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戦星の封印術


 これからシェンジェンを筆頭とした学生たちは風の神クレマリアの討伐を成し得ようと動き出すのだが、ここで大前提を一つ話しておこう。

 それはシェンジェンら学生側は、どう足掻いてもクレマチスを『打倒』する事はできないという事だ。


「効かないねぇ………………風だから!」


 そもそもの問題としてだ、彼等の体は血肉で形成されていないのだ。

 その身を構成しているのは各々の属性であり、人間に近い形を成しているのは本人達の意思によるところが大きい。

 つまりどのような攻撃を繰り出そうとも肉体を通り抜けるし、痛みを感じる事もない。

 このような輩に対する一般的な対処法は、霊体や気体に対する攻撃を通す特殊な力の発動。つまり能力によって攻撃を通すということになるのだが、問題は彼等が今対峙している神が持つ特性。


 『属性を司る神は、神器の持つ能力や不条理を無効化すr因果律を秘めている』というものである。

 これにより学生側は、彼らを最もオーソドックスな能力による攻略という手段が不可能となり、であれば残された手段は大別して三つ。


 一つ目は属性神にさえ攻撃を通せるほど卓越した技術。

 シュバルツやガーディアを例とした、技術を磨き抜くことで概念を拡張するケース。はたまたウェルダの持つ最強の精霊。精霊王というより上位の格にいる精霊による攻撃である。


 二つ目はよりシンプルなものでで、使役者を撃破する事。

 超が付くほど強力な力を持つ属性神であるが、それでも術者とのつながりを切られてしまった場合、退去せざる得ない。

 一度召喚すれば周囲の属性粒子を自由自在に操る事ができるため、エネルギー切れによる消滅というものはありえないのだが、属性とのつながりとは別に存在する契約者との特殊な繋がりが消えてしまった場合、現世に留まる事ができない。

 およそ十年前、善がルイン・アラモードの出した雷の神バルキルドを消滅させたのはこの方法なのだが、今回の場合この手段はとれない。

 邪魔者を消すためとはいえ学校中の面々にボコボコにされるのはシェンジェンとて避けたい事態であったのだ。

 加えて言えば一つ目の方法は『手段としては存在するが、極めて困難』。世界のトップオブトップが行える領域の話であるため、シェンジェンらには不可能であった。


 であれば残されるのは自動的に三つ目の方法。封印術による捕獲となる。


「逃げるなクソチビ!」

「あったま悪いなぁ! か弱い人間たちを傷つけないよう、怪我しないで終わらせてあげようっていう神様の慈悲くらい理解しろヨー」

「なんだとこのぉ!」


 そもそもの話として、封印術というものが制作された起因が今のような状況。不死者や攻撃が通らない物に対する普遍的な対抗手段である。

 遥か昔の事である。

 上に挙げたような存在に対抗する術を持たない者達が、それでも襲い掛かる厄災の化身を退けるために開発したのが封印術の始まりで、封印術というものは、能力による『範囲内の時間静止』や『空間からの強制退席』などの高度な力に頼らずとも、単一属性で敵対者を食い止めるよう作られている。


 それぞれの属性の特徴を活かし、例えば氷属性ならば『凍らせ動きを制止する』という特徴を封印範囲内に施す事で敵を封じ、雷属性ならば『相手を指一本動けない勢いで麻痺させる』という形で封じ込める。

 ただ弱点として『属性によって封印術の何度の有無』があり、氷属性の『凍らせる』や鋼属性の『閉じ込める』という概念の拡張の場合比較的に難易度は低いが、炎属性や風属性のように相手を制止させる概念が少ない場合、封印術として形成するのは実に困難なのだ。


「数を揃えてるのはいいけどさぁ、実際のところ危険なのは頭の悪い僕の召喚者くらいでしょ。ならまぁやっぱり相手にならないもんネー!」


 もちろん術者の技量も重要で、より高位であったり手ごわい相手を封印するためには、それなり程度の腕前では相手にならない事がザラである。


 ゆえに少年の姿をしているとはいえ風の神は最高クラスの難敵でありそもそも真正面から相手をしない。

 降り注ぐ攻撃の嵐を優雅に躱しながらシェンジェンのいる方に向き直り、自分に氷の封印術を当てようとする彼を嘲笑いながら舌を出す。

 『お前の封印術なんて当たらない』。『あらゆる抵抗は無意味である』と嘲笑うのだ。


「あら? あらあらあらあら?」

「どしたのサ?」

「シェンジェン君は後ろから私たちを追って来てるわよね?」

「そだね。間違いないヨ」

「じゃあ………………前から迫ってるすごい空気は別の人が発してるのよね?」

「!?」


 少年型のそんな思い込みが覆されたのは直後の事。

 並列するように空を飛ぶ少女型の言葉を聞き、風属性の探知術の対象をシェンジェンのみの状態から周囲一帯へと拡大。すぐさま知ることになるのだ。

 

 シェンジェンとは別にもう一つ、強い力が自分らへと迫っているという事を。

 感じ間違えでないのであれば、それはシェンジェンよりも強大であると。

 

「うわっ!」


 そう悟ったと同時に迫りくる攻撃は、シェンジェンのように自分達だけに絞ったものではない。

 広範囲を包むよう冷気が浸食し、


「吹き飛べ!!」


 触れれば望まぬ結末に至ると瞬時に判断した少年型は、瞬くに反撃。


 クレマチス・エアロ・ゾーン


 自身を中心として周囲一帯のあらゆるものを吹き飛ばす風の結界を張り迫る脅威を取り除いたが、その様子に先ほどまでの余裕はなく、


「あれぇ? 僕らか弱い人間の身を案じて反撃しないんじゃなかったのぉ?」

「っ」

「神様が嘘言っちゃいけないなぁ」


 煽るシェンジェンに対し苛立ちを覚えるが、意識を集中させ矛先を向けるような事はしない。


「効果、ありそうだったかい?」

「様子を見るに十分です。僕とあんたを中心として攻めていこう」


 その隣に舞い降りた少年。

 生徒会長ヌーベ・レイを、明確な邪魔者として睨みつけた。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


この物語における封印術というカテゴリーの説明回。

蒼野やシロバが使う風の結界とかなどとの違い。

三章でエヴァなどを相手にする際もやや説明がありましたが、それの補足です。


ただ正直なところ申し訳ない。

書いてるうちに筆が乗って、一話の半分を使ってしまいました………………

本来なら今回だけであっさりと終わる予定だったのですが次回に続きます。


次回こそは終わりますようにと、未来の自分に託します。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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