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新たなる敵 三頁目


 宇宙には数えきれないほど多くの星があり、その中の一部には多種多様な種族が生息しているのだが、惑星間で行われる交流の形式というのは、星ごとに大きく異なる。


 物資や奴隷の補給を目的として侵略行為に大きく傾いている星もあれば、技術の交換などを行う事に主軸を置いた好意的で貿易らしい事をする星もある。

 それ以外にも様々な形で『惑星間交流』というものがされているが、イグドラシルが統治していた頃の『ウルアーデ』の仕組みは以下のようなものだ。


 第一に、彼等から外の惑星に足を運ぶ。

 これは科学技術の発展を目的としたもので、この形式をとっているため、彼等が訪れる場所は必然知識面や文化の面で優れている場所が多くなる。


 第二に、訪れた星に惑星間の交流を行える許可証に類する物を渡す。

 これにより惑星間の交流が始まるわけであるが、基本的にウルアーデ側は『自分達から別惑星に人を送る』ことはあれど『別惑星の人物をわざわざ招待したり繋がるための道を作る』ことはない。

 つまり外部からウルアーデにやってくるには、相応の技術や個人の実力が必要なわけだ。


 そしてもし来たとしても招かざる客人であった場合、これを弾くのが惑星外保安部門を一人で請けもっていた『果て越え』ゴットエンド・フォーカスであり、ごくごく少数の危険因子を除き、彼が全て殲滅させていた。


「私を指定する客人、か。誰だろうな?」

「さてな。ただ予想は多少なりともできる」

「というと?」

「我々は千年ぶりに目を覚まして以降、一度も外に出ていない。だから千年前に縁があった者自身か、その子孫が顔見世にやって来たというところだろう」

「なるほど。道理だな」


 この形は神の座がイグドラシルであった当時の物であるが、彼女がいなくなった現在でもゴットエンド・フォーカスはその役目を継続。

 曰く『彼女が遺したこの場所に邪な者は何人たりとも通さない』という事で、彼の審美眼を乗り越えた者だけが、ウルアーデに入ることができるというのが現状だ。


「ところでだ、ここで待ってればいいってことだったが、お前は何をしとるんだ?」

「どこから来たのかまでは知らないが、異邦の地から遥か遠くにあるこの星までわざわざ足を運んでくれたんだろ? しかも聞くところによるとわざわざ私に会いたいらしいじゃないか。そんな人らが来るのなら、もてなしの一つでもしたいってのが人の心さ」


 そのような事を話している二人の人物。

 袈裟にかかるように無数の勲章を付けた帯を巻き、その下にアデット・フランクが着ていた白衣に似たコートを羽織っているシュバルツ・シャークスと、大量のヒラヒラが付いている真っ黒なゴスロリファッションに身を包んだエヴァ・フォーネスは、湖畔の側にあるキャンプ場で穏やかな時間を過ごしており、切り株の上に座ったシュバルツは、目の前で起こした焚火の前に鉄串に刺した魚を置き、パチパチと音を鳴らしながら焼けていく光景に心をゆだねていた。


「いつ来るんだっけ? あ、マシュマロがあるんだな。焼くぞ」

「さっき場所を教えたから、十五分以内には来るって蒼野君は言ってたな。可能なら私とやってくる客人の分も頼む」

「いくつ必要かわからんではないか」


 それまで近くにあった太い幹をした木にあった一番大きな木の枝の上に腰掛けていたエヴァは、言いながらシュバルツの前へ移動。彼の側に置いてあったマシュマロを串に刺していると、シュバルツの発言を聞き口を尖らせ、


「………………私とお前の分も含め五つだな」

「……ん、わかった」


 穏やかな笑みを浮かべたままシュバルツが断言した意図を理解し、黙々と作業を行い始めた。


「よく来てくれたな! お会いできて光栄だ! 私が君らが名指しで呼んだシュバルツ・シャークスだ。君らは――――」


 その数分後、彼等の滞在する湖畔の側にあるキャンプ場に影が降り立ち、シュバルツが立ち上がりながら微笑み、両手を上げ歓迎の意思を示すのだが、その言葉は途中で詰まり、困った様子で自身のこめかみを掻いた。


「………………」

「………………………………」

「………………………………………………」

「これはなんと………………穏やかじゃないなぁ」


 彼等が全身を黒衣で埋め尽くし、顔を黒豹を連想させる仮面で隠し、腰に携えていた白銀の光を放つ刃をこしらえた刀を抜き出したゆえに。


「確認だが、本当に貴方がシュバルツ・シャークスだな?」

「いかにも」

「この服気に入ってるんだけどな。汚れたらクリーニング代を払えよな」


 とすると剣呑な空気を察知し、ため息を吐きながらエヴァが立ち上がり、


「待ってくれエヴァ」

「はぁ? なんでだよ。まさかクリーニング代すらケチるのか?」

「用事があるのは私なんだ。ここは私がお相手するのが筋だろう。後クリーニング代に関しては馬鹿言うな。私は別に貧乏じゃない」


 彼女を諫めるようシュバルツがそう発言。

 聞き終えたエヴァはやれやれと言った具合で自分が作った椅子に座り直し、


「待ってくれてありがとう客人。さて、宴の時間といこうじゃ――――」


 その様子を見届けたシュバルツが視線を彼らに戻した瞬間、既に三人の姿はシュバルツの前にあった。


「その命!」

「いただく!」


 ともすれば挟み込むような左右から、『首を切り落とす』という明確な意思を込め二本の白銀の刃が弧を描き、シュバルツはこれを上半身を後ろに傾ける事で回避。


「せめて殺しにかかるだけの理由くらいは教えて欲しいなぁ」


 残る一人が繰り出した連続突きを水属性粒子を固めて作った双剣で全ていなすと後退し、微笑みを浮かべながらそう問いかけるが、三人の刺客は応じない。

 シュバルツが待ちの姿勢でいる事を見抜くと、一人はシュバルツの正面に残ったまま、残る二人が左斜め後ろと右斜め後ろへと移動する。


(なぁなぁ。囲まれるのを防ぐのすら見過ごさなけりゃならんのか?)

(異邦からの客人がどの程度の実力なのか。それを見極めるには彼らに全力を出してもらうのが最短の道なんだ。暇なら自分の分を食べてていいから、ここは静観で頼む)


 この様子を見ていたエヴァは半目になりながら不平を念話で伝えるが、シュバルツはこれをやんわりとした調子で否定。

 エヴァはちょうど食べごろになっていた焼き魚を頬張りながら側にため息を吐き、


「「!!」」

「来るか。受けて立とう!」


 そのタイミングで、この星に訪れた三人が駆け出す。

 目の前にいる目標へと向け一直線に。手にした刀を大きく振りかぶりながらである。


「これは!」


 シュバルツが声をあげたのは直後の事。

 彼らが持つ剣から繰り出される斬撃の数が、たったの一太刀にも関わらず三千を超えていたことで、合計一万近い斬撃が四方八方から彼に襲い掛かった。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


超絶久方ぶりの異星人登場。そして襲撃。

彼らはわざわざクソ厄介なシュバルツに戦いを挑みましたが、この理由は後で。

一週間以上続いた色々と重大情報を落とし続ける話もついに終わりが見えてきました。


という事で次回なのですが、最後のもう一つデカい爆弾が落とされるのでご期待ください。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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