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オルレイユ全高校合同対抗戦第5期 一頁目


「さて諸君。早速だが午前の部は今年における大一番だ」


 八月二日午前九時。第七高校の代表選手のために用意された外を見渡せないよう細工された黒塗り高級車の中で、生徒会長のヌーベ・レイが此度の戦いの参加者である三名の顔を見渡しそう告げる。


「いきなりだね。どういうことか説明してもらっても?」

「当然」


 とすると同じように車内にある長方形の机を囲っていたシェンジェンが頬杖を掻きながら質問し、受けたヌーベは懐から一通の封筒を取り出し机の上へ。

 シェンジェンだけではなく此度の対抗戦に出る事になった兵頭我龍とエラッタ・リードの二人もそれを覗き込み、その意味を察した。


「こういうのってさー普通最後の最後まで取っておいて盛り上げるものじゃないの? 第五回でやっちゃうのはもったいなくない?」

「無茶言うなやチビ助。お前の言ってるのはここまでの成績ありきのものだ。んなことは未来でも見通せない限り不可能なことくらいわかるだろうが」

「そりゃそうだけどさぁ。そこらへんは運営側が細工してうまい事避けるべきでしょ」


 そこに記されていたのは第五回となる全高校合同対抗戦の対戦カードであったのだが、午前の部にはこう書かれていた。


 第二高校VS第七高校、と。


「最大の盛り上がりどころなんだからさぁ、後回しにしておくべきだと思うけどなぁ」


 シェンジェンが続けてそう告げる理由は、両校の今年度の成績。

 シェンジェンらが所属する第七高校が第二位であるのに対し、第二高校は第一位。

 両者の勝ち負けの差は一つしかなく、順当に行けばこの二高校のどちらかが優勝するという結果になるはずで、そんな大一番をここで消費してしまう事にシェンジェンは不満を持っていたのだ。


「……………一つ気になるのは今回の戦闘形式が特殊な点ですね。普段の対抗戦でしたら奇数が参加人数になっているのですが、今回に限り偶数なのはどういった理由なのでしょうか?」

「いい会場が取れたから、少し形式にこだわった結果らしい。詳しい事はまだ私も説明されていないがね」

「生徒会長も行先に関しては………………」

「知らないね。だからちょっとワクワクしてるんだよ」


 ここでこれ以上同じ話題が続く事を煙たく思ったエラッタが話題を変更。

 ヌーベが自身の考えを述べ、我龍は無言でそちらに意識を。

 残ったシェンジェンはと言えば『どんなルール、どんな相手だとしても、倒してしまえば問題ない』という思考であったため、この話題に関してさしたる興味を抱くことがなく、長机の上に上半身を預け沈黙。

 車が起こす僅かな揺れに体を預けている内に瞼が重くなっていき、


「お待たせしました。他校の代表者の方々がお待ちです」

「ありがとうございます」

「………………あーもしかして僕寝てたかな?」

「ぐっすりだったぜ。緊張感のない奴だ」

「命がけの戦場じゃなくて競技だからね。こういうのはほどほどに肩の力を抜いておいた方がいいのさ」


 十五分後、車が止まり、運転手を務めていた中年男性が後部座席の扉を開き四人は外へ。

 照りつける夏の日差しに瞳を細め、それからしばらくして周囲を見渡す余裕を得て知るのだ。

 此度の戦いにおける会場の姿を。

 

『さあさあやってきました! 現在第二位! 超新星シェンジェン・ノースパスを加え、破竹の勢いで勝ち進む第七高校! 彼らが今! やってきたぞぉ!』

「ここって………………テーマパーク?」


 辿り着いた場所にいたのは対戦相手である第二高校のみではなく全八校。

 つまり延べ三十二人の代表達がいたのだが、彼等がいた場所は鉄骨を幾重にも並べる事で構成された特設展望台で、そこから目にする光景は普段とは大きく異なる。


 ジョットコースターにメリーゴーランド。観覧車などのお決まりのアトラクションは勿論の事、木々生い茂り巨大な石造りの塔が並んでいる大森林や、いくつものウォータースライダーを設けた巨大なプールも設置されており、他にも大小様々なアトラクションや、飲食店などが揃った屋内施設が存在していた。


「ここは………………ワンダネスハイランドか!」


 この状況で声をあげたのは以前の戦いでシェンジェンが下した第一高校の主将。ピエロの格好をした青年で、それを聞き司会役の男性がマイクの前で破顔。


「その通り! 此度の戦いでは! オルレイユの代表であるルティス様の許可をいただき! オルレイユ最大のテーマパーク『ワンダネスハイランド』を会場とさせていただきます!」


