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十の粋 呼ばれ現れるは風雲児


『………………………………付近に強烈な粒子反応を確認。『鍵』の開封許可が下りました』


 若くして様々な技能を所有し、その一つ一つを高水準に修得しているシェンジェンであるが、実のところ彼が秘めている秘中の秘。最大の切り札は彼個人の技能とは別の場所にある。


 付け加えるなら、その正体に関して知っている者は実に少ない。


 同じ風使いにして知人であるシロバ・F・ファイザバードや、知り合いの中ではよく顔を合わせているレオン・マクドウェルのような物でさえ知らない。

 それどころか同じ神教勤めにして神の座・古賀蒼野の右腕であるゼオス・ハザードすら知らないほどである。


「はぁ………………僕が追い詰められてるなんて知ったら、絶対後がめんどくさいよコレ」


 知っている者は神教のトップである蒼野や、非常事態時においてそれに勝る権力を持つ積などごくごく少数に限られるのだが、実のところこれは『『切り札として』秘密にしているから』という事だけが理由ではない。

 もう一つの大きな理由として『使うと後が鬱陶しいため、普段は自発的に鍵をして閉じている』ことが挙げられるのだが、目前の窮地を前にしてシェンジェンは自身が課せた封を解いた。


「クレマリア――――――――」


 先の爆発の威力は爆発は凄まじく、襲い掛かる衝撃は分厚い氷の盾で減衰させたものの全身の骨が軋むほどで、熱を筆頭とした気体は強烈な風で跳ね返そうとしたが、これも思惑通りの結果に至ったとは言えなかった。

 結果シェンジェンは片膝をつくのがやっとの状態にまで追い詰められるが、これから繰り出す切り札に関して言えば、そんな状態でもなんら問題なかった。


「エアロ――――――!」


 なぜならそれは、彼自身が動く必要のないもの。

 とある存在を呼び出すための呪文であり、


「ッ!」


 最後まで告げられるよりも早く、状況の変化を慎重に観察していたセロが動く。

 詠唱の意味に関してはわからずとも、自身にとって特大の『不吉』が襲い掛かってきていることを察したゆえに、瞬く間にシェンジェンまでの距離を詰めるが――――遅い。


「ゴット!」


 シェンジェンはセロが攻撃を仕掛けるよりも早く末尾の句を唱え終えており、セロが突きを繰り出すよりも早く、惑星『ウルアーデ』においても中々観測される事の無い勢いの疾風が両者の周囲を席巻。

 それは攻撃を仕掛ける直前まで迫っていたセロが動けない勢いで荒れ狂い続けたかと思えば主を引き寄せながら天へと昇り、


「これは!」


 一つの属性を類まれない領域まで磨いた事で至れる最高峰の証が現れる。


「HUHAAAAAAAAAAA!!!!」


 それは超圧縮された故に視認さえできるようになっている桃色の塊。

 巨大な二つの拳骨を左右に従え、拳の倍以上の大きさをした頑固おやじの顔が、その瞳を真っ赤に輝かせながらゆっくりとセロへと向け落下していく。


「デカいだけではな!」


 その威容を前にしても美しい貌をした青年は一歩も引かない。

 もとより巨体相手が苦手なわけではない。いやむしろ得意であり、その証が彼の持つ神器である。


「爆ぜろ! デストロイ・ハート!」


 彼の持つ棍の神器『デストロイ・ハート』の持つ能力は至ってシンプルな『爆発』である。

 問題なのがこの神器が同時に複数本の生成が可能な事。それに爆発の規模と箇所をいじれる点で、これらをうまく組み合わせる事で彼は、先にシェンジェンにお見舞いしたような細工を施したり、変化形の能力を混ぜる事で、神器の姿を誤認させ戦いを有利に進めているのだ。


「吹き飛べ!!」


 その特性を、今回も遺憾なく発揮する。

 手にしていた棍を掌に収まるサイズにまでまとめたかと思うと全力投球。そしてそれを追うように地面から生えた無数の棍が風の塊へと向かって行くと、迫る巨躯に直撃し、粉々に霧散させる。


