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第二高校VS第七高校 六頁目


 その日その瞬間は、アレクシィ・ディノイアにとって間違いなく最高の瞬間であった。

 愛しい人に求められていた勝利を掴むことができ、かかった時間も五分少々と悪くない。

 最高の形で次の四回戦へとバトンを渡せた自身が彼女にはあり、それゆえ周囲にある木々に止まっている小鳥のさえずりが祝福の言葉に聞こえていたほどだ。


「………………何をしていらっしゃるんですか? 速く試合終了の合図をしてくださいよ。いえそもそも、フラッグを取ったのに試合終了の合図が………………」


 その感覚が最高潮に達するための号砲を彼女は今か今かと待ち続けていたが訪れることはなく、痺れを切らした彼女は上空に佇む解説の青年にそう告げるが、帰って来た答えは思いもよらないものであった。


「申し訳ありません。未だ勝利条件を満たしていないため、それを口にする事はできません!」

「………………はい?」


 空中で佇む青年は言うのだ。まだ戦いは終わっていないのだと。

 目の前にいるエラッタが頭上に掲げているフラッグが折れてなお、戦いは続いているのだと。


「な、何をおっしゃるのですか? 勝利条件を私は満たして!」


 その言葉が信じられず反論を行うアレクシィは緑の短髪を激しく揺らし、


「残念ながらエラッタ選手が頭に置いていたフラッグは既定の物とは別の物。つまり彼女は、このエリアのどこかに隠したようなのです!」

「………………なん、ですって………………!?」


 耳を疑い体が固まる。

 思ってもいなかった展開が訪れたゆえに。


「ッ!」


 直後に勢いよく体を対戦相手であるエラッタに向ければ彼女は荒くなっていた息を整え終えており、


「ルール上問題がない事は、前回の対抗戦が終わった後に偶然知ることができたのでね。今回の試合で勝つようさせていただきました」


 およそ二か月前、シェンジェンとヌーベが戦った時の事を思い出しながらそう断言。

 『まさかこんな形で使う事になるとは』などと思ったりもしていたのだが、すぐに気持ちを切り替える。

 対戦相手であるアレクシィの様子が先ほどまでと大きく異なるものに変貌し始めていたからだ。


「こ、この広い大森林の中に! ふ、フラッグを一本置いた!?」

「そのようですね。それを折らない限り、アレクシィ選手の勝ちはありえません!」


 まず初めに彼女は先ほどまでの様子が嘘のように取り乱したがこれは仕方がないだろう。


 大海の中に目印のついた真珠を一粒だけ隠した。

 もしくは砂漠の中に同じほど小さな宝石の粒を隠した。


 エラッタのやったことはその類の事であり、どれだけ探すのが大変なのかを理解してしまった故だ。


「………………………………………………………………………………………………確認なんですけど」

「はい」

「今回の対抗戦で利用してる『ワンダネスハイランド』って、競技を行うにあたって結構な損害が出ていると思うんですよ。これって後で修復してもらえると考えていいんですか?」

「当然ですね。このまま返却などしようものなら、各所からクレームが来てしまいます」

「つまり………………どれだけ壊しても直してもらえる」

「まぁ………………そうですね」


 それがどれだけ大変な事なのかを理解している彼女のストレスは胸中で蠢き続け、限界を迎えたところで、彼女はキレた。


「だったらぁ、この辺り一帯を更地にしたところで問題なんてありませんよねぇ!」


 目から理知を感じさせる光を消し、勢いよく飛びあがりながらそう宣言。


「天秤よ! 我が意志に応えろ!」


 この展開をエラッタは既に予期しており、膠着状態が続いた先程までの数十秒の間に、自身らの戦場となるエリア一帯を能力の範囲として指定。

 あらゆる広範囲攻撃の威力を減衰させるよう戦場に指示を出し、


「壊しましょう。このエリアの全てを!!」


 その事を承知の上で、アレクシィ・ディノイアはもはや正気を感じさせない声で、手にしたカプセルの数々を落としていく。

 それらは全て広範囲を攻撃するのに適したものであり、


「こ、これは凄まじい! エリア一帯が斬撃に炎! 爆発に雷! いやありとあらゆる手段により駆逐されている! この猛攻の成果は――――――!」

「ッ!」

「流石の強さ。ただ広範囲を攻めるだけではいけませんか。では――――『枯れ/滅べ』」


 およそ三十秒ほど続いたところでただの破壊活動では効果がないと悟り、彼女は能力を込めたカプセルを複数投擲、

 木々が朽ち、かと思えば木っ端みじんに破裂していくと、フラッグが折れたことを示す信号を運営側がキャッチ。


「勝者! アレクシィィィィィィ・ディノイアァァァァァァァァァァァ!!」

(十分は無理でしたか)


 途中で戦闘が制止した時間を含めおよそ七分。

 それが第三試合にかかった時間であった。




「第三回戦が終わって、第四回戦のカードも決まった、か」

『うん。予想通りこっち側は兵頭さんが選出されて、あっち側はこれまで出てなかった大将のイサミさんって人が出るみたいだ。急いでくれ」


 それから一分少々の時間が過ぎた頃、番外戦を行っていたイレの元にシェンジェンからの電話がかかる。

 聞けば第四回戦の対戦カードが決まったという事で、彼等の予想によれば満身創痍の我龍では勝ち目がないのは当然のこと、ロクな時間稼ぎもできないであろうという事であった。


 であれば最速最短でこちら側の結果を出す必要があるという事であったが、それがどれだけ困難な事かをこの場に集まった学生たちはその身で体感していた。


(無茶言うなって。連中は少人数だが、この展開を完璧に予期してたんだ!)

(相手は画一的な動きしかできない人形なんだ。負けはしないさ。けどこの調子じゃ崩すのに数時間はかかる!)


 今回の戦いが籠城戦に近いものになると予期していた第二高校側は、第七高校の面々が来るまでのあいだ、というよりこの戦法を活かせると知った開会式の時点から今までのあいだに、十重二十重の罠を張っていた。

 その成果により百人以上の生徒とロボット達が思うように動くことができず、時間は刻一刻と消費されるというのが現状なのだ。


「さっさと結果を出して、第五回戦に間に合わせてあげるから大船に乗った気持ちでいなさい」

「ホントかよー」

「ホントホント。といってもあと十秒とかは無理だから一、二分は欲しいな~」

「わかったよ。それくらい頑張るよう我龍さんに伝えとくよ」


 ただこの場のまとめ役であるイレの反応は大きく異なり、緊張感の欠片もない声色で断言。

 多くの者が首を傾げる中、彼女は手元にあるPCを弄り続け、


「よし。入れた」


 そう口にする。

 それはつまり、この戦いが目の前で繰り広げられている光景が全てではない事を示していた。





 



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


第三回戦終了。そして番外戦も展開は先へ。

イレが何をしているのかは次回で。

そして第五回戦。クライマックスとなる大将戦もすぐそこです。

その辺りを期待していただきながら、色々な種明かしや話に更なる動きがある次回を見ていただければと思います。


それではまた次回、ぜひご覧ください

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