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新たなる敵 五頁目


「あのとき助けた子供が長寿族で、ここまで強く大きくなっているとはな………………昔の君を知る者としては、とても感慨深いよ」

「それを言うのならば私も同じ、いえ貴方様以上の衝撃を受けていると言えましょう。まさか千年前にお会いした恩人が、あの時からほとんど変わらぬ姿を保っているなどと。私などとは比べ物にならない長さの寿命をお持ちなのですね」

「ん………………おう! あーそう、だな!」


 彼らが初めて出会ったのは千年と少し前。

 それはシュバルツ達が長い眠りにつく前であるのだが、初めて彼らの過ごす惑星『カナン』を訪れた時、シュバルツら四人は彼等の住む星に襲い掛かっていた脅威を退けた。

 それから数日ほど過ごした後に別れた彼らは今、千年という時を経て再会したのだが、親交を温めるために始まった焚火を囲んでの会話は、思わぬところで区切るしかなかった。


 嘘偽りなく『千年眠っていました』『起きてから世界相手に戦争を仕掛けました』などというのは、自分に対し好意的な感情を持っている相手に告げるのは気が引けたのだ。


「そういえば戦っている最中に見せた刃が増える力! あれは中々の物だったな! 能力を発動した素振りは見せていなかったが、どうやったんだ?」


 なのでこのまま話が続くのを避けたいシュバルツは、やや強引に話題を変更。

 惑星『カナン』の代表としてやって来た老人の右隣の影。

 かわいい声をしていた護符使いの少女が思う事があった様子で両肩を大きく揺らし口を開きかけるが、何か言うよりも早く老人が手を持ち上げた。


「タオ(道)と科学技術を繋ぎ合わせた物です。必要な量のタオを事前に吸収させておき、好きな時に発動できるようにしておいたのです」

「タオというのは確か………………私たちの星で言う練気だったな! そうか。それと科学技術を上手いこと組み合わせるとさっき見せたようなことが出来るんだな! 面白い!」


 直後に語られたのは、惑星『ウルアーデ』では発展していない系統の技術。

 粒子ではなく練気を科学技術と混ぜる文明に関してで、これを聞いたシュバルツが嬉々として大笑。焚火の前に突き刺していた鉄串を一つずつ抜き取り、全員の手元においていく。


「それはそれとしてだ。お前達よくここまで来れたな。我々の星を守る最終防衛ラインはものすごくおっかないメガネだったはずだが?」


 ここで口を挟んだのは丸太の上に座った状態で頬杖をついていたエヴァで、側に置かれた焼き魚の刺さった鉄串を掴み、香ばしい臭いを発する魚を一口頬張ったところで、ふと気になったことを尋ねてみる。


「紫色の髪の毛を綺麗に整えたお兄さんですよね? そんなに怖い人なんですか? 別に何もされなかったですけど?」

「見ただけで判断したという事か。となると凄まじい精度の読心術でも持っていて判断しているということになるが………………」

「参考になるかわかりませんが、ワタシらの前に彼がやったのはコイントスだけですね。しかしこれは、わたし達の素性を知る上ではなんの関係もありませんよね?」

「………………いや関係あるな。そうかなるほど。絶対に外れない豪運に身を任せているのか」

「この星の警備体制に不安を感じるよ。私は」


 すると何気ない様子で返答をする美女二人であるが、話題に出ている人物の力を考えれば絶対的。

 けれど気の抜ける判別方法を知り、シュバルツの口から力のない笑いが零れ、エヴァが呆れた様子で頭に手を置く。


「ところでこの星に来たのはどういう目的だ? 観光か? それなら好きな場所に案内するぞ!」

「いえいえ違います」


 直後に再び話を切り替えたシュバルツが尋ねるのはなんの変哲もないありきたり質問だったのだが、惑星『カナン』の代表である老人は首を左右に振り、


「実は近々惑星『カナン』を飛び立つが決まりましてね。この宇宙を去る前に、かつて我々の住む星を救ってくれた貴方らにお礼の言葉を言っておきたかったんです」

「………………なに?」


 ここに来た目的を語り出すのだが、シュバルツもエヴァも耳を疑った。

 あんまりにも荒唐無稽な事態をさも当然のように老人が告げたゆえに。


「それはその………………どういう意味なのだろうか? 素直に受け取るならば君たちは、自分らの生まれ故郷である惑星『カナン』を捨て去るという風に聞こえるのだが?」

「そ、それであってます。私たちは惑星『カナン』を捨て去ることにしたんです…………………………」

「ど、どうして?」


 ゆえに事の真意を測るためにシュバルツは質問を重ねるが、帰って来た答えが更に彼を驚かせる。

 そんなことをするような理由が彼には全く浮かばなかったのだ。


「…………我々の母星、惑星『カナン』が死に絶えるからです」

「どういう事だ?」


 とすれば言葉を継いだのは練気を纏い獣のような姿に変貌した低い声をした美女で、先ほどまでの退屈な態度を完璧に捨てたエヴァが追及。これに答えたのはシュバルツと向き合うように座っている初老の男性である。


「もう少し噛み砕いて説明させていただきますと、世界中で常に生まれていた自然のエネルギー…………つまりこの星で言う粒子の自然発生が、十五年ほど前からなくなり始めたからです。無論我々もどうにかして回復させることが出来ないかと足掻いたのですが、努力は実を結ばず………………」

「いや待て。待て待て待て待て小僧! お前は何を言っている!? 星が粒子を輩出しなくなっただと? そんなことがあり得るのか!?」

「黙って聞いておれば! 我らが師父を小僧とは! 無礼な!」

「うるさい黙れ! ワタシはこう見えても一万年以上生きてる身だ! 千歳なんぞ私からしたら小僧だ小僧!」


 説明を聞き終えたところでエヴァは噛みついて来た美女と顔を突き合わせ唸り声を発し始めるのだが、その傍らでシュバルツが残る二人に視線を集中。


「辛いかもしれないがその………………もしよければ」

「もちろんお話しますとも。我々はそのためにお伺いさせていただいたのですから………………良」

「あ、はい! これが惑星『カナン』滅亡の道筋………………いえ! 我々が生き延びるまでの道を見つけまで軌跡を纏めたものです! ご、ご覧ください!」


 リャンと呼ばれた可愛い声をした護符使いの美少女は懐から一冊の汚れの少ない巻物を取り出し、それを恐る恐るという手つきで受け取ったシュバルツは、焚火の火を灯りとして使いながらこれを熟読。

 それにより知ることになったのは、彼等が苦渋の決断をするに至るまでの物語。


 星が自然発生させる粒子の量が十五年前から減って行き、様々な施策で使用料を減らしたことや、粒子増幅のための装置をどんどん作り、訪れる滅びの運命から抗い続けた事。

 それでも五年前に全ての希望は潰え、世界から粒子がなくなった事。


 それから今までの五年のあいだに、世界中で残されていた資源を取り合う戦争が起き、数えきれない悲劇が生まれた事。


「………………これは」


 そしてその果てに彼等がたどり着いた希望。




 すなわち『箱舟』に関して記されていた。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


作者の想定よりも長くなるよ新情報提示回。

この場で正直に告白させていただきますと、自分の想定では今回で新情報は明かしきれるはずでした。

しかし書いてみると思ったよりも実に書くことが多い。

何なら半分言ってるかどうかも怪しい。


という事で前後編に変化しました。

色々と情報量が多いですが、もう少しシェンジェンのスクールライフから離れたお話を続けさせていただければと思います。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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