QUESTION 戦星の意義
焚火の炎に照らされる中、二人の弟子を率いた老人が語ることによれば、『箱舟』なるものを見つけられたのは狙ったものではなく完全に偶然であったとのことだ。
粒子が根絶した事を契機に始まった、敵対者を葬るために日夜行われる世界大戦。
それは敵を葬るだけに留まらず住処としている惑星『カナン』に多大なダメージを与えるに至ったのだが、これにより地中深くに埋まっていたのを見つけたというこtであった。
と同時に彼等は「箱舟」なるものが惑星外からやって来た物であることを瞬時に悟った。
なにせ使われている技術の系統だけでなく技術力が大きく違う。
惑星『ウルアーデ』においてはロストテクノロジーに属する物さえ製作する事ができる惑星『カナン』であるが、そんな場所においても、彼等が『箱舟』と呼んでいる物体は異次元の完成度であった。
素材となる金属や組み立て方法が未知のものであるのは当然として、様々な拡張機能が付いている事。そしてそれらが、彼等でもわかる言語で書かれていることも驚きで、惑星『カナン』の人々はこれに全てを賭ける事にした。
「その………………よくそんな正体不明の物体を信じられたな。怪しいことこの上ないぞ」
「『藁にも縋る思い』『ダメで元々』という奴ですよ。なにせ他に生き延びる術もありませんからね。僅かでも可能性があるのなら、それに賭けるしかないのです」
「なるほどな。しかし件の『箱舟』とやらはずいぶんな大きさなのだな」
「というと?」
「どの程度のものかはわからんが、星一つに住んでいる人全てを乗せるとなれば大層な大きさだろう!」
「ああそういう事ですか。でしたらその点は勘違いしてらっしゃりますね。人数に関しては思っていられるより遥かに少ないですよ。驚くほど減っていましたから」
「う、うむ。そうか………………すまん」
「いえいえ」
全てを聞き終えたところでシュバルツの口から発せられたのはごく当然の質問であったのだが、平然とした様子で返された答えを聞き、自身が特大の地雷を踏んだ事を察し謝罪する。
「そろそろお時間ですかね」
「もう帰るのか?」
「本当に………………良い時間でした。二度と会えないはずのあなた方とこうして顔を突き合せられたのは生涯の宝となるでしょう。そういえば残るお二人は?」
「私のダーリンは出稼ぎ。もう一人は死んだよ。長寿族ではなかったのでな」
「そうですか。会ってお話したかったのですが、残念です」
ここで穏やかな瞳をした老人がふと気になったことを聞くと、すかさずエヴァがフォロー。シュバルツが内心で感謝していたところで老人は持っていた鉄串を置き『ごちそうさまでした』と言ったのだが、ここでシュバルツはひどく驚いた。
「もういいのか? まだ二口しか食べてないじゃないか。もしや口に合わなかったか?」
それは老人が彼の前に置かれていた焼き魚をたった二口しか食べていなかったゆえで、これを聞くと彼は否定するようにかぶりを振り、持ち上げかけていた腰を再び下ろし、
「夜も遅いですしそろそろお暇しようと思っていたのですが………………最後に一つだけ質問してもよろしいでしょうか?
