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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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無貌の使徒 一頁目


 この星の人間は基本的に戦うという行為が好きだ。

 食事のメニューを決めるために夫婦で戦い、運動会のリレーのアンカーを決めるために戦い、果ては告白の返事さえ相手の強さで決めることさえある。

 そんなこの星の人々が神の座・イグドラシルに従っているのは、人徳と従える勢力の大きさ、そして定められた法の出来によるところが大きい。


 しかしそれでも、現行政権に不満を持つものはいる。

 それらの人々の大半は自らの力を存分に行使できない点に不満を持っており、それゆえミレニアムが掲げた『武力による統治』という目的は、彼らの本能を揺さぶった。


 そうして発足したのが『境界なき軍勢』だ。


 神教と賢教のいざこざや亜人などの人種差別がなく、あらゆる分野において『強さ』だけが重視される軍勢。

 神の座イグドラシルによって大半の力を失ってしまった裏社会の総合戦力を容易く上回る、最近現れた世界最大の犯罪組織だ。


 そんな目下最重要案件として扱われている存在の中に、個々の力が洗練され、連携も完璧なこの強敵達が所属する。


 その事実に風の膜に隠れている優がめまいを起こす。


「……『無貌の使徒』だと」

「知ってんのかお前」


 その事実に対し驚きを隠せなかった他の面々と違い、ゼオスだけは目出し帽をかぶった女性が口にした組織の名前に声を強張らせた。


「……十年ほど前に存在した犯罪組織の名だ。様々な業界や組織に所属する亜人が裏で繋がっており、徐々に勢力を伸ばし四大勢力に迫った。『武力による支配』などという目標はなかったが、様々な人種や勢力の人間が集まっていた様子は『境界なき軍勢』に似ているな」

「そんな組織、聞いたことがねぇぞ」


 知らぬ組織の名を聞き、尖った声を発する康太。

 そんな彼に対しゼオスはため息を吐いた。


「……言ったはずだ。様々な業界の人間と繋がっていたと。様々なメンバーの中には経済界の重鎮や独立国家の王様も入っていた。そんな奴らが水面下で動いていたのだ、表の世界の住民からすれば、情報がないのは当たり前だ」


 世界中の情勢を知ることはジコンを守ることに力を注いでいた康太もかなりしっかりしていたつもりだ。

 そんな自分が知らない事実に息を呑むが、それよりも驚いたのは語られた話の内容だ。


「…………詳細は伏せられてはいたが世界を脅かす存在として『十怪』にはその組織のリーダーが乗っていた。……そいつの異名が確か統王だったか」

「それが……あのヒュンレイさんだと?」


 ゼオスの説明を聞く康太であるが、返した声には力が入らない。

 古賀康太という人間にとってヒュンレイ・ノースパスという人間は尊敬に値する人物だった。


 文武両道にして様々な才能を持つ天才にして、物腰穏やかで、誰からも慕われる人間性。

 事務作業からギルドの管理まで一手に引き受ける万能性に、自分に『クイック』の技術を教えてくれた師としての一面。


 原口善とは別の意味で、学ぶべき場所が多い人物であったと彼は認識している。


 そんな人物が此度の戦いの相手だというのはどうしても思いたくなかったのだ。


「……『無貌の使徒』だというのならば聞くべきことは色々ある。人数は当たり前として際立った人物の把握。それに弱点を知る必要もある」

「正直に話すといった手前語ってやるべきなのだろうが、残念ながらそれは無理だ」

「……なに?」


 地面に寝かされた状態のまま、ゼオスの発言に対しせせら笑うような声を発する猿の仮面をかぶった男に対し、彼は訝し気な声をあげる。


「後ろだ!」


 すると蒼野が風の膜を解除し声をあげ、それに呼応するかのようなタイミングで赤レンガの建物の壁が突き破られると、黒のライダースーツに鷹の仮面を被った先頭を走る存在が、剣を抜こうと手を添えるゼオスに向け長く伸びた黄金の爪を向ける。


