新世界日常記 八頁目
「この~! だせ~だせったら~! 神様にこんな事しちゃいけないんだぞ~!」
「あー聞こえない。聞こえないなー」
「いいから出せよ~! うわぁぁぁぁぁぁぁん!」
「最高の鳴き声だな! 胸がスカッと爽やかだよ! あ、泣いてるところ録画しとこ」
高校内で行われるような規模を超える戦いが終わって数分後、そこに広がっていたのはシェンジェンの腹の底から発せられる笑い声と、少年の形をした神の鳴き声であった。
「なんで僕だけなんだよぉ。少女型はもう出てるじゃないかぁ………………!」
「彼女は素直に誤って僕に二度と迷惑をかけないって誓ったからね。それなら出してやってもいいと思ったんだよ。で、お前は」
「………………………………………………グスン」
「はいダメー。誓うまで二度と出してやらないからなぁ!」
「あ、あのさシェンジェン君。そろそろいいんじゃないかな。かわいそうだよ」
それはイジメの現場を見ているような心苦しさがあり、良照を筆頭とした面々が同情するような空気を発するが、シェンジェンは一歩たりとも譲らない。
「はぁ!? 僕がここ数日どれだけ苛め抜かれたと思ってるんだ!? その苦しさを思い知らせて、二度と同じことをしないようにしてやるんだい!!」
なにせここ数日の彼の生活は本当に苦しいものであった。
食事は奪われ、睡眠時間は削られた。仕事や学校に行っている最中に勝手にお金を使われていた事も多々あり、やり返そうとしても触れられないため勝負にならず、封印しようにも三対一では適わなかった。
その際に溜まった鬱憤を全て、シェンジェンはここで吐き出す腹づもりであった。
「といってもこのままお前を観察してるだけじゃつまらないな………………確かチョコレートとかシュークリームが大好きだったよな。じゃあ買って来てあげよう」
「え、くれるの?」
「なわけないだろ。お前の前で僕が全部食べるんだよ! 一個どころか一切れだってやらないからな!」
「うぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「ダハハ! いい鳴き声だな! てかどれだけ叩いたって無駄だって。封印術ってそういうもんだからなぁ!!」
自身を閉じ込めてる毛封印術を中から叩きながら涙を流す姿を、シェンジェンは腹を抱えながら笑う。
その姿を見た者らの中には『流石にこれはひどすぎる』という風に考えた者も多く、その代表として生徒会長のヌーベが一歩前に出るが、言葉を発する事はなかった。
「ほれほれ。もういいじゃろシェンジェン。その子も本気で辛そうじゃし、そこまでにしてあげないさい」
「あ、そっちの方も終わったんだね。お疲れパイセン」
「こ、このジジイなにもんだ。近接戦でここまで圧倒されたのは初めてだぞ………………!」
「あーそりゃまあ仕方がないね。それだけの格があるから」
彼が何かを発するよりも早く、彼等の前に現れる影があった。
それは木樽を背負うような格好で我龍を背負っているクレマリア親父型で、その姿を見てシェンジェンは苦笑。
「話を戻すとな、お主は仕返しをすると言うとるがそれにだって時間の枷があるはずじゃ。やられた分し返すと豪語するにしたって、冷静に考えれば学校や仕事が詰まっているんじゃ。難しかろう」
「そりゃ………………まぁね」
「やりすぎる事で時間を無駄にして、結果友人たちとの時間を削ってしまう。それはお主とて望んでいないはずじゃ」
諭すように話をされると言葉をすぐに返せず、次第に持ち上げていた頭を下していく。
「まぁ久々の現世ではしゃぎ過ぎたのは確かじゃからな。頭を冷やすのも兼ねて、ワシらは帰らせてもらうとするよ」
「貴方だけ………………いや少女型までならいいんだけどねぇ。どうにかしてアイツだけ召喚しないとかはできない?」
「ワシらは三位一体なのでな。そりゃ無理じゃ」
「そっか。残念」
「バイバイシェンジェン! また何かあったら呼んでね!」
同時に熱していた空気は覚めていき、少女型が手を振りながら現世から退去。シェンジェンは鎌鼬で側にあった檻を砕き、涙を流しながら出てきた少年型は、この場にいる事が出来なくなったのか続いて現世から退去。
「……それにしても少し驚いたわい。まさかお主にここまで多くの知人友人ができるとはのう」
「どういう事さ?」
その光景を目にして、他の者達も此度の騒動が終わった事を認識し去っていく。
そうして周囲には数人、シェンジェンと縁深い者しか残らなくなったタイミングで、親父型はしみじみとした様子で呟き、疑問を感じたシェンジェンは首を捻った。
「強い力を持つ者は孤立する。それが世界の常識じゃ。特にお主のような少年の場合、周りにいる同年代から『怪物』などと恐れられ周りから孤立する事が常じゃったからな。こんな風に学校に通い、仲間を集められるようになるなど初めて見たんじゃよ」
「いつの話だよそれ。蒼野さんが神になる前、イグドラシル政権の時だってそんな事はなかったよ!」
かと思えば耳に飛び込んだ言葉を聞きケラケラと笑うのだが、それを聞くと親父型は遠くを見つめ、
「そうか………………あやつは真に偉大なものであったのだな」
そう発言。
「?」
気になったシェンジェンが尋ねようとするも時すでに遅く、最後まで残っていた風の神は消失。一陣の風となり、現世から去っていった。
「まぁいいか! 考えたってわかんないだろうし、とりあえず――――自由だーーーー!!」
その様子に対し複雑な感情を抱いた彼は、けれど深く追求する事はしなかった。
数日ぶりに戻って来た自由を祝福するよう声と腕を上げ、心底からの喜びを表現した。
「うわぁ、どれも九十点超えてる………………シェンジェン君そんなに勉強してた覚えがないんだけどなぁ」
「昔っから物覚えがいいんだよね。死んだ父さんがすっごく頭がよかったから、それが受け継がれてるのかも」
「はぁ~羨ましいなぁ」
それからしばらくのあいだは実に平穏な日々であった。
期末テストの結果に関してはなんら問題がなく、仕事の方も危なげなくこなしていく。
「えーそれでは、これで一学期を終了とする。わかってると思うが『ハメを外し過ぎて死んでしまいました』なんて事にならないように。君たちが死ぬと親御さんや友人がすっごく悲しむのでね。それを覚えておいてほしい。あと宿題を忘れないように。こっちは先生がとても悲しい目に合うのでね」
一学期も無事終わり、出された宿題に関しても最初の一週間で全て終わらせた。
問題があったのはその時点から更に数日後。
八月の始めに行われる第5期オルレイユ全高校合同対抗戦の時の事であった。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
皆様お久しぶりです。無事今回は更新できました。
そして色々あった一学期が終了。いくつかのイベントを用意しているのですが、その第一号は二月おきに行われる模擬戦!
今回もまたド級のネタを用意しておりますのでお楽しみに!
それではまた次回、ぜひご覧ください!




