決まるのです!!!!』
直後、この戦いの意味を解説の声が熱く語った。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
裏で行われている番外戦は終了。
イレちゃん大活躍の巻。そして今回の対抗戦におけるメインイベント。
オルレイユにおける八高校のトップ二人による戦いが始まります。
次回は前段階からの話となるのですが、メインイベントだけあってその時点で濃い目になるかと思うのでよろしくお願いします。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




