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第二高校VS第七高校 三頁目


「あ、また大袈裟な演出をやるんだ。結果が出てるんだから意味なくない?」

「我々にとってはそうかもしれないが、観客にとっては違う。派手演出は目を引いて楽しませるし興奮させる。対抗戦が外部からの観客も招いている以上、意味がないなんて事はないさ」


 肩を並べるシェンジェンとヌーベの見つめる先で第二回戦の対戦カードが発表される。

 今回使われたのは一回戦の時とは違い巨大な六面ダイスで、一辺五メートルを超える正方形の物体は観客たちの様々な声に包まれながら園内を転がり回り、参加者の名前が記されている面を青空に晒す。

 すると各所にあるモニターには第二高校対第七高校の第二回戦の参加者として我龍の名前と、相手側の選手であるガルゴネシアという名前を表示し、続いて舞台がプールエリアであると発表。

 そちらに画面が映ったところで観客は、他の参加者は、目にするのだ。


 一回戦に続きボロボロの学ランに身を包んだ大男、兵頭我龍の姿。


 そしてそんな彼よりも二回りほど大きな相手選手。

 鋭利さと荘厳さを兼ね備えた真っ白な竜の鱗を制服の隙間からちらつかせ、しかし顔面に関してだけは竜とは大きく異なる物。

 捻じれた黒い角と、細長い瞳に四角い瞳孔を備えた、端的に言ってしまえば山羊頭の青年の姿を。


「な、なにあれ………………竜? それとも山羊?」


 初めて見る類の姿を目にして、画面越しに見ていたシェンジェンの口から呆気にとられた様子で言葉が零れるが、その意図を汲んだように、実況席からの解説が飛んでくる。


『一回戦から引き続き舞台に上がる我龍選手のお相手は! 竜人族と獣人族のハーフであるガルゴネシア・イドラ選手! 竜人族特有の強靭な肉体に属性粒子の素質。山羊の優れた知能に驚異的なバランス力を兼ね備えている強者だぁ!』

「知能は重要だけどバランス力って…………いる?」

「どうだろうね。けどまぁ、こういう戦場なら役に立つかもしれない」


 それを聞き終えると失笑に近い笑みをこぼしてしまうシェンジェンであるが、ヌーベの意見は異なる。

 戦場となる巨大屋内プールを見つめる目は、これから先の展開を予期していた。


『そんなお二人の今回の対戦形式は『ポイントゲット』! 制限時間は十分。一分経つごとに増えていく魚型のターゲットをより多く破壊した者が勝者となります! それ等が潜む場所は遊具の裏や壁! それにプールの中で泳いでいる事もあります!』


 そしてそんなヌーベの予想が正しい事を示す説明がなされ、


「それでは! 第二高校V対第七高校! 第二試合! 開始ぃぃぃぃぃ!」


 それが終わると同時に二人の参加者が質問などを挟む暇もなくブザーが鳴り響く。

 とすれば試合が始まったことを示すのだが、向かい合った両者は動かない。

 異様な空気を醸し出す第二高校の代表選手ガルゴネシアも、対峙する我龍も、既に現れている魚の形をした的に向かわず、視線を目前の存在へと飛ばし続け、


(取引をしよう兵頭我龍)

(…………なんだと?)


 それが十秒ほど続いたところで我龍の脳に声が届く。

 目前に佇む異様の影。対戦相手のガルゴネシアのもので、


(気丈に振る舞ってはいるがあのオヤジ顔との戦いでかなりの消耗を強いられたはずだ。ルールにより傷の治療は許されているが、疲労の回復は許可されていないのだ。限界は近いだろう?)

(………………何が言いたい?)

(口約束ではあるが互いに対する直接的な攻撃を禁止するというのはどうだろうか?)

(?)


 差し出された提案を聞き我龍は疑問を抱く。


 それではこちら側に都合がよすぎると。


 しかし少しして気が付いた。

 代わりに自分に、何を差し出せと言っているのかを。


(代わりに勝ちを譲れってか?)

(お前の事は事前に調べさせてもらった。相手を倒すことに特化した鍛え方をしており、今回のような的あてゲームは苦手なはずだ。そしてプライドが異様に高い。となればだ、無様に意識を失って白目を剥いだ姿を見せるのか? もしくはただポイントの取り合いで負けるのか? どっちの方が傷が浅いのかは一目瞭然のはずだ)


 念話で届けられる声は静かで深さを感じさせる厳かなものである。

 それこそ人によれば無意識のうちに彼の意に沿った答えを選んでしまうほどだ。


「………………」


 では我龍はどうであるかと言われれば、ゆったりとした足取りで足場となっている浮島の上を歩き、目の前の異様な存在に右腕を差し出した。


(握手か。意外に実直なのだな)


 その腕をそのような意味で捉えたガルゴネシアは、差し出された腕に添えるように真っ白な鱗で包まれた右腕を差し出し、


「がぁ!?」


 直後、彼の顔面に握り拳が叩き込まれ、浮島から離れたかと思えば水面を刎ね、プールサイドに辿り着いたかと思えば水色の壁に激突。

 屋内が大きく揺れた。


『こ、これはぁ! どういう事でしょうか! 二人のあいだで何らかの取引があったかと思えば、我龍選手が断ったというのかぁ!?』

「き、貴様………………貴様ぁ!!」

「本当の声はずいぶんと甲高いな。かわいいじゃねぇか」


 直後にガルゴネシアの口から発せられた声は我龍の口にする通り実に甲高い。

 鈴の音、いやガラスが割れる時に生じる音を連想させるほどで、対峙していた我龍の顔には酷薄な笑みが張り付いていた。


「お前の交渉を断った理由は二つだ。一つはやり口が汚ねぇ。発せられる空気が裏切る気まんまんって感じだった」

「!」

「で、もう一つは大前提が気に入らねぇ。勝手に人が負けるって決めてるんじゃねぇよクソ野郎!」


 直後にピースサインを作った上で一つずつ説明していきながら我龍は近づいていき、


「それにだ、俺はこのゲームの攻略法を既に見つけてる」

「こ、攻略法だと?」

「そうだ。一分ごとに的が出てくるってことはだ、最初に出てる奴を全部取られたとしても逆転の目はあるんだろ? なら簡単だ。最初のニ、三分でお前をぶちのめして、残り時間を的壊しに使う。簡単だろ?」


 尻餅をついたまま立ち上がらないガルゴネシアの前に立ち見下ろすと、自身がこれからする予定の事を説明。

 その全てを聞いた時、目前にいる山羊顔の存在は立ち上がり、目から紫色の怪しい光を放った。


「こっちは本気でお前に配慮してやったってのに好き勝手言いやがって! ならばもういい! お前は無様な姿を晒して! その上でポイントでも大差をつけられた上で敗北しろ!」


 かと思えば彼の全身を強烈な同様の色の炎が包み、


「おいおいおいおい。自分から焼き魚になるとはどういう了見だよ!」


 その姿を見て我龍はそう告げ拳を構えた。


 第二試合がこうして始まる。




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


というわけで始まりました第二回戦。

対戦相手であるガルゴネシア・イドラはこれまでにはあまりいなかったタイプ。

彼の出生や日々の生活だけでも数話描ける気がしますが、それはまたの機会に。


面白おかしな山羊人間と我龍の奮闘にしばしお付き合いください


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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