オルレイユ第七高校 1年Y組 2頁目
オルレイユに存在する八つの高校全てが参加する一大行事『対抗戦』が終わってから十日。
外部の人らを巻き込む規模のお祭り騒ぎは終わりを迎え熱が引き、参加していた生徒は、教師は、一般客は、対抗戦が戻る前と同じ、つまり普段通りの生活を送るようになっていたが、そうではないものも存在していた。
具体的に言えばシェンジェンがそれだ。
「どっせい!」
「シェ、シェンジェン・ノースパス! 秒間移動距離、200万メートル!」
「一応聞いておくけど、これでAだかSだかの最高評価は貰えるよね? ダメならもうちょっと本気出すけど?」
「だ、大丈夫だぞ! 問題ない! 文句なしのS評価だ!!」
「よっし!」
用意された円形トラックを何の能力も粒子も使わず、己が肉体能力だけを駆使して一秒間延々と回っていた彼は、つい先日まで掲げていた『周りに合わせる事で目立つことなく、平和で楽しいキャンパスライフを謳歌する』という目的を放り投げ、今、あらゆる科目を全身全霊で取り組み、他者を圧倒する結果を叩き出していた。
「ふん!!」
「シェンジェン・ノースパス! 秒間行動回数1214回!」
こうまでして真剣に取り組んでいる理由は十日ほど前に行われた『対抗戦』後の一戦。
生徒会長であるヌーベとの対戦における敗北が原因であり、シェンジェンは今、その時に味わった過去最大の屈辱を晴らすために尽力していた。
その為に彼は、ヌーベが提示した通りオルレイユ内にある学校に通ってる高校生の強さの指標である『個人ランキング』において、最上位に位置する十六位以内に入る事を目標としており、その目標を叶えるために、評価項目の一つとして見られる身体測定全てで、最高評価を取ることに意識を置いていた。
「うわ、すごいねシェンジェン君。また九十五点以上! 苦手科目とか全くないの?」
「心底ありがたいことに僕の両親は両方とも頭がよくてね。その出来のいい頭がボクにも遺伝したって感じらしい」
「へぇ~。羨ましいなぁ。僕は理系全般が苦手なんだよね」
「どこら辺が苦手なの? 教えられそうなら教えるよ」
「えっと、このあたりなんだけど………………」
学業に関してもその才覚は発揮され、シェンジェンは一度習った内容は全て覚え、基礎を応用した問題に関しても完璧に修得。授業の際に時折行われる小テストの類は全て九十五点以上をキープしており、学年どころか第七高校全体において、一躍注目される存在となった。
「せいやっ!」
「そこまで! 勝者! シェンジェン・ノースパス!」
「ありがとうございましたー!」
当然模擬戦の授業に関しても負けなし。
ダメージが少なくできるだけ早く決着をつける方が評価点が高いという事で、全ての戦いにおいて、相手の意識を一撃で奪っていた。
「はーい。はいはいはいはい! ここまでですよー! さっさと諦めちゃってくださいねー!」
「く、クソ。なんだこのクソ強いガキは! 邪魔すんじゃねぇ!」
「法に触れてる立場で偉そうなこと言わないでよ。恨むなら、ルールを破った自分を恨むべきだと思うよおじさん!」
無論学業だけでなく本来の仕事に関しても一切手を抜いていない。
部活動に所属していない彼は、治安維持の一環でオルレイユで起きている事件で自分に回って来た案件全てを文句の一つもあがらないほど完璧に遂行し続けていた。
「シェンジェン君! 我々と共に熱い夏を過ごさないかい! 君ならすぐにレギュラーに慣れるぞ!」
「それだけの頭脳があるのなら我々と共に新たな兵器を作らないかい! 世のため人のためになるぞ!」
「申し訳ないですけど、どれもお断りします。本業が忙しいもので」
「むぅ………………」
「それを言われてしまうと、退かざるえない………………!」
「な、なら! イレちゃんファンクラブはどうだ! 僕たちの知らない彼女の一面を知る君を、我々は特別待遇で受け入れるぞ!」
「絶対に嫌だよ! てかなんで行けると思ったんだよバーカ!」
「じゃあさじゃあさ、付き合ってる人はいんの? アタシとかどう?」
「悪いけど色恋ごとはパスで! めんどい!」
結果、今のシェンジェンは、積み上げた実績に中性的な容姿が合わさる事で、十日前とは比較にならないほどの有名人となり、ちょっと前までは隠し通そうとして来ていた『神の居城本部勤め』であるという事実も多くの人らに知られる事になっていた。
「いい。いいですわね。彼、すっごくいいですわ」
「さようですか」
その姿を目にして、他の者とは比べ物にならない勢いで目の色を変える者がいた。
栗色の長髪を二本の縦ロールにして、強気な性格が伺えるツリ目をした彼女は、自身の薄桃色の唇に右手を持っていきながら頬を歪め、
「類稀なる身体能力に優秀な頭脳! 神の居城本部に勤めている背景! 何より顔がすごくいいです! 彼ならばこのワタクシの横に立つのにふさわしい!! なにより!!!!」
「なにより!」
「あの憎たらしいイレになびかない態度! 素晴らしいですわ!!!!」
隣に立つ執事服の青年に対しそう断言した。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
前回までの対抗戦が終わり、日常へ回帰。
シェンジェンの周りの変化に関する一話です。
激しい戦いや重要な設定周りの開示があるわけではないですが、それでも彼の心境の変化を考えれば必要かな、と思い描かせていただきました。
と同時に次回からの騒動に関しても最後に顔見せ。
第七高校のアイドルが発端となるおバカな騒動がまた起きていきます。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