「あぶねぇ!」

「……古賀蒼野!?」


 剣を抜き、一刀のもとに斬り伏せる


 目前に迫る敵を前にそう意気込んだゼオスであるが、彼の前に風の膜を解いた蒼野が立ちふさがり、鷹の仮面を被った男を叩き落す。


「…………」

「おい、ぼさっとするな! 来るぞ!」


 その姿に何とも言い難い嫌な感覚を覚えるゼオスであるが、脳内で思考を整理した彼がそれを口にするよりも早く、数多の影が彼らへと向け接近。


 そのやかましい足音の数々により砂塵が舞い、視界が奪われる。


 すると彼らの前に天狗の仮面を被った女と、真っ白な仮面に赤と黄色の渦を描いた存在が現れ、優とゼオスの二人に向かい突撃する。


「そこか!」


 そんな中、唯一手持ち無沙汰になった康太が自らの直感の示す方角、すなわち縛り上げた十三人がいる方角へと向け銃口を向け、風属性の弾丸を発射。


「ふん、さっきはよくもやってくれたな小童が!」


 それらは容易く筋肉の鎧に弾かれ、煙の向こうから現れた巨体の鷲掴みを、数歩後退してギリギリ躱した。


「康太、この状況ってさ」

「ああ……まずいな」


 砂埃が晴れ視界が正常に戻る。

 そこで見た光景を前に蒼野は額から頬にかけて汗を流し、康太は悔しげに呟く。

 背中を合わせて全方向を見えるように意識している四人だが、彼らを囲うように敵は三百六十度全ての角度に人が配置されている。


 その数およそ三十人弱。康太の考察通りならば五、六組が彼らを潰しに来ている。

 しかもその内の半数以上が固有の仮面を付けている。


「…………」


 危機的状況を前にゼオスが僅かに右腕を動かす。


「……っ!」


 それだけの動作さえ見逃されず、どこからともなく不可視の弾丸が彼の腕を貫いた。


「…………手強いな」

「ゼオス!」


 右腕にできた空洞から流れる血を見て、ゼオスが無機質な声を発し、蒼野が悲鳴を上げながら振り返る。

 その様子を彼らを囲っていた面々が確認すると、なんの合図もせずに全員が一歩前に出る。


 それだけで蒼野達四人を囲っていた彼らの間にできた隙間が完全になくなり、あらゆる道が塞がれる。


『蒼野、聞こえるか』

「康太?」


 そんな中、蒼野の脳内に語りかけてくる声がする。自分の真後ろで陣取っている康太のものだ。


『これから俺が正面に派手な攻撃を仕掛ける。それに合わせて優にゼオスと一緒に攻勢に出ろ。真正面を開けて、そこから包囲網を突破する。分かったら一歩下がれ』


 相手の脳内に直接語りかける『念話』。それによって伝えられた内容に従い一歩下がる。

 それを確認し、康太は腹を括る。

 念話は微量の属性粒子と特殊粒子を混ぜて相手の脳内に直接語りかける力である。

 会話を聞かれる心配がないため盗聴に対しては滅法強いが、粒子が漏れているため感知能力持ちには間違いなく何かをしたことがばれるという欠点がある。

 今回の場合もそれは当てはまったようで、詰めてくる面々の内数人が腰を低くし、いつでも飛びかかれる体勢を取り、それを見て察したのか他の面々も各々の武器を取りだす。


「一度だけ警告をする。無駄な抵抗はよせ。大人しく捕まる方が身のためだぞ」

「おとなしく、か」


 警告を口にするのは鼻の付け根から下を鉄製のマスクで隠した長髪碧眼の女性。

 その言葉に従い康太は銃に添えていた手を上げて、それに続いて蒼野が、優が、そして僅かに時間を置いてゼオスが両手をあげる。


「………………懸命な判断だ」


 その姿を目にしてそう口にして近づく彼女の前だが、その瞬間、地面が隆起する。


「な!」

「悪いがそんな性分じゃなくてね。断らせてもらう!」


 隆起した地面はそのまま前へと進み、女性を含め蒼野から見て正面に居た三人を囲いから押し出した。


「小童共が!」

「行くぞ!」


