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決戦! 風の神クレマリア!


「紙パックの牛乳にコッペパン。色々な野菜が入ったスープに栄養バランスに重点を置いてるせいでそれらに合わないおかず類………………学校の給食ってさー、普通なら眉を吊り上げるようなレシピの組み合わせが逆に魅力だよネー」

「あ! だからこの時間に行くことにしたのね! 貴方ってば本当に天才ね!」

「褒めて。もっと褒めて。僕って褒められた分だけ伸びるタイプの神様だからネ!」

(シェンジェンの通ってる学校は高校じゃから、給食じゃない可能性の方が高いことは言わんほうがいいのじゃろうな)


 三体の風神がシェンジェンのいるオルレイユ第三高校の側にまで近寄っていたのは昼時の事。時間にすれば午後一時になるしばし前であり、その内の二人。少年少女模した二体は嬉々とした様子で、残る親父型はそんな様子を生暖かい目で見守っており、道行く通行人たちは桃色の体をした凸凹トリオを物珍しげな目で見ていた。


「よぉ、お前らがシェンジェンの奴が言ってた強い奴。『殴りがいのある奴』か?」


 そんな彼らが校門の前に辿り着いた瞬間に舞って降りてきたのは高校生らしからぬ風貌をした少年。

 所々が千切れている学ランを着た拳自慢の兵頭我龍で、彼は好戦的な笑みを浮かべながらシェンジェンが指し示していたであろう三者を観察。

 最初に誰を狙うべきかと脳を回転させ続け、


「超絶つよつよって意味なら合ってるけど、殴られるつもりはないなぁ。というか君ホントに高校生? 老けすぎじゃない? 三十代の中年かと思ったよ!」

「ぶっ殺す!」


 その照準は、口元に手を持っていきながら首を傾げた少年型の言葉により定まる。

 とすれば大地が揺れ亀裂が奔る勢いで踏み込み、銃弾もかくやという勢いで進軍。身長五十メートルにも満たない少年型の顔面を破壊するように掲げていた右腕を振り抜き、


「殴りがいのある奴、というのが基準ならば、まぁワシが一番当てはまるじゃろうて」

「!」


 その一撃の軌道を、我龍よりも僅かに背の高い親父型が風を操り大きく逸らす。


「任せちゃってもいいのおじさま?」

「ええよええよ。正直ちょっと暴れたりなかったからのう。血気盛んな少年なんかはちょうどいい相手なんじゃわい」

「じゃあ任せちゃうねー」


 このタイミングで残る二体が校舎へと向け飛んでいくが、我龍はそれを許さない。


「逃がすかよぉ!」


 そもそもの狙いが自分のデリケートな部分に触れた少年型であったゆえに、鼻歌を歌いながら横を通る小さな体へと向け拳を振り抜き、


「お主の相手はワシじゃと言っておろうに」

「ちぃ!」


 半ば無理やり考えを改める事になる。

 目の前にいる筋骨隆々な親父型の拳が迫っていたゆえに。


「残念ながらワシは物理無効なのでな。おそらくお主では傷つける事ができん。なので代わりと言っては何じゃが、体の各部に的を付けておいた。これを全て壊せばお主の勝ちじゃ」

「舐めやがって………………」


 その一撃を躱し距離を取ると、彼と向かい合った親父型は説明しながらしっかりとした形を取っている上半身の至る所に円形の的を設置。

 その状態でファイティングポーズを取った姿を前に、我龍の声に強い苛立ちが混じった。




「ねぇねぇねぇねぇ。校舎の中が静かだわ。それに物々しい空気。これってもしかして………………」

「僕達のおもちゃ………………もとい契約者様が反旗を翻したんだろうね。んもう! 心の狭い奴だなぁ!」


 親父型から離れてから十数秒後。残る二体の風神は目標であった校舎にまでやって来たのだが、中の空気が自分達の思っていた物と異なることに気が付いた。

 賑やかに騒いでいる生徒が大多数でその中には混じる感情は様々なのだが、その中に自分たちに向けて注がれた剣吞な空気が複数存在しているのだ。


「危ないわ!」

「シェンジェンお得意の奴だね。僕ら相手には意味ないけど目くらまし程度にはなるよね」


 それが物理的なものに変化したのは、それからしばらくしたところ。

 二体が自分らへと注がれるそれらなどお構いなしに動き回っていたタイミングで、階段の踊り場に辿り着いたところで彼らの周囲が爆破。

 これがシェンジェンの得意技であるエアボムであることを看破した彼らは、その場で動きを止め次に何が来るかと警戒するのだが、答えは思わぬ形であった。


「うわぁ!」

「飛ぶのね! 飛ぶのね! 雑誌で見た絶叫系のアトラクションみたい!」


 彼らのいる踊り場全体が『ガコン』という音を立てながら校舎から分離され、空中へと放り投げられ、ほんの数秒後には勢いよく落下し崩壊。

 凄まじい衝撃が生じるのだが、中にいる二人は幼い姿ながらも一つの属性を司る神格の精霊だ。

 飛んでいく踊り場に合わせて空を飛ぶことなど造作もなく、地面に当たった際の衝撃なども一切浴びず、砕けた踊り場が飛び散らす瓦礫に落下の際に生じた砂埃を、少年型が腕の一振りで弾き飛ばし、


「全く。本当に馬鹿だね君達も。言いつけを守って学校に来なければ、無駄に周りを焚きつけただけの僕の姿がマヌケな姿が見れたのにね」


 それからすぐに目にすることになるのだ。自分らを狙う首謀者。現代における契約者の姿を。


「馬鹿な真似をするせいで! 無様な姿を晒す事になる! いっつも小馬鹿にしてた僕に負けるんだ! 最高だね! 全部終わった後に腹を抱えて笑ってやるよ!」


 そんな彼は二人を見下ろすように空に浮かんでおり、普段とは比べ物にならないハイテンションな様子で声を発し、


「それは全部終わった後に僕らがするわけだけどさ………………ほんとに勝てると思ってるの? 数を揃えたくらいで?」


 受けた少年型がそれまでとは異なる態度で返す。

 快活ないたずら小僧としての面ではない。風属性を司る神として、天空から地上を、人を、遍く全てを睥睨する神の面を見せると、周囲に潜んでいる数多くの挑戦者たちの存在を一瞬で看破するが、それでもシェンジェンは怯まない。


「勝てるさ。短い時間だったけど、それだけの事ができるだけの準備はした」


 絶対的な自信を持ちながらそう断言し、開始の宣言をするように自身の右腕を持ち上げた。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


さてさて短く、けれど濃密なお祭り騒ぎが始まりました。

敵は十の属性神が一柱。クレマリア・エアロ・ゴット。


お馬鹿で快活。ほんの一瞬の大騒ぎ。

しかしそれに見合わぬほどの強敵ですが、最初から最後まで気軽な空気で面白くおかしく進められればと思います。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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