「もちろんだ」
「では――――あなた方はなぜそこまで強くなったのですか?」
「どういう事かね?」
そうして投げかけられた問いかけを聞きシュバルツは眉を顰める。
なぜならそれは既に、この場にはいない彼の友が口にしたもの。
今なお答えの見つからない疑問であるからだ。
「我々は一つの星においてだけではない。周辺にある数多の星の中でも特に優れた力を持っているという自負があります。その証拠に我らの肉体はただの重火器による攻撃ならば毛ほどの痛みも感じず、星によっては死の塊である核を受けてもさしたる傷は負いません。二十四時間ずっと戦い続けるだけの体力もあります。加えて一流の戦士ならば、それ単体で遍く星々を侵略できる力だって持っています。ですが、そんな我々を歯牙にもかけないほどのあなた方は力を持っている。はっきり言ってこれは異常だ」
「いやそこまでの物はだな………………」
「その証拠に、先の戦いで貴方は、最後の最後以外には反撃をして来なかった。ご友人のエヴァ殿も静観を決め込んでいた。これらは全て、あなたと我々三人のあいだに蟻と像ほどの実力差があったからでしょう?」
「………………むぅ」
このタイミングで投げかけられた言葉に対しシュバルツは即座に否定の形で入るが、続く言葉を聞き閉口。その反応こそが真実であり、
「これは正答に近いであろう憶測なのですが、おそらく私らとあなた方では、使えるエネルギーの容量が違う。いえそれだけではない。肉体を構成するエネルギーの密度が異なるのでしょう」
「面白い意見だな。詳しく話せ」
続く彼の推測を聞き、それまでさほど本腰を入れて聞いていなかったエヴァも口を挟む。
すると彼は頷き、
「ではここで一つ質問させていただきたいのですが、あなた方の中には太陽を作れる物が数多く存在しませんか?」
そう発言。
これを聞いた二人はびっくりした顔をしたかと思えば顔を見合わせるが、続く答えは決まっていた。
「そりゃできるだろ」
「あんなもんただの炎属性粒子の塊だからな。粒子さえあれば誰だってできる。てか今浮かんでるあれだって、私のダーリンが指先だけでパッと作った物だぞ。てか少しの時間さえあれば、私なら宇宙の一つや二つ作成できるぞ」
ゆえに一切の躊躇も迷いもなく、さも当然という様子で返事をするのだが、すると老人の左右に座っている二人の美女が天地がひっくり返ったかのように驚いた表情を見せ、それを見たシュバルツとエヴァが首を傾げる中、老人は続きを語る。
「端的に言ってしまいますと、我々どころか他にあるほとんどの星で、それは神業と呼ばれるほどの所業で、そう簡単にどうこうできるものではないのです。そしてもう一つ、あなた方の肉体に関してですが、他とは大きく異なる次元に立っている」
「それは近隣惑星で最も強いという君たちの攻撃を凌いだゆえかね?」
「実のところ、それはわかりきった結果だったのです。なぜなら我々は、あなた方一人一人が惑星一つ分と同じだけの質量を兼ね備えていることを事前に知っていたのですから」
「お前………………正気か?」
「正気ですとも。その証拠にかつてシュバルツ殿がおっしゃっていたではありませんか。『不用意に足踏みをした結果、星を一つ壊してしまった』と」
その内容は上記のようなものでありシュバルツやエヴァは耳と彼の正気を疑うが、その言葉が嘘でない証拠をほかならぬ彼ら自身が知っていた。
確かにかつてシュバルツはただの足踏みで星を一つ破壊しエヴァが大急ぎでそれを回復させていた。
「とまあここまであなた方の特異な点を挙げましたが、その上で私はこう思うのです。それほど強くなったのには、きっと明確な意図があるのだと」
「意図?」
「ええ。はい。『誰か』が何らかの『目的』のために、この星の住民を途方もない領域まで持ち上げている。それが私の至った答えです。どうか、心の片隅に留めていただければと思います」
斯くして別惑星からの訪問者との一夜は終わりへと向かう。
焼き魚に込められていた途方もないエネルギーを受け止めきれず二口だけしか食べれなかった彼らは、鉛のように重かった鉄串を雑な手つきで地面に置き、自分らにとっては死そのものな夜の森をシュバルツとエヴァに同行してもらいながら進んでいき、乗って来た宇宙線にまで到達。
シュバルツとエヴァが賢教の頃から続く争いの歴史。
人の手が確実に介入されている惑星『ウルアーデ』の過去に意識を向ける中、彼等は残った同胞たちと合流するため、朽ち果てた母星へと帰っていった。
それから一週間後、惑星『カナン』は滅び去る。
その際に巨大な塊が星から出ていくのを惑星『ウルアーデ』の科学班が見届けるのだが、彼方へと消えゆくその船がどこへ向かって行くかは最後までわからなかった。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
思ったよりも長かった色々な事柄の説明編が終了。
最後の最後にとんでもない事実が語られましたが、その意味に関してはまだどこかで。
なんにせよ次回からはいつも通りの空気。シェンジェンの学園生活に戻ります!
舞台や内容は次回で!
それではまた次回、ぜひご覧ください!