 オルレイユ内において、いや惑星『ウルアーデ』においても最大のテーマパークを戦場とすることを大々的に発表し、続けて説明するのは此度の戦いの形式。


 一つ、戦場となる場所は戦闘の度に変更するということ。これはくじ引きによって決められ、原則として一対一の対戦形式になるという事。


 一つ、戦闘のルールもまた、くじ引きで決まるという事。


 一つ、メンバーは自由には決められず、これもまたくじ引きで代表四人の中から選出される事。


「ランダム満載ってことだよね。ちょっとばかし面倒だけど、誰が相手でもやることが変わらないから問題ナシでしょ」


 ここまで聞いたところでシェンジェンがそう呟き、別の学校の代表者たちも内心で賛同するが、問題は続くルールであった。


 一つ、この方式で行う対戦が合計五回である。そして点数計算に関しては一回目が一ポイント。二回目がニポイント。三回目が三ポイントと増えていき、五回戦った上で合計ポイントが勝っていた方の勝利となる。


 つまり先に三勝していたとしても、残る二戦で負けた場合、四ポイントと五ポイントの合計九ポイントを奪われ、総点数差で敗北するということである。


 ここまででも中々にクソなルールであるとシェンジェンは考えるのだが、彼が最も問題視したのは続く説明にある。


『次に注意点をいくつか! まず第一に! 今回の戦いでは参加者が全員参加するとは限りません! 人によっては三回、人によっては一度も選ばれない可能性があります!』

「………………面倒な事をするなぁ」

『さらにさらにぃ、ルール違反となる行為に関しても一応説明を! これに関しては至ってシンプル! 戦闘時以外で、他チームに対する暴力は認められない! 以上です! では第五回全高校対抗戦を始めるぞぉ!」


 そんな感想を抱いたのはシェンジェンだけではないようで、数人がげんなりとした表情を浮かべる中、司会役の青年は取ってつけたような禁足事項に関しても説明。

 戦いの始まりの合図を告げると同時に、全八校へと向け最初のくじが人の身を呑み込めるほど大きな木柱として飛来し、


「最初は………………俺か!」


 第七高校は兵頭我龍が選出。

 彼は壇上へと移動。


「兵頭我龍だな」

「あの人は………………」


 対する彼の対戦相手である人物を、シェンジェンは知っていた。

 それはつい数日前に共に戦った年齢以上に置いた見た目をした青年。

 刃渡東一郎であり、二人が真正面から向き合うと同時に、その二人の間を分かつように新たな木柱が飛来。分厚い鉄製の床を貫通し突き刺さり、


『最後に一つ! ここオルレイユの長であるルティス様から伝言です!』

「ルティスさんがわざわざ伝言? すごく珍し!」

『『力! 運! 知恵! その全てを駆使せよ』とのことです! それでは! 一同! 戦場へ!」


 司会進行役を務める青年の張りのある声と共に、第七高校と第二高校の代表者両名の姿が消失。


「ここ、は!?」

「どうやら走っているジェットコースターの上のようだな!」


 次に彼らが姿を表した場所は、真っ赤なレールの上を高速で駆け抜けるジェットコースターの座席の上で、やや離れた位置にある席に転送された二人の側へ、真っ黒な翼を生やしたそばかす交じりの野暮ったい顔をした少年がやってくると手にしたマイクを口元に持っていき、


「此度の戦いのルールは『離れない事』。ジェットコースターの上。及び真っ赤なレールから離れ、先に地上へと落下した方の負けとなります」


 そう説明。

 鋼属性粒子で構成したゴングを鳴らそうと腕を振り上げる中、


「対抗戦最多優勝校の代表選手。その実力を見せて貰おうじゃねーの!」

「お相手しよう!」


 それよりも早く、拳と刀が衝突。

 戦いが始まった。


 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


少々長い前置きをしましたが、前回語った通り今回からは再びの対抗戦。

前回と比較して色々と多くのイベントが起きる仕様でございます。


その説明やら前準備やらが色々とあった結果、いつもよりも文章が固かったり変になってる自覚があるので、この点は自分としても反省したい所存です。


たぶん次からは細々とした細工も減るので、いつも通りにはなっていると思いますが、なんにせよ次回は兵頭我龍VS刃渡東一郎。


拳と剣が普段の戦いとはまるで異なる戦場と勝利条件の下で荒れ狂います!


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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