シェンジェン・ノースパスVSヌーベ・レイ 二頁目
開始と同時に行われた光属性による正確無比な初撃と追い打ち。
追い打ちの後に迫った二者択一の選択肢。
それに今回に限り大抵の攻撃は回避する必要がないという事実。
(エアボムが起動しなかった。どういう類の能力だ?)
此度の戦いは普段以上に勢いよく考察と気づきの要素がシェンジェンへと襲い掛かり、状況は刻一刻と移り変わっていた。
そしてそんな中で、これまた看過することが出来ない新たな謎が提示される。
必中のつもりで放った能力『エアボム』が不発に終わるというそれは、決して無視する事ができない事態であり、けれどこのタイミングでここ数日を振り返り、少年は舌打ちした。
「よく考えてみたら最近こんなのばっかだ。腹が立ってくるよ。本当に」
なにせここ数日の戦いにおいて、彼は一度たりとも全力で戦えていなかった。
殺人鬼の時は白い霧が邪魔をしており上手く属性粒子を扱えなかったし、クロムウェル家の息子は完璧に対策した上で挑んできていたため終盤以外は窮屈だった。
もう少し前に戻ってみれば我龍との戦いが思い出されるが、あの戦いではそもそも粒子を用いること自体が禁止されていた。
他にもいくつかの戦いを経験したが、そのどれもが全力とまではいかずとも、半分ほどの力を発揮すれば乗り越えられる程度のものだった。
「クラウン・クラウド」
「………………雲?」
ままならない現実に対し不快感は延々と募り続けるが、そうしているあいだにまたも戦況に変化が訪れる。
シェンジェンを見下ろしているヌーベが、己が駆使する力の名を告げると、腕の至る所から羊毛のような柔らかさを伴った雲が溢れ、空中に滞留。
(氷属性もダメか!)
何をするつもりかは知らずとも、それらが自分にとって都合の悪い物体であることだけは確信できるシェンジェンは、風属性ではなく氷属性で対抗しようとするがこれもダメ。
彼等を包む世界には何の変化もなく、そうしている間に空中に滞留した雲はうねり出し、巨大な槍へと変貌して落下。
シェンジェンの脳天を正確に狙っているが、外れた。
「種も仕組みもわからないのは癪だけど、どうやら体の中で循環させるだけなら問題ないみたいだね」
「うん。君を苦しめてる私の能力は、体内にまでは届かないよ」
「ペラペラと喋った事を後悔させてやる!」
風属性による肉体の軽量化と速度上昇を行ったシェンジェンはそれを難なく躱しており、咆哮をあげながら校舎三階の辺りの高さに浮かんでいるヌーベの真下に移動。
繰り出した拳は手の甲で弾かれるが、その時点でシェンジェンは確信を抱く。
「お偉い生徒会長様は泥臭い殴り合いは苦手らしいね」
「恥ずかしながら、生まれてから今日まで本以上に重いものを持ったことがないんだ。優しくしてくれると助かるよ」
「冗談!」
口にした通りの意味ではない事は明白だが、接近戦においてヌーベがシェンジェンよりも劣っている事は確かで、二手三手と攻撃を繰り出し続けると、微々たるものではあるが二人の動きに差が出始める。
「もらった!}
千手繰り返せばその差は歴然で、一手分の時間を稼いだシェンジェンの腕が、なんの守りも敷かれていないフラッグへと伸びていた。
「ライトニング・レイン」
「クソッ!」
が、届かない。
近接戦において優位な立ち回りをしたシェンジェンであるが、真っ黒に変色していた雲が二人の間に割り込むと、轟音と共に雷をシェンジェンへと向け放出。
「今のは惜しかったね。ヒヤリとしたよ」
急いで距離を取るシェンジェンであるが、そんな彼にヌーベの体から溢れ続ける雲が迫っていく。
距離の際限など微塵もなく、数を増やしていきながら、円柱の形で頭頂部にあるフラッグへ。
「邪魔!」
