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勝敗を隔てたもの 一頁目


 戦いの終わりを堂々と告げるようにフラッグを握った腕が掲げられる。

 元を辿って行けばそこにあるのは一人の青年。

 桃色の髪の毛の裏側が空色になっている美少年、すなわちシェンジェン・ノースパスの勝ち誇った顔があり、


「っと、忘れちゃいけないね。確か今回のルールは先にフラッグを『落とした』方の勝ちだったね!」


 言いながら持っていたフラッグを地面へ投擲。

 一拍遅れて歯を食いしばったヌーベ・レイが、腕から伸ばした雲でシェンジェンのフラッグを掴み、勢いよく引っこ抜いて地面に叩きつけるが、差は歴然だ。

 既に彼が頭に差していたフラッグは地面に接触しており、それから数秒の間をおいてヌーベが引き抜いたフラッグも地面に衝突。


「終わったようですね」


 このタイミングで審判役のエラッタ・リードが二人の前に馳せ参じ、此度の戦いの勝者を告げるのだ。


「勝者! ヌーベ・レイ!!」


 曇りなき眼で、堂々と。腕を掲げながら周囲一帯に木霊するほどの大声で。


「………………………………………………………………………………え?」


 となれば鳩が豆鉄砲を食ったような声をあげるのは一瞬前まで勝ち誇っていたシェンジェンで、オイルが切れた歯車のように鈍い動きで視線を審判役へ。


「え、いやちょぉっ!? 待ってよ! 君は見ていなかっただろうけどさ! 確かに僕が先に地面に『落としたんだ』! 『抜いた』だけでなく『落としたんだ』! だから勝ったのは僕で!」

「様子はイレさんから頂いたロボットの映像で拝見していました。先にフラッグを落としたのは確かに貴方です」

「っ! そこまで言っておいて勝者は生徒会長って断言するってことはさぁ! もしかして身内びいきってやつなんじゃないの! 流石にそんな事は許せないんだけど!」


 最初こそ唖然としながらの訴えであったが、エラッタが迷いなく断言すると、クレーマーを彷彿とさせる勢いで言葉を投げかけ、それが一段落したところでエラッタは軽く息を吐き視線をヌーベに。


「納得できないのも当然の事だろうから、ここは勝敗を分けた瞬間を見てもらおうエラッタ」

「カメラに入った記録映像を見る術に関しては私にはどうにも。イレさんを呼ぶしかないのですが」


 すると怒りを露わにするシェンジェンを挟みながらそのような会話が行われ、シェンジェンが『あいついないじゃん!』と声を荒げるが、状況はすぐに好転した。


「ほいほいワタシの出番だねー。それとね副生徒会長。カメラじゃなくてロボチョッチョ! しっか~りと覚えておいてよ!」

「失礼しました」


 この話題を収束させることが可能な美少女が手と髪をぶんぶんと振りながら現れ、エラッタの返事を聞くのとほぼ同時に手元にある小型のキーボードを操作。

 第七高校各所に飛んでいたカメラを装着した小型ロボットが数秒ほどして彼女の頭上で輪を描き、そのうちの一台が彼女の目の前で静止。

 手招きするとシェンジェンが荒い足取りで、事情を知っている残る二人が落ち着いた足取りでイレの側にまでやって来た。


「これは?」

「戦闘開始直後から生徒会室を映してたロボチョッチョの映像だよ。よーく見といてね敗北者」

「その綺麗に整えた髪の毛を真っ黒こげのアフロにするぞ………………ここに何が映ってるって言うんだ」


 彼らの前で映し出された光景は、生徒会室の中を映していたカメラのもので、シェンジェンが凝視するとそれは、戦闘開始直後の映像であった。


「ついでに言うと戦いを最初から振り返る、なんて退屈なコーナーも却下だ。要点だけを見せろ要点を。こんな最初の場面に意味なんてないだろ」

「大ありだよ大あり! だってシェンジェンが負けたのって、最初のこの時点が決定打だったんだからさ」

「どういうことだよ?」


 すぐさまシェンジェンは文句を口にするがイレが弾んだ声で反論。

 すると彼は訝しげな声をあげるが、


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 自信がレーザーの弾幕を回避し、そのまま外に逃げ出したタイミングで声をあげた。


 なぜなら彼は見てしまったのだ。


 残っていたヌーベが、追って外に出てくるまでの数秒間のあいだにエラッタに何か質問をしたかと思うと、自分の頭に刺さったフラッグを急いで抜いて自身が生み出した雲の上に差し、代わりの物を雲で生成し自分の頭に突き刺した様子を。


「!」


 シェンジェンがすぐに視線を自分が落としたフラッグに向けると、彼の見ている前でフラッグはモクモクの雲に代わり消失。

 なおも現実を受け入れられないシェンジェンは空を飛んで生徒会室に戻ると確かにあったのだ。

 ヌーベが頭に差していたものと全く同じフラッグが。


「こ、こんなの………………こんなのルール違反だ!」

 

 となると頭に血が上ったシェンジェンが声を荒げるが、エラッタとイレの二人を雲に乗せてやってきたヌーベは全く動じない。


「ルール違反、とは?」


 穏やかな、けれど相手に決して主導権を譲らないつかみどころのない声色でそう告げる。


「そ、それは………………こんなことしていいなんてルールで説明されてない!」

「そうだね。でもしちゃいけないとも言われてない。だから君がいなくなってすぐにルールの隙間をつくことが出来るかどうかを確認して、許可を取ってやっている。だからこの件に関しては一切非はないと言わせてもらうよ」

「っ」


 とするとシェンジェンは一瞬怯んでしまうがすぐに気を取り直し声をあげるが、ヌーベは一歩たりとも退かない。

 怯みも苛立ちも全くなく、淡々と必要な事実を告げ、シェンジェンを真っ向から黙らせた。

 つまりそれはシェンジェンがこれ以上反論する言葉を思いつかない事の証明であり、


「………………………………………………………………認めない」

「!」


 それからやや間をおいて、声が絞り出される。

 怒りと憎悪、それにただの競技には不必要なほど強烈な敵意が、体内から零れてくる。


「こんなルールに縛られた末の結果なんて僕は認めない。全力同士なら絶対に負けないんだ!」

「………………っ」


 同時に発せられる風の質は、先ほどまでと大きく異なる。

 それまで平静を保っていたヌーベさえ眉を顰めるほどのそれは、周囲一帯の空気を一変させ、


「もう一度…………もう一度勝負だ! 今度は全力で! 完膚なきまでにアンタを!」


 咆哮と共に風は彼の背後で形を成し始めていき、次いで周囲一帯の空間が歪み、あらゆるものが宙を舞い、


「…………見苦しいぞシェンジェン」

「!」

「………………此度の勝敗は筋の通った理屈のあるもの。そしてお前の敗因は明確な準備不足だ。お前とてわかってるだろう」

「………………!」

「貴方は………………!」

「………………それを受け入れられず暴れるようなら、俺が相手になるぞ」


 その異常全てを一刀で鎮めながら、ゼオス・ハザードが彼等の前に現れた。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


周りにネットを繋げるwifiがない事が分かったため、今回は初の予約投稿。

内容は先に述べた通り解説編ですが、ヌーベ勝利の理屈はどうだったでしょうか。

納得してもらえたなら幸いです。

本来ならここから更にシェンジェンの敗因ターンが続くのですが、思ったよりも長くなったので前後編に変更。

シェンジェンには申し訳ないですが、もう一話イジメられてもらいましょう。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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