オルレイユ全高校合同対抗戦第5期番外戦 二頁目
今回の戦いが戦争のように激しい物であってくれと願った飯波団吉であるが、彼のこの願いは叶ったと言っていいだろう。
四方のうち前方を除く三方向を遊具や柵で囲われた運営本部のテント。
そこに押し寄せるのは百を遥かに超える数の学生と、同量程度は揃えられている様々な形をしたロボットの軍勢。
「三回戦の途中にまでなれば流石にバレるか。くじの操作は頼んだ」
「わかりました。先輩らも頑張ってくださいね」
「大丈夫だ。多人数戦は俺もこいつも大得意だからナ!」
「終わった後に女神様と話ができないかなぁ。それくらいの事をしてもらってもバチは当たらない仕事量だよなぁコレ」
これに応えるのはたった三人。
長さや髪型に違いはあれどみな黒い髪の毛をしており、顔つきにも差はあれど奇抜なものはない。
服装に関しても同じ学生服に袖を通しているなど、特徴的な部分があるわけではない。
言ってしまえばどこにでもいるような極々一般的な高校生だ。
「さぁ、仕事の時間だぞ『ミクロソルジャーズ』」
しかし当然ながら戦いの命運を決めるこの場にわざわざ馳せ参じた者がなんの力も持っていない弱者なわけがなく、先頭に立つ少年が声をあげる共に、彼の着ている服の袖から現れたのは人差し指サイズの小さな兵隊たち。
その数は自分たちの元にやってる軍団の倍近くは存在し、小さいという事を除けば持っている武装の質も悪くない。
「戦いの余波に巻き込まれたくなければ機材を持って早めに避難しろ。激しい戦場になるゾ」
言いながら別の少年が虚空に生成し置いた物は、大きさの違う二つの口を持った鈍色のトンネル。
一方はリンゴ一つ通すのが限界なサイズなのに対し、もう一方は人一人が通っても十分な規模を持っており、外側へとはねるような大きなカーブを描く作りとなっていた。
「お、あれ知ってる能力だ! 確か物の大小を変換させるとかいう奴だ。みんなに教えとこっと!」
「お、おぉ!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「イレ様が! イレ様がわざわざ我々のために言葉を投げかけてくださっている。か、感激だぁ!」
その正体をイレは知っていた。
ゆえに念話でロボット達の後ろを歩く学生たちに伝えれば、たったそれだけの事で感謝感激の声や嗚咽を漏らす者が現れ、各々が持つ力を全身の至る所に宿しながら、発する空気を暑苦しいものへと変えていった。
(き、気持ち悪い………………)
これに対する正直な感想は、胸の中で呟いた通りだ。
しかしこの戦の結果が自分の身振り手振り一つで決まるとわかっているゆえ、彼女はその思いを胸にしまい込み『お願いね!』と声高に宣言。
巨大化した敵兵たちがトンネルの外へと飛び出すと同時に構えた黒光りする様々な重火器。
それによる発砲音が盤上の外にある戦いの始まりを告げていた。
『ご覧ください皆様! ここに! 自身の高校の命運を賭けた戦いがもう一つ! 始まりました!」
その音を聞けば付近にいる観客たちも当然ながら気づくであろう。
そう判断したところで、唯一この戦場の余波が届く場所に残った飯波団吉が、各所に設置されているモニターに放送される戦場の数を増やす。
画面に映っている四つの戦場の中に、強引に五つ目の戦場を飛び込ませたのだ。
『相対するは第二高校の防人と第七高校の侵略者、イレ・スペンディオのファンたち! おっと! この言い方ですと善悪が生まれてしまいますね失礼! 実際のところは各々の目的を果たすために集まった戦士たちこそが彼ら! 戦う理由は自分たちの役目を果たすため! すなわち! 今回の試合における対戦形式や選手を! 実力で奪い合っているのです!」
それから数秒経て始まったのは、今回の対抗戦のまとめ役である彼自身による実況。
人に非常に似た姿をしている小人の人形兵たちが、向かって来る血気盛んなイレのファンと、人型から四足歩行の獣型。果ては恐竜を模した物など、様々な形をしたロボット達と戦う様子だ。
「流石イレ様製の機械兵。強いな! この試合が終わった後にもらえないかな!」
人形兵たちが撃ちだすのはただの銃弾に非ず。
焼夷弾や広範囲爆撃弾が中心で、そこにまざるシンプルな銃弾とて強烈な回転が施され、対象を貫通できるような能力が施されていた。
ただ様々な術技や能力から生徒達を守るように前に出ているイレが作ったロボット達は、全身を鋼鉄で施されている上で防御系の術式を組み込まれている代物であり、襲い掛かる全てを阻むその姿は、作り手の腕の良さを明確に示し、世間に知らしめていた。
「ヘビィーキャノン!」
「サンダーボール!」
「ボムボム!」
「九割は強度重視の物を持て! 残る一割は貫通と透化対策の奴だ!」
様々な形をしたロボット達に守られる中、その奥からはイレのファンたちによる投擲系の遠距離攻撃が撃ちだされる。
これを巨大化した人形兵が持っていた鋼鉄製の長方形の盾で防ぐ中、最後の一人が腕を掲げる。
「俺達二人だけなら負けてただろうな!」
「だから頼ム!」
「任せとけ。この場所が俺達の領域だって、イレ様に教えてやる!」
この場に先に来ていた彼らは、当然ながら自分たちの目的を邪魔するものが現れるこの展開を読んでいた。
であればその対策は十重二十重に貼られており、
「『トラップツール『チェンジ』』」
「ありゃりゃ?」
「え? なんで我々が!?」
「イレ様のロボッチョと仏頂面の人形のあいだにぃ!?」
その内の一つが、この瞬間に起動する。
数多の力を封じ込めた工具箱『トラップツール』が様々な場所に隠されているこの戦場は、もはや迎撃する側に立っていた第二高校の庭であり、その内の一つが効果を発揮。
範囲内にいた第七高校側の生徒達は弾丸吹き荒れるど真ん中へと移動させられ、わけもわからないうちに攻撃の嵐を受け昏倒。
『ハチの巣になって死んでしまうのではないかと心配している方もいらっしゃるかもしれませんがご心配なく! この場所には非殺傷になるための結界を敷いており、やってくる人物がそれを壊すような神器持ちでない事も各所センサーで確認しております! ですのでどうか! 心ゆくまでお楽しみください!』
運営が先に仕掛けていた仕組み。
規定以上のダメージを受けたという判定を食らい、何も出来ぬまま戦場から退去した。
ここまでの展開が戦闘開始からおよそ二分の事で、たったそれだけの時間しか経っていないが、戦況は大きな変化を見せる事になる。
すなわち
『おっとこれは速いぞ! アレクシィ選手! 対戦相手であるエラッタ選手の旗を奪ったぁ!!』
エラッタが頭の上に付けていた旗を奪われ、戦いを見守っていた放送部員の口から、第七高校にとって絶望的な言葉が飛び出した。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
日常回が中心の五章の名物、『こんな人らもいるんだ』という回。
個人的にはこういう大勢VS大勢を有象無象で片付けずにある程度とはいえ描けるのはちょっと嬉しいです。
4章までの連中の場合、『数の差なんて知らん』という面々が大多数だったので、どうしても『ちょっと強い能力者』もしくは『複数人のコンビでこそ力を発揮できる者』なんてのをかけなかったので。
超越者クラスは当然の事、万夫不当の面々も『数の暴力なんて知らん』って連中が大多数ですからね。
ただそれを延々と描いているわけにもいかないので話は先へ。
第二高校VS第七高校の試合も佳境に向かいます。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




