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新世界日常記 六頁目


「で、自分たちの知っている限りの情報を手紙で纏めて置いていったと………………その人たちはずいぶんと僕らに友好的だったんだね。ウルアーデに来る人らって大抵の場合悪質な侵略者じゃなかったっけ?」

『そうだな。大体の場合、潤沢なエネルギーを求めている連中だったんだが、今思えばあれは、惑星『カナン』の人らと同様に自分たちの星を蘇らせるための選択だったのかもしれないな』

「………………ゴットエンドさんに問答無用で殲滅させて悔いてるってこと?」

『………………すまない。感傷的になってた。ところで質問はあるか? 情報量が多くて端折ったところもあるから、気になる点があれば詳しく教えるぞ』

「教えてほしい事、ね」


 物語を終局へと導く様々な情報が落とされた次の日の朝、自宅代わりに使っているホテルの一室でシェンジェンが蒼野からの電話を受け取るのだが、その際最後に蒼野が口にした内容を聞くと、備え付けのキッチンで作っていたスクランブルエッグをお皿に乗せながら一人用の机の上へ移動。

 焼きたてのトーストとコンソメスープ。それにプチトマトとブロッコリーときゅうりがまとめられたサラダにドレッシングをかけていく。


「なら今一番困ってることを聞くんだけどさ、僕の周りに漂ってる邪魔者を消す方法、教えてくれない?」


 それからすぐに愚痴を言いながらキッチンに戻り、食事用のナイフとフォークを持って机に戻ると、シェンジェンはすぐに気が付いた。


 朝食の七割が既になくなっていることに。


「ご馳走様でした」

「おいしかったよシェンジェン。明日も作ってネ!」


 そしてその原因が、今なおこちらの世界に留まっている風の神によってである。


『………………………………聞こえて来たよ。その………………ご愁傷様です」

「ちょっともしもし!! せめてこいつらを黙らせられる人員を割いてよ! 僕結構働いてると思うんだけどぉ!」

「コラコラ僕ちん、何を騒いでいるのかネ? そんな風に起こってばっかりだと寿命が縮んじゃうヨ?」

「縮んじゃうよ~?」

「その原因になってる本人が言うセリフじゃないなぁ!」


 怒髪天を衝く勢いのシェンジェンを前に、すぐさま煽りだす二体の子供型の風神。

 彼等を捕まえるためにシェンジェンは飛び掛かるが、思うような成果を得る事はできない。

 少年と少女の姿をした桃色の塊はシェンジェンの脇をスルリと通り抜けると快活な笑い声を発し、シェンジェンが怒鳴る姿を燃料として、狭いホテルの一室の中を嬉々として飛び回る。


「すまんのぉシェンジェン君。だが彼らを許してやってほしい」

「はぁ!? なんで!?」

「ワシらほど高位な精霊はの、他の者と比べ呼ばれる事が極端に少ない。だから現世に降り立つことが滅多にできないんじゃ。それこそ千年単位の時もある。だから時折こうやって召喚されると、今の現世の様子を見たくなるし、召喚者と接したくなるんじゃよ」