「ハッハァ――――ァ!!」

「何!?」


 その結果をしっかりと目にしたセロが胸を撫で下ろしかけたタイミングを狙いすまして真横から襲い掛かったのは、彼の全身を包み込めるほど巨大な拳で、吹き飛びながら視線を向けた先で彼は目にするのだ。

 つい先ほど自分が粉砕したものと同じ顔に、今度はしっかりと胴体まで備えた頑固親父。


「いやはやいやはや! 日頃は嫌がっている我を呼ぶとはな! ずいぶんと苦戦しとるではないか!」


 十属性が一つ風属性を束ねる神。

 クレマリア・エアロ・ゴットの姿である。


「小言は後で聞くよ。問題は目の前の人だけど行けそう? 行けそうなら押し付けて、中にいる捕虜を助けに行きたいんだけど?」


 ここまでの流れを空から見ていたシェンジェンは、口から零れていた血を乱暴に手の甲で拭うとそう提案。

 それを受けた風の神は規則正しく並んだ歯を見せつけ、ギョロリとした大きな目で自身を呼んだ召喚者を見上げ、


「大丈夫に決まっておる! やるべきことがあるのならば好きにせい!」

「痛いんだよ一々!」


 豪快な笑い声をあげながらそう宣言。

 隣にまで移動しシェンジェンの背中を叩けば、召喚者であるシェンジェンは悪態を吐きはすれどそれ以上何かをするようなことはなく地上へ。

 セロよりもログハウスに近い位置にいたこともあり、真横を通るなどの危険を冒す事もなくログハウスへと近づいていく。


「逃がさん!」


 無論それを、対峙する彼が見逃す理由はない。

 己が得物を生成ししっかりと持つと瞬く間に距離を詰め、


「おおっと。ここから先は通行止めだぞ坊主ぅ」

「邪魔だ!」


 宙から降り立ち立ち塞がる風の神に対し吠えるが、真正面から相手にしようとは思わない。


「どれだけ強かろうが風の塊なのだろう? ならば!」

「ぬ、んぐ………………ギャァァァァァァァァァ!?」


 手にしている棍の先端部を風の神の足元にある地面に叩きつけ、先端部のみを爆発。

 それを瞬く間に五回繰り返す事で風属性粒子が集まって形成された肉体を四方八方に霧散させ道を開き、障害のなくなった一本道を全力で突き進む。


「狙いどころはいい! すごくいい!」

「けど残念だったね! お兄さんは、わたし達について知らなすぎた!」

「!?」


 過程で、その肉体に綺麗な十字が描かれる。

 それを成しえたのは先に吹き飛んだ頑固親父とは別の個体。

 クレマリア・エアロ・ゴットの召喚により現れる少年と少女の形をした異なる神による神速の斬撃で、


「おの、れ!」

「驚いた? 僕達はね!」

「三人で一つの神様なの!」


 内臓に到達するほどの傷を負ったセロが両膝を折り、趨勢は決まった。




 



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


今回で超久しぶりに登場。

ルイン・アラモード以来二神目となる属性神。クレマリア・エアロ・ゴットの登場です。


一応ここで彼らに関する再確認をしておきますと、属性神は『極致』の一歩手前。

『極致』が『一人しか覚えられない』という制限があるのに対し、万人が覚える機会を得れる最終到達地点です。


特徴としては召喚者が動けずとも自立して動ける事。そしてその攻撃が全て神器が持つ『あらゆる能力・異常の無効化』を秘めているという事です。

ただ召喚者本人はその力を使えないという制約があり、逆にその力を自分自身が自在に使いたい場合は、属性神を呼ぶことが出来ない。


つまり超強い援軍の召喚か、超強い属性粒子術のどちらかを得られるという事ですね。


この例外が一つの体に二つの人格を内蔵するヘルス・アラモードで、彼の場合『人格二つだから二つ得ていいじゃん!』なんてズルをしています。本当にズルいですね! そりゃ強いわ!


戦いの方はと言うと、少々長く続きましたがついに佳境。終わりが見えてきました。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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