第二高校VS第七高校 一頁目
縦横共に十キロ以上もの土地を使用し建築された『ワンダネスハイランド』は、惑星『ウルアーデ』において有数のテーマパークである。
世界最大の貿易都市であるオルレイユの特徴を十全に発揮したこの場所には、メインとなる遊園地は勿論のこと動物園に水族館。大森林に海水浴場。活火山や雪原がエリアごとに区分けして用意されており、四大勢力の文化や食事、それに日替わりのイベントまで楽しめるゆえに、一日どころか一週間であろうと滞在者を楽しませることができると評価される一大レジャー空間である。
そしてそれほどの規模ゆえに生徒達が全力で戦ったとしても周りに与える被害は最小限で、他の生徒達も好きな場所で好きな事をしながら、屋内外の様々なところに設置されたモニター越しに各校代表選手の試合を見る事が出来たのだが、大多数の視線は今、一ヶ所に集中していた。
小島や海の家が並ぶ海水浴場エリアでの海中戦ではなく、
大雪原で行われているフラッグバトルでもない。
そして活火山エリアで行われている空中戦にさえ視線は向いておらず、
「ぬぅん!」
「ぜぇい!」
遊園地エリアの名物である、高さ二キロからの急速落下に宙返りが特徴のジェットコースター『クリムゾンフライ』。
その上で拳と刀をぶつける現在トップである第二高校と、その後を追う第七高校の代表二人に注がれていた。
「いくつも戦場を渡り歩いてきたんだ。十分にわかってはいるんですよ!」
「あぁ?」
「ですけどねぇ! 何度見たって! ただの拳が刃物をはじき返すのは慣れませんね! そこは斬れておくべきでしょうよ!」
「知るかボケ!」
対峙する二人の闘志。
彼らが得物とするのは拳と刀で、常ならば一方的な力関係が形成されるべきであるが今回に至っては話は大きく異なる。
鉄を打ち、熱し、更に叩き続ける事で鍛え上げた美しさと鋭さ、それに硬度を備えた刀。
これとぶつかり合うことになる拳骨は、本来ならばあっさりと切り裂かれてしまうはずであるが、鋼属性粒子を纏う事で鋼鉄に達した我龍のそれは、ぶつかる度に重厚な音を発し、火花を飛び散らせる。
それを高速で走り続けるジェットコースターの上で、どのような揺れに襲われ姿勢が変わろうと秒間百回以上の勢いでぶつけ続けているのだ。
観客たちの熱が高まるのは当然であった。
「ふん!」
「おいおいマジか。結構気に入ってたんだぜこの刀!!」
状況に変化があったのは衝突開始から十五秒後。延々と走り続けていたジェットコースターの速度が緩み上へ上へとゆっくりと上昇していくタイミングで、一際力を込めた我龍の拳が刃渡東一郎の持つ刀の刀身部分を叩き折った。
「ここまでだな。中々楽しかったぜ老け顔野郎!」
得物を失った事で繰り出す拳に対応する手段がなくなった東一郎へと向け、勝敗を決するべく拳を撃ち込み地面へと叩きつくさんとする我龍。
そんな彼の身を抑え込んだのは、頭上から勢いよく落下してきた六本の刀だ。
「っ!」
「そう簡単に仕留められるわけがないでしょうに。それと老け顔に関してはあんたには言われたくないな兵頭我龍!」
東一郎の家系『刃渡家』は優れた鍛冶師の家系で、製鉄から完成後の試し切りまで、自分らで全て行っているのが特徴だ。
そんな彼等であるが、鍛冶師として働いている時間と比べると、戦場に赴く機会というのは少ない。
なので一度の戦場で何本も使えるよう、貴族衆が制作している『異空間収納ボックス』の中に五十本以上の刀を筆頭とした武器を紫紺で起き、好きな時に取り出し扱えるようになっていた。
「とはいえそれはお互いさまでしょうな。俺とてあんたをそう簡単に仕留められるとは思っちゃいねぇ。けどな!」
「てめぇ!」
「俺達第二高校は『勝つこと』に重きを置いてるんでね。正々堂々戦うことより、勝つことに専念させてもらいますよ!」
そうして危機的状況を脱した東一郎は、二キロにも及ぶ急降下により体を強張らせた我龍の四肢を固定するよう更なる刀を自身の背後にある空間を歪ませ発射。彼の着ている学ランとシートを縫い付け、自身はと言えば落下の衝撃から逃れるよう空へ。
「そうら!」
ジェットコースターが落下を終えるタイミングを完璧に見極めると、手にした刀を二振り。
これによって生じた光の斬撃は我龍が乗っているジェットコースターの前後にある真っ赤なレールを切り裂き、そのまま地面へと叩きつけた。
「上手く嵌りましたね」
ここまでの流れは全て東一郎が想定した通りのものである。
「ルールを見誤ったな」
「む!」
それでまだ勝敗が決しておらず驚くとすれば彼のミスで、一体何があったのかを説明したのは、この会場にいた解説役の声である。
『おっとこれは! 仕掛け人の東一郎選手にとって予想外か!? 落下した我龍選手は地面ではなくジェットコースターのシートの上だ! これでは勝敗はまだ決していません!」
そうだ。
今しがた解説された通り、我龍は地上へと落下したが『地面に足をついていない』。
これでは未だ勝敗は決まっておらず、自分の体とシートをくっつけていた刀を抜いた我龍は、仁王立ちの状態で空中に浮かんでいる東一郎を見つめ不敵な笑みを浮かべ、
「『勝つことこそ正義』、ねぇ。流石は対抗戦優勝回数最多の第二高校様だ。徹底してる。なら俺もその暗に乗ってやってもいい………………!」
空に浮かぶ太陽を手中に収めるよう腕を伸ばし、能力を発動。
「こいつぁ!」
瞬間、東一郎の左腕に黒鉄色の腕輪が装着され、同様のものが我龍の左腕にも。
そしてその二つを繋ぐように真っ黒な鎖が伸び、それがしっかりと繋がったのを確認した瞬間、我龍は渾身の力で真下へと引っ張った。
「っっっっ!」
となれば訪れる未来は簡単だ。
ジェットコースターの落下以上の速度で東一郎の体は下へと向かい、その身を固いコンクリートへ。
「ちぃ!」
その直前に真下に手持ちの中で最も頑丈な大槍を発射し地面に突き刺すと、それを足場として地面への衝突を防ぐが、彼にとって危機的状況は終わらない。
「やるじゃねぇか――――――それならやっぱり俺流でいかせてもらうぜ!」
「うぉ!」
自分の側に来るよう我龍が鎖を引き寄せ、東一郎の体は再び己が意志に反し空中へ。
防御するために何か仕出かすよりも早く、彼の顔面に巨漢の拳が突き刺さった。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
さて始まりました第五回(本編では二回目)対抗戦第一線。
拳と刀という題材は幾度となく扱いましたが、このくらいの実力者の戦いは書きやすいですね。
三章四章というトップレベル同士の戦いになると、『戦場利用』という言葉が完全に抜け落ちる次元になるので、ちょっとしたギミックを仕込むなら彼等クラスがちょうどいいです。
勝ち方に気絶や死亡以外があるとなお良し。
そんな彼等の試合は今回が前半戦。次回が後半戦です。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




