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新たなる敵 二頁目


 神の座イグドラシルの失脚から十年経った現在、惑星『ウルアーデ』を脅かしている新たなる敵の正体。

 それを全員が自覚した瞬間、その視線がレオン・マクドウェルへと注がれる。


『なるほど。新しく現れた敵の内通者を捕まえるための粗探し。それが今回の会合の目的だったか』


 すると複数の視線に晒された当の本人は呆れた様子でそう呟いたのだが、彼をこの場に招いた本人。この会合における代表者である蒼野はそれを否定。


「二割くらいはその可能性があるとは思ってますけど、残る八割は『それはない』っていうのが俺とゼオス、それに優の総意です」

『なぜだ?』

「そもそもの大前提。今回の件において鍵を握ってたブドーさんに関する報告は、ほかならぬレオンさんからされたものです。もし敵側のスパイだとするなら、その点を素直に伝えるようなことはしないでしょう?」

『宣戦布告。もしくは誤情報の可能性だってあるぞ?』

「その可能性を見ての二割です」

『甘い見積もりだな』


 蒼野の説明を聞くと失笑を返すが、零れた声と共に彼が纏っていた張り詰めた空気は和らぎ、いつも通りの穏やかな口調が戻ってくる。


『結論から伝えさせてもらうと、今世間を騒がせている連中と俺の間にはなんの繋がりもない………………ただ思い返してみると、最後に会った際のブドーの様子には少し気になるところもあったな』

『き、気になると、ところ………………ですか。それは一体?』


 魚人族の長。気弱な事で有名なキングスリングが指摘した点は他の者らも気になっている点で、全員がレオンの一挙一足を逃さぬよう意識を集中。


『半年ほど前にブドーと顔を合わせる機会が会ったんだが、その時にあいつが俺に尋ねかけてきたんだよ。『今の世の中に不満はないか』ってな』

「それはまた」

「…………気になる発言だな。貴方はなんと?」



 告げられた発言を聞くと優とゼオスの二人がなんとも言えない表情を浮かべ、皆が同じような感想を抱いた。

 その言葉が、今巷を騒がせている組織への勧誘の一言であったのだと。


『特にない。いやむしろ気に入ってると答えたよ。善の意思を継いだお前たちが立派に働いているのがすこぶる嬉しかったし、それ抜きにしても中々の善政を敷けてると思ったからな』

「ありがとうございます。で、その後ブドーさんと顔を合わせていないと。連絡は?」

『用事もなかったからしてないな』


 レオンが言った答えは神の居城にいた三人が恥ずかしくなる類のものであり、蒼野は一度だけ咳払いをして気を取り直しそう質問。

 答えたレオンはやや遠い目をしながら応じ、そこから更に話を聞いてみてもそれ以上新しい情報が出る事はなかった。


「――――――よし、じゃあ今回の会議はここまでだ。普段通りの警備体制に加え、現状最有力危険因子であるロッセニム系列の奴らを中心とした武装戦力への警戒を怠らないように。加えて奴らの痕跡や目的を見つけた人がいれば、すぐに報告してください」


 その後は普段会議で行っているような定型。つまり各エリアが抱えている問題点の確認と対応・対策に関して話し、一通り終えたところで会議は終了。蒼野の一言と共に一人、また一人と通信を切っていく。


「それでは儂も引かせてもらう。ではな若造共」

「雲景さん………………」

「………………賢教の様子はいかがですか?」


 そうして一人また一人と去って行き、残るモニターはあと二つとなったところで、賢教の代表としてやってきた老人が去る瞬間に蒼野やゼオスが案じるよう声をかけるが、これは昨今の賢教の状況を顧みての事である。


「………………若造共に心配されるほど、賢教の歴史と教えは柔くはないわい」


 というのも今、賢教はとても不安定な状況であった。

 なにせ教皇であったアヴァ・ゴーントが死去。四星の筆頭格。『聖騎士の座』と呼ばれていたシャロウズ・フォンデュがある事件がきっかけで隠居してしまい、現在次の代表が決まるまでの一時のあいだ凶行の座に座っているのは、シャロウズやクライシス・デルエスクと同格であった唯一の人物。

 教皇お付きの主治医である女性で、他の者達がそのサポートをするようになっていたのだ。


「そんなことよりも貴様らは身内の心配をしておけ。尾羽優の体調はあまり良くないのじゃろ?」

「それは、まぁ」

「そういうことだ。ではの」


 そんな中でも賢教の生き字引きにして現在動ける面々の中では間違いなく最高戦力である老人にかかる重圧は大きく、去り際に吐き出された息には深い疲労が感じられる。

 とすれば何とか状況改善のために力を貸さなければならないと考える蒼野達三人であるが、残念ながら名案が浮かぶことはなく、突きつけられた指摘。

 十年前と比べ、ここ最近頻発する優の記憶喪失に関する問題も無視できないため閉口。

 なんとも微妙な空気で老人を見送ることになった。


「それで、私にだけ話があると言ったが、何かあったのか? 一応言っておくが、ガーディアの奴は連絡はあれど依然姿を見せていないぞ?」


 ここで口を挟んだのは最後に残った人物。

 緊急で今回の会議に参加するよう呼び出されたシュバルツ・シャークスで、場の陰鬱とした空気を吹き飛ばすように明るい声をあげると、三人は気を取り直し此度行わなければならない『もう一つの重要課題』に意識を移行。


「それはわかってます。そうではなくてですね、貴方にぜひ会ってもらいたい人物がいるんです」

『私に会ってもらいたい人物? 誰だ?』


 画面の向こう側で首を捻り不思議そうな顔をする巨体に対し、三人を代表して蒼野が口にするのだ。


「宙の向こうからやって来た来訪者。千年前に貴方と遭遇し助けられたとかいう人が、旧交を温めたいと言っているんですよ」


 真に驚くべき来訪者に関する情報を。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


前回から引き続き色々な情報が飛び出るお話の巻。


優の不調に関しても重要ですが、それ以上に賢教がやばいというのが今回の主題。

しょ、少年時代のあいだに築いたものの大半が崩れている………………。

よくわからない奴が玉座に座ってる………………

なんて言うのが今回のお話です。


勿論その辺りに関してもこれからメスを入れていくのですが、その前にもう一つ大きな話題。

次回は三章序盤以降音沙汰のなかった外部からの使者です。

彼等の目的とは………………


それではまた次回、ぜひご覧ください!


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