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第二高校VS第七高校 五頁目


『さてさてこれより戦いは第三回戦! 午前の部も折り返し地点を迎えましたが、最も多くの観客が見守る第二高校と第七高校の第三回戦の競技形形はフラッグバトル! おなじみ旗の奪い合いだ! そしてそしてぇ! 戦場は全エリアの中でも最大の規模を誇る森林エリア! 木々に隠れ! 自然を利用し! 先にフラッグを折るのは両校の副将のどちらなのか! 引き続き目が離せません!』


 第三回戦の試合形式が発表される。

 それは代表選手にとって決して無視できるような内容ではないのだが、今回に至りシェンジェンの耳には全く届いていなかった。


「対戦カードの操作って………………八百長ってこと?」

「うん。そうだね」

「えっと………………マジで言ってる?」

「もちろんだ。この状況で嘘をつくような意地悪な性格じゃないよ僕は」


 ヌーベが口にしたのはシェンジェンにとってそれほど予想だにしていなかった言葉であり、しばしのあいだ思考停止により固まり、


「い」

「ん?」

「いやいやいやいや! 冗談でしょ会長! これってみんなでワイワイ楽しむ交流会! 競技大会だよ!? そんな卑怯な事をするわけないでしょ!?」


 かと思えば未だ信じられない様子で言葉を吐き出すが、ヌーベの様子は変わらず、そこまでしてやっとシェンジェンの頭は正常に働いた。


「ど、どうしてさ」

「何がだい?」

「どうしてそんなことするのさ! この対抗戦ってさ! スポーツマンシップ? だかに則った正々堂々としたものじゃないの!? そこまでする必要なんてないだろ!?」


 となれば随分と荒い口調と身振りをしながら質問をするが、彼がここまで取り乱したのは、この対抗戦に抱いていた印象ゆえだ。

 というのもシェンジェンは学校という場所は最低限以上には規則正しい場所だと思っており、こういう大規模な大会で薄汚い事が横行するなど思っていなかった。

 なのでそんな自分の思いが裏切られた事に対し、らしくもなくムキになっていた。


「いやむしろこれが普通。夏休み版対抗戦の在り方なんだよ。僕も気づくのが遅くなってしまったけどね」

「え?」

「今回の対抗戦は代表者による戦い『だけ』じゃない。学校全体の地力が試されてるというわけさ」

「地力?」


 そんなシェンジェンの思いを裏切るような事をあっさりとヌーベは告げ、思わぬ返答を聞き目を点にしてるシェンジェンに対し、此度の戦において重要視するべき点を語り出す。


「解説が言ってただろ。『力! 運! 知恵! その全てを駆使せよ』ってね。僕らはこのことに関してもっと意識を注ぐべきだったんだ」


 画面の向こう側では既に戦いが始まっていた。

 エラッタは自身が得意とする能力を発動し理を自身有利となるように狂わせ、それに対応するように敵側の副会長アレクシィも動き始め、ヌーベは両者の様子を見て『第三回戦はすぐには勝負がつかない状態』であると判断。

 十分な時間があると認識したところで、全身全霊で否定して来るシェンジェンに視線を戻した。


「それって………………ズルをすることを学校側が推奨してるってこと?」

「いや違う。持っている物を総動員しろってことさ」


 そのタイミングで呆気にとられた様子のシェンジェンがそう告げるが、目線を合わせるように座ったヌーベは頷かない。かぶりを振りながら穏やかな声で、シェンジェンが抱いた認識の違いを訂正。


「『力』というのは学校全体の戦力を示していて、『運』というのは今回の対戦に関する色々なランダム要素。そして『知恵』というのは、それ等二つをどのように自分側に持っていくのかを示していると僕は思っている」

「………………………………っ」


 シェンジェンは押し黙った。そして考えた。

 ヌーベが口にしている内容に誤りがないか?

 今までの試合運びと比較した際、あり得る話なのかどうか?


 沸騰している頭を必死に落ち着けながら自身の脳内で組み立てる。


「………………二敗」

「ん?」

「第二高校はここまで二敗してるよね。これっておかしくない? ズルしてるなら、もうちょっと有利な展開に持っていくでしょ普通」


 そうなるとまず気になったのはこれまでの試合運び。

 第二高校が既に二敗しているという状況で、未だヌーベの言っている事が信じ切れていないシェンジェンは右手の人差し指と中指を持ち上げながらそう指摘するが、ヌーベも意見を曲げる事はない。


「………………一回戦二回戦と連続で出た我龍君。三回戦まで都合よく僕や君が出ない事。それに用意された戦闘形式が彼等有利な事が、試合全体を操作してるっていう証拠だと僕は思ってる。その上で予想外の事があったとも思ってる。君の言う二敗に関してだ」

「予想外って………………まるで既に何らかの細工がされてるみたいないい方だね」

「今回の戦いは後になるほどポイントが高くなる変則的なものだ。その上で一番早く勝利を決定的にする場合、どの場所で勝てばいいと思う?」

「場所ってのは各試合の事だよね。それなら一点だけの一回戦は大勢に影響はないはず。で、三回戦までの合計が六点で………………四回戦五回戦を勝てば九点だから逆転は可能。けどこれだと結果が決まるのが遅すぎるから………………二、三、四回戦か!」


