第二高校VS第七高校 四頁目
「申し訳ありません! みなの手で構築した完璧な計画を、私が壊してしまいました!」
控室となるテントの中から聞こえてくる声があった。
甲高く男性のものとは決して思えぬその声の主は竜の鱗を纏った肉体に山羊の頭。それにそのどちらの特徴とも違う細長い尾を備えた奇妙な出で立ちをしていたのだが、発せられる空気や頭を下げる態度は真剣そのものだ。
「ガ、ガルゴネシア様………………」
「なっちまったもんは仕方がねぇでしょうよ旦那。問題はこっからどうひっくり返すかだが………………」
彼の誠心誠意の謝罪に応えたのは先鋒を務めた刃渡東一郎と第二高校の副将であるアレクシィ・ディアノアの二人であるが、二人の視線が向けられ先は、自分らの前にいるガルゴネシアではなくテントの最奥だ。
「気にしなくていい。元々二戦目は、外部に向けたパフォーマンスという意味合いが大きい。失態ではあるが、いくらでも改善できる点だ」
凛とした声が注がれたのは二人に続きガルゴネシアが縋るような視線を向けた後で、炭でも塗りたくったように真っ黒な制服に身を包んだ声の主はガルゴネシアを一瞥。
ガルゴネシアは感謝感激と言った様子で言葉と涙を流すのだが、視線の主の意識は既に別の場所へと向かい、
「だが次の戦いはそうはいかない。アレクシィ」
「は、はい!」
「期待している。貴殿の実力をもって、必ずやエラッタ・リードを下せ」
「はい! はい! お任せください! ワタクシ! 命に代えても勝利を貴方に献上します!」
声をかければ受けたアレクシィは法悦とした表情で見つめ返し、自身のふくよかな胸部に手を添えながらうっとりとした声色でそう誓った。
『対戦相手とルールが決まった時点で極めて劣勢な事が伺える状況でしたが、にもかかわらず我龍選手が勝ち越した理由は一体どこにあるのでしょうか?』
『おそらくそれは、彼らが激しく動きながら戦ったという点が大きいでしょう』
『と、おっしゃると?』
テント内部に設置されているモニターに流れる解説番組。そこでは司会席にいた面々がついさっきまで行われていた四ヶ所の試合に関して説明しているのだが、第二高校VS第七高校にあてたコメントはそのようなものであった。
『彼らはですね、戦う際に一か所に留まって殴り合うような事はしなかった。派手に動き回り、様々な場所に移動したてたわけですよ。そうすると望む望まぬに関わらず、ポイントとなる魚型ターゲットが近づくタイミングがあるんですが、ガルゴネシア選手がそちらに目もくれなかったのに対し、我龍選手が攻撃の合間合間にターゲットを射抜いていた。その結果、最後の最後の追い込みでギリギリ逆転できたというわけですよ』
「なーんてこと言ってるけど、ほんとぉ?」
続けて行われた解説を聞き、事の真偽を問いただすようシェンジェンが視線を投げかければ、そこにいたのは空腹と失った血を埋めるように牛丼を頬張り続けていた兵頭我龍の姿があり、彼は全身を襲う痛みとは別の理由で顔を歪め、かと思えば自身の胸を叩きながら不敵な笑みを浮かべた。
「当然だ。勉強が苦手なのは認めるが、こと戦いとなれば頭が回るんだよ俺は」
「…………ふーん」
『あ、それとですね、もしこの放送を我龍選手と同じ第七高校の代表の方が聞いていて、私の予想が正しいのかを明確に知りたいなら、彼に正直に質問してください』
『それって意味があるんですか?』
『ええ。というのも彼は実に嘘が下手でして、嘘をつく際に自分を大きく見せるため、胸を張ったり叩いたりしながら、不敵に笑うクセがあるんですよ。もしやってたとしたら、今回の勝ちは偶然によるところが大きいですね!』
「偶然じゃ~ん!! ぐ~ぜ~ん~じゃ~ん!!」
「うるせぇよチビ助! 勝ったんだから文句ねぇだろうが!」
ただ彼の作り上げた嘘の鎧は解説席の全てを見通すような簡単に砕かれ、見知った光景が第七高校のテント内で繰り広げられる事になる。
「…………二人とも」
「あ、次の対戦カードが決まったんだね。誰と誰? もしかしてまた我龍さんだったり?」
「二度目くらいならあり得るが三度目はねぇだろ。そこまで行くと何らかの不正を疑うぜ」
そんな時間が十数秒続き、ペットボトルに入っていた紅茶をゆっくりと飲んでいたエラッタが額に青筋を立て始めたところで、ヌーベが外から戻ってくる。
かと思えば副会長であるエラッタと何か話し始め、それが終わり彼女が外へと出ていくと、残る二人の方へと接近。
「あの感じだと。次はエラッタさんの番?」
「そうだ。次は両校の副将対決。エラッタと第二高校の副会長アレクシィさんの戦いだ」
「ちぇー。またお留守番かー。こうやって見てるだけだと選手だって自覚を忘れちゃうよ。四回戦こそ来ないかなー」
「お前の出番はねぇよ。四回戦も俺。その後も俺の、兵頭我龍フルコースだ」
「なんだとー!」
内容を聞きシェンジェンが口を尖らせ、我龍の言葉を聞くと両手を挙げながら喚き始めるが、ヌーベの表情は浮かない。
「よくわかってるね我龍君。四回戦は君だ。五回戦に関しては………………おそらくエラッタだ」
「………………なんだと?」
「え、どうしてわかるの?」
そのまま自身の予想を告げると我龍は呆気にとられた様子を見せ、シェンジェンは驚いた様子を示し、
「この対戦カードは操作されてるからね。このまま何もしなければ、私達の負けだ」
そんな二人に、ヌーベは自分がたどり着いた結論を告げた。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
前回が結構なバトル回だったので今回は箸休め。
前回の対抗戦と比べて大規模な今回の戦いの裏側。ある意味では本筋に迫ります。
おそらく次回はその説明回。それから事が大きく動くはずです。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




