オルレイユ全高校合同対抗戦第5期番外戦 一頁目
第二高校副将アレクシィ・ディアノア。
文系少女をそのまま形にした存在である彼女の所有する力の中で際立って目立つ物。つまり厄介なものは二つある。
一つは収納系の普遍能力『カプセルシェルター』。
小さなカプセルの中に気体・液体・個体の区別なく、様々なものを大量に閉じ込める事ができるというもので、彼女はこれを数千個所有しており、広範囲に振りまく事を戦術の要としている。
もう一つが『歪み道』と呼ばれる彼女特有の希少能力で、虚空に生み出した青い渦に触れた物体の進む軌道を、その時々で自分の好きな方角に変えられるというもので、この二つを駆使して彼女は敵を追い詰める。
そんな強力な能力を持つ彼女はしかし、弱点として身体能力自体はさほど秀でておらず、彼女が戦う際はその点を補える者が側にいて、その者を自身の能力で援護するというのがオーソドックスな形。
いわば個人で戦った場合、脅威度が低い人物であった。
「厄介な事になりましたね。本当に!」
つまり今回の戦いは個人でも十分に戦えるエラッタが有利な盤面になるはずであったのだが、彼女が置かれている状況がそうはさせない。
つけ入るだけの隙は間違いなく存在するのだが、そこを狙い勝利する事を、今の彼女はできなかった。
第三回戦の目的が勝利ではなく時間稼ぎゆえに、己が能力を使い逃げの一手に専念するしかなかった。
「その様子ですと、こちらの思惑は既に気づいていらっしゃるんですよね?」
「っ」
「別に私は負けてもいいんですよ、今すぐに。その場合、後の二戦は貰えますから」
その姿を前にしてアレクシィ・ディノイアは笑う。
穏やかで人畜無害そうな顔に、意地の悪さを感じさせる笑みが浮かび、攻撃の勢いを増していく。
「できないのでしたら存分に逃げ回ってください。今この瞬間にフラッグを奪われても、勝負は終わりなんですからね」
少女の小さな掌で包めるサイズの小さなカプセルがいくつも投擲され、所定の位置に到着すると同時に光り出し開門。
四方八方から撃ち出されたマグマの波は周囲に生えた木々を燃やしながら中心に立つエラッタへと一斉に注がれ、それを躱したかと思えば、希少能力『歪み道』の力で軌道が変えられ、蛇のように執拗に目標を追いかける。
(十分………………いえ五分が限界と言ったところですか! 早めに頼みたいですね!)
それを躱したところでロクな反撃をすることができない彼女を追いかける魔の手は留まる事を知らず、度重なる追撃を躱しながら彼女は内心でそう毒づいた。
(さてさて。今のところ今回の裏ルールに気が付いたのは二校、いや一校だけか。このまま何も手を打たなければ勝敗は目に見えてるが………………どうなる?)
此度の対抗戦の運営を任されている身。
実況席の奥でふんぞり返っているようにパイプ椅子に座っているのは第一高校放送部の部長である飯波 団吉という少年であるが、彼は今回の裏ルールに関して最も肯定的な人物、というより発案者であった。
そもそもの大前提として、この対抗戦というのは高校同士での交流以上に外部へのPRが主目的であると彼は考えている。
自分たちの実力を披露し、新入生を募る。より良い就職先を見つけるというのが、本来の目的であると考えているのだ。
そしてそれを図るには単純な実力だけでは足りず、悪知恵…………いや頭脳やそれを成すために人を動かせる人望も必須であると考えていた。
だからこそ彼は今回の形式を提案し、大規模なお祭りをするためにここ『ワンダネスハイランド』を会場に。おまけにオルレイユのみならず全世界の人らが崇める絶世の美女。ルティス・D・ロータスからのコメントを貰う事までしてきて外部の視線を集めたのだ。
(このままだとつまらないなぁ)
そこまでした結果の今を、彼は残念がっていた。
彼の計画では第三回戦が始まっているこのタイミングで既に、各高の代表選手以外の様々な戦力が集まり、個人対個人では見れないような乱戦が巻き起こっている予定であったのだ。
しかし現状は第二高校と、自身の出身でありこのルールを唯一前もって知らされていた第一高校の生徒が数人訪れ自分達有利に対戦票を操作している程度で、心昂らせるような熱い展開は起きていなかった。
「はぁ………………せっかくなら戦争でも起きないかねぇ。全八校の生徒達が雪崩れ込んできて、この場所が崩壊する勢いの奴」
「縁起の悪いこと言わないで下さいよ。そうなったら僕達の身が危険ですよ」
思わずそんな発言をしてしまえば側にいた別の放送部員の不評を買うが、彼は素直に言う事を聞くこともなく、座っていたパイプ椅子から立ち上がると後ろにある休憩スペースに横たわり寝転がる。
「な、なんだぁ!?」
「ありゃ一体!?」
「ん? どしたどした?」
そのまま寝息を立て始めた彼が目を覚ましたのは数分後の事で、他の放送部員の慌てた声。そして運営用のテントが建てられている石畳の地面を揺らす地響きを観測したゆえで、気になった彼は体を持ち上げ他の者らと同じ位置へ。
「た、大量の生徒達が一斉に迫ってきています! それだけではありません! 少なくない数のロボットも一緒に!?」
「あれは第七高校のイレ・スペンディオの物です!」
「わ、わたし彼女のファンなの。サイン貰わなくちゃ!」
目にしたのは自分らの我を通すためにやって来た数百の大群。
イレ・スペンディオを旗持としたファンと機械の集団で、
「いいじゃないか! 祭りの始まりだ!!」
その光景を見て、飯波団吉は心弾ませ声をあげた。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
さてさて愉快な番外戦が開始。
長々と続くものではありませんが、三回戦の争いの裏で行われてる彼女を中心とした人物の大暴れをお楽しみいただければ幸いです。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