「事情は分かったけどさぁ。それって僕が気に入ってたお茶を好き勝手に飲みながら言う事じゃないよねぇ!!」」


 彼らを擁護するのは残る一体の風神。

 下半身を雲の形に、上半身を筋骨隆々な頑固親父に似せた姿をした桃色の風の塊であるが、説明を聞いたところで納得できるわけがなく、シェンジェンは反論。


「そ、そのじゃな………………他の二人に比べればワシはおとなしいじゃろう? だからこれくらいは大目に見てくれんかのぉ」

「ダメ! ダメダメダメダメェ!!」

「おおう。相当ストレスが溜まった際の物言いじゃのう。本当にすまんて」


 挙句の果てには普段からは想像できないような駄々っ子と化すが、持っていた携帯端末がけたたましい音を発し始めると、電源が切れた機械かと思うような勢いで静止。


「どうした坊主?」

「学校の時間だ。行かなきゃ!」

「ガッコウって………………もしかして学校!?」

「今のごくごく平凡な子供達ってどんな生活してるんだろうナー! 見に行こうゼ!」

「お主は人一倍強いからのう。疎外感を覚えてイジメられてないか?」

「学校は思ってる通りのものだけど他の人の迷惑になるから来るな。後イジメになんてあってない! 無駄な心配だジジイ!」

「ダメー?」

「駄目だ。ダメったらダメ!」

「チェー」

「いじわるー」


 冷静さを取り戻したシェンジェンは三日ぶりに学校へと足を運ぶのだが、この時点で確信を抱いていた。


 親父型は別として、残る悪戯小僧型と好奇心少女型の二体は、その好奇心を抑えきれず必ず学校へとやってくると。


「そっちがその気なら上等だ。こっちも全力で当たってやる。僕一人じゃどうしようもできないとしても、こっちには大量の手札があるんだからなぁ!」


 そこまでわかっているゆえにシェンジェンは対策を練る。

 一人でダメならば数人で。数人でだめなら数十人数百人でという、まるで戦争に単純な物量による圧殺で勝とうとするような面持ちで学校へと移動。


「おい拳馬鹿! ちょっと力を貸せ!」

「久しぶりに顔出したと思ったらいきなりだな。てかそれがものを頼む態度かよ」

「そんなことはどうでもいいんだ。重要なのは今から殴りがいのある奴がやってくるから、好きなだけ相手していいってこと。何なら殺しても構わない」

「物騒だなおい。まぁそれほどの相手がやってくるなら、嬉々として挑ませてもらうがな」

「ガンバレー」


 手始めに授業をサボっていた兵頭我龍を屋上で見つけ勧誘。先鋒として飛び込ませるよう画策し、


「二人に頼みたいんだけどさ、こういう相手がやってくるとしたらどうするべきだと思う?」

「なにこれ? 能力が効かない、風の塊?」

「ちょっと見ただけだとものすごく無敵な存在に思えるけど?」

「なになに? ずいぶんと必死じゃない。何かあった?」

「お前は………………今回だけは必要だな。呼べるだけのファンクラブ会員を今すぐに招集してくれ。嫌な奴らにギャフンと言わせる。それと今から小難しい機械を作ることになるかもしれないから、その時は先導しろ!」

「機械じゃなくてロボチョッチョね。いいけど費用はどうするの? アンタのポケットマネー?」


 続いて馬郎と良照の二人と肩を並べて作戦会議。

 途中で側にやって来たイレに対してはそう説明し、彼女が首をかしげるとそちらに視線を向け、


「ちょうどつい最近、大富豪の娘を助けてね。好きなだけ金を出せるだけの恩は売ったはずだから、この機会に好きな物を作るといい」

「マジで!? 最高じゃん! もしかしてアンタってばスパダリ!?」

「誤解を招く言い方は止めろぉ! このタイミングで頭痛の種を増やすなぁ!」


 そう説明。

 イレの嬉々とした物言いに対しては最速最大の声で反論すると立ち上がり、


「ありゃ? どこ行くの? 早速逃げる準備?」

「んなわけあるか。まだまだ声をかけたい人物がいるんだよ」

「誰?」

「生徒が困ったときは、生徒会長の出番ってね」


 そう言いながら小走りで三階へ。


 忌々しき風の神を泣かせるための準備は、早くも大詰めを迎えようとしていた。

 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


さてさて本日から戻りましたシェンジェン編。その内容ですが夏休みのちょっと前。

時期としてはテストの結果が返される直前というところで、内容は本編通り。


夏休みは夏休みでいくつかの話題があるのですが、その前にドタバタなお馬鹿な騒ぎ。

風の属性神に一泡吹かせましょう!


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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