 ハッと気づいた様子を見せたシェンジェンに合わせ頷き、自身の考えを告げる。


「一回戦と二回戦を我龍君にしてきたのは、そこで確実に勝ち点を稼ぐためだったと考えられる。実際二回戦に関しては、相手の頭に血が上っておらず点数を稼がれる事に終始されていたら負けていたはずだ。その上で三回戦でも私達二人を避け、エラッタを出した。これが偶然だと思うかい?」


 そこまで聞いたところでシェンジェンは押し黙った。

 ここまで半ばムキになり否定していたが、聞けば聞くほど裏で策略が渦巻いている気がしてきたのだ。


「俺からも一つ質問だ。裏で細工をしてるとなれば、バレる前に全て終わらせるのがベストのはずだ。なのに二回戦は十分かかるような形式の競技にした。おかしくないか?」


 ここで口を挟んだのはそれまでシェンジェンとヌーベの言い争いを見守っていた我龍で、シェンジェンからしても確かにその点は気になるところであり、視線をヌーベに。


「それこそが裏で操作をしてる動かぬ証拠だと僕は思っているんだ」

「どういうこった?」


 投げかけられた問はヌーベの論からすれば煙たい話題のはずであるが、彼はその点こそ最重要であると念押しした。


「シェンジェン君も言ったが、今回の試合形式で一番効率よく勝ち越す事ができる方法は二回戦から四回戦を勝つことだ。ただその条件を通すためには前提となる条件が一つある」

「条件?」

「相手を気絶させない事だ。させてしまった場合、明確には説明されてないが、選手として選ばれなくなってしまうはずだからね」

「………………そういう事かよ」


 それは我龍を気絶させず敗北させる事であり、それを満たすための対戦形式がポイントゲットであったとヌーベは語る。


「………………ここまで長々と語りはしたが、正直なところ決定的な証拠はない。だが去年も代表として出場し、それまでの四回と違い変則的な形式だった事を知ってる僕としては、この予想は意識を傾けるだけの価値があると思うんだが………………二人はどうだい?」


 決め手とばかりに普段よりも真剣な声で言いきれば、シェンジェンも我龍も言い返さない。


「もしそうだとするなら………………僕たちはどうすればいい?」


 そんな時間が数秒続いたところで、意地になり粘っていたシェンジェンが折れた。

 可能性という段階ではあるが、思ってもいなかった策略が動いていると考える事にした。

 となると気になるのは自分の立ち回りに関してだが、


「申し訳ないとは思うんだがね、我々はこの件に関しては手出しできない。精々が時間稼ぎ程度だ」

「はぁ!?」


 そうやって奮い立たせた心は、けれど使う機会がないと言われ、呆気にとられた声がまたも飛び出た。


「な、なんで? テント内で待機してなくちゃいけないなんてルールなかったよね?」

「ないよ。けど八百長を止めるために出ていき、その際に三回戦が終わってくじ引きで四回戦の代表選手として仕込まれた場合、君はすぐには出られないはずだ。そしてその場合不戦敗になってしまう。それが五回戦まで続けば呆気なさすぎる幕切れが待っている」

「っ」

「当然この場に残ったまま遠距離攻撃を仕掛けられるなら話は別だがね」

「なら!」

「そもそも相手がどういう方法で八百長をしてるかわからないだろ? ならそれだって上手くいかない」


 するとヌーベが再び説明を行うが、そこにつけ入る隙はない。

 エアボムで何とかしようとしたシェンジェンであるが、ヌーベのいう通り敵の行った不正の正体がわからなければどうしようもないのは認めるしかなく、シェンジェンはこの時点でさらに認識を深めた。


 今回の対抗戦が、前回と違い学校全体を巻き込んだものであると。


「だからこそ重要になるのは、代表以外の残っている戦力だ」

「外にいる戦力っていうことだね」

「ああ。既に連絡は済ませた彼らの活躍を、我々は時間を稼いで待つ。それが今できる最善だ」

「………………彼ら?」


 とすれば気になるのは自分たちの代わりに外側の問題を片付ける戦力だが、これに関してはシェンジェンはあまり期待できなかった。

 なにせ数か月ここ第七学校で過ごしたシェンジェンは、ここにいる面々を除けば特筆すべき戦力が存在しない事を知っており、


「いるじゃないか。我々の学校には他校にはいない特異点が。口を開けば多くを洗脳…………失礼、魅了し、腕のいい技師である女性が」

「それって………………」


 提示されたヒントを読み解き、シェンジェンは即座に答えに至った。




「みんなー今から運営に突っ込むよー!」

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 ところ変わって戦場から離れた位置にある巨大な休憩エリアの一つ。

 そこで多くの人らを鼓舞していたのは、八つある高校の垣根を超えて人々を魅了する女神の姿で、彼女の声と持ち上げた拳に合わせ雄たけびがあがり、大地が揺れた。


 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


思っていたよりも遥かに長くなってしまった回。

そしてその影響で深夜遅くになってしまいました。本当に申し訳ない。


さて長々となってしまいましたが二回戦までに行われていた裏工作に関する推測回。

そして今後の展開を予想するお話です。

この予想がどこまで合っていたのかは、また今度に。


なんにせよコレで舞台は完璧に整いました。

僅かな話数で済ますつもりですが、夏休みという高校でのビックイベントに行うにふさわしい、学校VS学校の戦いが始まります。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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