それはシェンジェンが前に進めるだけの隙間さえ作らないほどの密度であり、回避に徹していたシェンジェンが間近な場所にある雲の円柱を強打。自らが進む道を切り拓く。
「は、はぁ!?」
だがこの思惑も上手くいかない。
叩いた雲の円柱は一瞬だけ真下に落ちるがすぐに戻の場所に帰還し、シェンジェンの行く手を阻み続ける。
「どうし………………………………あ」
この光景を間近で見て、『どうして千切れないのか』などと口にしかけたシェンジェンだが、彼がこの戦いのルール。
すなわち攻撃の威力が十分の一に落ちているという大前提を思い出したのはこの時だ。
「あのルールって! 校舎や花壇以外にも敵の攻撃にも適用されてるの!?」
真相に気が付き、呆気にとられたシェンジェンは直後に後退。
少なくとも何のプランもなしに雲の守りを崩す事ができない事を悟ると、校舎を超えた先にある校庭まで辿り着き、端にあった陸上部の道具がまとめてある部室の裏まで疾走。
「流石は個人ランキング第一位。策を練らなくちゃキツイね。てかこの勝負のルール。もしかして僕が気づいてないだけで色んな抜け道だったり裏ルールがある感じ?」
建物を背にしながら右手の人差し指でこめかみを小突き、これまで感じた違和感や解明した謎を羅列し逆転の可能性を模索していく。
「早い! もう来た!」
だがヌーベ・レイは抜け目がない。
シェンジェンが考える暇などない速度で追っ手の白い円柱が迫っており、上下に加え上空からシェンジェンへと迫る。
「………………え?」
直後の行動は咄嗟の事。
ただ逃げ回るだけでは追い詰められるだけであると悟ったシェンジェンは、何かせねばと思い普段は用いぬ鋼属性を使い自身への道を塞ぐ固い壁を生成。
反射的な行動ゆえ何も考えておらず、すぐに風属性や氷属性と同じく、うまく発動できず失敗に終わるとシェンジェンは思ったのだが、その予想を裏切るように鋼鉄の壁は出来上がり、襲いかかる雲の猛追を防いで弾いた。
「……いやダメだ! 今は時間がない!」
この事態をシェンジェンは不思議に思った。
先に発動しなかった二属性と今使った鋼属性にどんな差異があるのか考えかける。
が、蓋をする。
「いた!」
「!」
『今最も重要なのは勝つことで、ならば使える物を最大まで活かす事に重点を置くべきだ』と考え意識を集中し、鋼鉄の壁の生成した事で生まれた隙間から建物の裏から飛び出ると、百メートル先にいるヌーベを視認。
「そこ!」
「む!?」
ヌーベが斜めに吹き飛ぶように鋼鉄の壁を生成すると、二階の窓から彼の体を校舎の中に飛ばし、自身はすぐそばにある勝手口を通り中へ。
「狭い廊下じゃ、これまでみたいに雲を上手く展開できないでしょ。お前だって物を壊せないからさぁ!」
「なるほど。よく考えているね」
彼我の距離はおよそ二十メートル。
一呼吸どころかたった一歩で詰め切れる距離を、雄たけびを上げながらシェンジェンは駆け抜けた。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
VSヌーベ・レイ戦その2。
あれですね。わりとシェンジェンが強い方なので、今まではアッサリ気味な戦いが多かったんですけど、今回は色々と考えたり苦労させたりできてますね。
個人的にはある程度拮抗した戦いの方が色々できて楽しいので、こっちの方が好きだったりします。
そんな今回の戦いですが、中々サクサク進んでいるためおそらく次回で終了。
どんな結末を迎えるか、少々お待ちください。
それとこちら側の事情で申し訳ないのですが、次の日曜日は賞に投稿するをがっつり書きたいのでお休みさせていただき、次回更新は一日だけ遅れて8月11日となりますのでよろしくお願いいたします。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




