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シェンジェン・ノースパスVSヌーベ・レイ 一頁目


「いらっしゃいませ。三名様でよろしいですか?」

「ああ。奥の席を利用したいのだがよろしいか?」

「かしこまりました」


 今日一日の間にいくつもあった試合を締めくくる最後の一戦。

 その始まりを告げるエラッタの声が発せられるより少し前に、誰にもバレることなくイレ・スペンディオは部屋の外に移動していた。


「いやすっごい驚いた! まさかお二人が一緒にいて、しかもこの試合に注目してるなんて! え、なんでなんで?」

「そもそもの発端が私の依頼ゆえだな。ゼオス君と一緒にいたのはたまたまだ」

「へぇー。そんな偶然があるものなんですね」


 それを成し得たのが彼女と向かい合って座る新世界有数の実力者。すなわちゼオスとエルドラの協力によるもので、二人は訪れた人気の少ない喫茶店の奥で、イレが机の上に置いた小さな球体に目を向けた。


「あ、すぐに学校全域に飛ばしたロボチョッチョの見てる視点に繋げるので、もうちょっとだけ待ってくださいねー」

「…………ロボチョッチョとはなんだ? 新手のロボットか?」


 机の上に置いた球体に対し、手元にあるキーボードを叩いて指示を出していくイレであるが、聞き覚えのない言葉を聞きゼオスが首を捻る。


「ロボチョッチョはロボチョッチョですよ」

「??」


 直後に行われた大雑把な説明を受けてもゼオスはその意味を把握できない。

 なので今度は逆の方に首を捻り、


「もう! ロボットの事で、最近流行りの呼び方ですよ! 情報が古いですよゼオスさん!」

「…………そうだったのか。すまないな。他にも覚えておくべき流行があれば教えてくれ。記憶しておく」


 とすると彼女は軽快にキーボードを叩きながら具体的な説明を行い、ゼオスはといえば謝罪しながら話を繋げるが、補足しておくとこの『流行り』と言うのは彼女の中だけのものであり、その呼び方をしているのはオルレイユにある学校くらいである。


「任せてください! 流行りに乗り遅れたおじちゃんに色々教えてあげるのは女子高生の役目! 何に付いて知りたいか教えてください!」


 イレはと言うと、教えを乞われた事で上機嫌になり、周りの目を惹くほど育った胸を張りながらそう言い切るのだが、ゼオスの返答はない。


「あり? どうしました?」


 彼女が首を捻ったところでなんの反応も示さず、


『…………エルドラさん』

『念話でわざわざどうしたゼオス君』

「………………………………二十七歳は、おじさん………………なのか?』

『いやわざわざそんなことを深刻な声で訴えてくるな! どうでもいいだろうがそんなこと!』

『……俺がおじさんなら貴方はなんなんだ。おじいちゃんのレベルを遥かに超えているぞ?』

『千歳越えの俺とわざわざ比較するんじゃねぇ!』


 その裏では、九年前では決して発さなかった途方に暮れた声をあげ質問。人間形態の際の丁寧な態度も忘れたエルドラが素の反応を行っていた。


「あ、ついた!」


 既に二人から意識を離していたイレはというとその間に操作を終えており、球体から飛び出た映像がシェンジェンとヌーベのいる部屋が大きく乱れている様子を映したタイミングで、念話で行われていた無意味なことこの上ない言い合いは終わりを迎え、


「ほう。これはこれは」

「…………察するに初手で決まったか?」


 早くも勝敗が決した事を悟った。




 『万夫不当』や『一騎当千』に『超越者』。

 他にも付いている地位など、惑星『ウルアーデ』には強さを示す指標がいくつか存在するが、シェンジェンはそれとは別に、相手がどの程度の手練れであるかを見分けられる要素を持っていた。


(見事、だね)


 それが攻撃を行う際の粒子の圧縮率。それに手際の良さで、大量の粒子を迅速に圧縮して撃ちだす技術の練度をシェンジェンは特段気にしていた。


(戦場で目にする熟練の粒子使いより二回り以上の腕前! これが第一位か!)


 その測量方法に則れば、ヌーベ・レイは並みならぬ逸材であった。

 開始と同時に繰り出された細長い光の帯の圧縮は称賛を送れるほどのもので、ほころびがあり粒子が漏れ出ているということもない。

 狙いに関しても、シェンジェンの頭に付けられたフラッグを正確にとらえている。


「うん。予想通りだ」

「マジ!?」


 加えて先読みの力も優れている。

 シェンジェンが飛来する初激を僅かに体を逸らすだけで回避すると、その動きを読み切った追撃が既に撃ちだされており、この場に留まり続け戦う事を危険視したシェンジェンは急いで後退。


(外か! 屋内か!)


 跳躍して空に浮かぶと戦場を狭いこの部屋から移動しようと画策し、ほんの一瞬ではあるが静止。

 自信の背後にある廊下へと続く扉か。ヌーベを追い越した先にある屋外へと続く開いた窓か。

 どちらに動くかを考え、


「そっちの方が僕向きだ!」


 数十発の光の帯が正確にフラッグへと向かってくる中、ヌーベの頭上を通り越し外に繋がる窓へ。


「お返し!」

「丁重にお断りさせてもらうよ」


 外気に己が身を晒す直前、屋内全体を潰すような風圧を放つが、これを受ける事になったヌーベはなおも光の帯を発射。

 回転が加えられたそれは風圧の壁を一部突き破り、外へと出ていくシェンジェンを追ってきた。


「あっぶな!」


 そのうちの一発。最もフラッグに近づいたものをシェンジェンは手の甲で急いで叩くが、彼はここで気が付いた。


(これって………………)


 今回の戦いは、普段行うものとは勝手が違うと。


「そっかそっか。威力が十分の一に落とされてるんだもんね。あの場は回避より迎撃した方がよかったのか」


 その証拠が貫通力に特化した光の帯を、焦げ跡一つ残さず弾けたからで、地面から少し離れた位置で静止したシェンジェンは何度か頷いた後に視線を生徒会室へ。


「まぁそれはあっちも同じだよね」


 目にしたのはいくつかある窓から飛び出た埃や紙片で、それから数秒ほどしたところで此度の対戦相手がシェンジェンの後を追って外へ。


「貴方は初手で呆気なく終わる事を危惧したみたいだけど、実は僕も同じ不安を抱えてたんだ」

「おや? そうなのかい?」


 姿を捉えると同時に、風・炎・闇の三属性の粒子を配合。

 使い慣れ、最も頼りにしている能力を発動する準備を瞬く間に済ませ、目標をヌーベに。


「ええ。例えばこの一撃で終わっちゃう、とかさ!」


 指を鳴らすと同時に起動させると巨大な爆発がヌーベを包み込み、頭に付いていたフラッグを粉々に破壊した。


「大丈夫さ。君にそんな手段はない」

「…………どういう事?」


 はずなのに、思うような結果は示されない。

 訪れるはずであった爆発は起こらず、シェンジェンを見下ろすヌーベの身には傷一つなく、


「クラウン・クラウド」

「………………雲?」


 熾烈な戦いの始まりを告げるように、彼の体から真っ白な雲が溢れ出した。



 

 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


さてさて始まりました延長線。

これまでのシェンジェンは初手肉弾戦が多かったですが、今回は相手が遠距離で攻めてきたので合わせるように中・遠距離戦へ移行。

出鼻をこれまで以上に見事に挫かれたのもあり、いつもと違う雰囲気を出せれていればと思います。


あ、前半部分に関しては日常パートです。

五章はこれまでの将と比べると緩いので、これからも時折こんな雑談を挟めればと思います。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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