 上げていた腕を勢いよく振り下ろし、隠し持っていた爆破の能力を込めた銃弾を投げつける康太。


「ぐ、小癪な!」


 康太達の反抗に動揺を見せることがなかった数人が距離を詰めるが、その数人全てをゼオスが相手し、反撃をする暇など与えず切り捨てる。


「させん!」


 康太が前に進む中、天狗の仮面を被った女がクナイを投げる。


「優!」

「ええ!」


 それらを視界に収めると同時に蒼野の声を聞いた優が自分たちにあたるクナイだけを叩き落とし、優と蒼野、そして康太の三人が一丸となり迫る相手を退ける。

 そうして前に出ようとしたところで異変…………に気が付く。


「こ、これは!?」

「動けない!」


 前へ向けて走りだしたはずの康太と優が、足を動かすことができず顔を歪める。

 瞬時に何が原因かを探るように視線を泳がせ、


「……あれか!」


 康太と優がほぼ同時に、自分達の影に刺さるクナイを見つけた。


「影喰いクナイ。我が一族の得意技だ。貴様らの体は、漆黒の刃が捕えた」

「しゃらくせぇ!!」


 背に真っ黒な羽を背負った、天狗のお面を被った女性が説明している間に、地面に刺さるクナイを銃弾で撃ち落とす康太。


「そこまでだ」

「ちぃ!」


 それだけで二人は再び動けるようになるが、動きを止められていた僅かな時間はあまりに大きなものであった。

 気がつけば四人は再び囲まれ、引き金に手をかけていた康太の首元には、棍が向けられていた。


「流石は原口善の部下、というところか。この人数差相手に戦いを挑み、陣形を崩しかけるとは…………」


 再び話しかけてきた鉄のマスクをした女の指からは緑色に発光する糸が伸びており、それが瞬く間に彼らの体を縛り上げ、今度こそ完全に身動きが取れない状況に追い込まれた。


「…………」

「おっと動くなよ色素の薄い肌をしたあんちゃん。アンタが一番やばそうだからな、指一本でも動かしたら片腕を貰う」


 糸の色を見てすぐさまそれが自分ならば容易く燃やせるであろう木属性であると判断したゼオス。

 しかしそうしようとしたところで康太に対し棍を構えていた、目だけを隠している男がゼオスに釘を刺す。


「……ちっ」


 この場にいる三分の一ほどが自分に意識は向けられているのを感じ取り、さすがのゼオスも抵抗することができずその場で硬直。


「…………どうやらこれ以上の抵抗はないようですね。ではおとなしくついて来てください」


 そう言いながら近づいてくる女性であるが、その時、蒼野達と迫る彼女の前に何かが落ちる。


「な、なんだ!?」

「あれは!」

「っっっっ!」


 砂埃を巻きあげ辺りを揺らすそれは隕石が落下した際の衝撃に酷似していたが、視界を奪うそれらが晴れ目にした正体を見てその場にいた誰もが言葉を失う。

ワックスで固め全方位に尖らせた髪の毛に、様々な場所が破けたジーンズ。高校生が着るような黒の学生服を羽織り、口に花火を咥えるその姿は蒼野達が待ち望んでいた人物。


「久々に見た野郎共が雁首揃えてると思えば……ずいぶんと好き勝手してくれてるじゃねーの」


 原口善に他ならない。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


少々遅れてしまい申し訳ありません、本日分の更新でございます。


本編に関しては見ての通り的の全貌やら実力がやっと見えて来た感じです。

ここの実力にばらつきはあるとはいえ、固有の仮面を被っている面々はたいていが最初の頃に戦った

ライクルルと同等か、それ以上の実力と思ってもらえればよいかと。


まあ、次回の相手が相手なので、お察しなのですが


兎にも角にも次回は善さん大暴れ!


な一話になるので、よろしくお願いします


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