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第七高校生徒会長 ヌーベ・レイ


 エルドラがシェンジェンに投げかけた依頼は実にシンプル。

 第七高校の生徒会長であるヌーベ・レイと戦ってほしいというもので、四大勢力の長直々の依頼ということもあり提示された報酬も中々に高額。

 つまりシェンジェンがこの依頼を断る理由は何もなく、二つ返事で快諾。

 しかしである、そこまで力を入れるつもりもなかったのがこの時のシェンジェンの本心ではあった。


 兵頭我龍の時のように急を要する内容でもなければ、犯罪者を相手取るわけでもない。

 なのでスポーツを楽しむくらいの気持ちで、それこそ適当に戦えば十分であろうと考えていたのだ。


『それとこれは余計なお節介かもしれないが………………』


 そんな彼の胸中を読み取ったからか。はたまた元々伝えるつもりであったのかまではわからない。

 なんにせよ依頼を受けたシェンジェンに対し、人型形態のエルドラは厳かな声色で語りだし、


『?』

『悔しい思いをしたくないのなら、全力で挑む事をお勧めする』

『どしてさ?』


 そう説明。その口ぶりに少々ではあるが興味関心を抱いたシェンジェンは先を促し耳にするのだ。


『彼はこのオルレイユにある八高校において数少ない…………いや同年代の中でも極少数しか存在しない、お前相手に十分な勝率を持つ相手だ。そんな相手に手加減をして負けました、などと言う事になった場合、ホテルに帰った後のお前が、悔しさから枕に顔を埋めながらバタバタと暴れる姿が想像できたものなのでな』


 自分が負ける可能性が存在すると。

 しかも口ぶりからして我龍を相手にしたとき以上の確率であるようで、シェンジェンは認識を切り替え、期待で胸を膨らませるのだ。

 自分を倒せる可能性を秘めた存在と戦えることに。




 時は現実へ戻り第七高校生徒会室。

 自信に突きつけられた果たし状を受理したヌーベ・レイであるが、それを耳にしたシェンジェンの様子は中々に珍しい。


「オッケーオッケー。それじゃあ早速だけど勝負を始めよう! 戦場はどこにする? 自己再生機能が付与されてるのは知ってるけど、流石にここは不適切でしょ」


 頬が裂けるのではないかと思わせるほどに口角を吊り上げた彼は、ヌーベを歓迎するように両手を広げながら前へ。

 隣を歩いていたイレは部屋の端へと移動し事態を見守る事にしたのだが、そんな二人に対しヌーベ・レイは右腕を掲げ待ったをかけた。


「その前にしっかりと形式を決めたい。だから少しだけ時間をもらえるかな?」

「形式?」

「そうだ………………エラッタ君!」


 このタイミングで生徒会長に呼ばれシェンジェンの入って来た入り口から現れたのは、対抗戦で共に戦った副会長のエラッタ・リードで、彼女は履いていた革靴の音を立てながら二人のちょうど真ん中まで移動。


「私が囲い、私が決める。ここは――――天秤の寵愛に満たされた地なり」


 先の戦いで見せた審判の天秤を具現化するための呪文を呟き始めた。


「ちょ、ちょっと待ってよ! 一体何をするつもりさ!?」


 となると慌てるのは突然の事態に困惑したシェンジェンで、詠唱を止めるよう彼女の口を風の塊で防ぐと、真正面に立つ穏やかな笑みを携えた生徒会長にそう質問。

 するとヌーベ・レイは申し訳なさそうに笑う。


「いや失礼。確かに先に説明するべきだったね。端的に言ってしまうと彼女の能力を周りの保護。それに今回の戦いを円滑に進めるために使おうと思ったんだ」

「保護? 円滑?」


 やや間延びした声で行われる説明を、シェンジェンは間違いなく聞き逃していない。

 だというのに言葉の意味が分からず首を傾げる。


「我龍君を退けるだけに留まらず、僕にさし向けられた暗殺者を仕留めるために奔走していたんだ。君は相当に強いだろうさ。僕だって立場上他の人らと比べたら少しばかりだけど腕が立つ自身がある。そんな僕らが全力で戦ったら周囲がどうなるかななんて、聡明な君ならわかるだろう?」


 とすれば言葉を付け足すと、流石のシェンジェンも理解でき、即座に彼の提案を否定する事は出来なくなる。


「これから試合終了までのあいだ、彼女の審判の天秤に示してもらうのは『放たれる攻撃の威力を『軽く』。フラッグにかかる衝撃を『重く』というものにするつもりだ。これを使えばかなり高火力な攻撃をぶつけても、校舎が傷つくことはないからね」

「フラッグを使うのは何でですか?」

「今回の戦いは合同対抗戦を上手くこなしてくれたことに対するお礼というものだからね。それなら対抗戦にゆかりのある物を取り入れたいと思ったんだ」


 フラッグに関する説明に関しても今回の件の報酬と考えれば妥当だ。

 ただ全力の戦いを望んでいたシェンジェンからすれば、やはり少々どころではなく物足りなく、


「それにだ、戦うとは言っても重症や死に至る可能性があるような戦いは避けたい。だから最低限の安全を確保した上でしか戦えないな」


 けれど続く発言を聞けば反論する事は出来なかった。

 ヌーベの心配は当然のものであるし、ここで断った結果戦えなくなるのが嫌だったのだ。


「…………オッケー。それで行こう」


 なので不満はあれどため息一つで捨て去り了承。


「ありがとう。それじゃあよろしく頼むよ副生徒会長」


 ポワポワという擬音が聞こえてきそうな笑みを浮かべたヌーベが自分とシェンジェンの間に立つエラッタに先を促し、


「かしこまりました。では『放たれる攻撃の威力を『軽く』。フラッグにかかる衝撃を『重く』』!」


 彼女は二人の耳にしっかりと聞こえるよう堂々と宣言。


「僭越ながら勝負の審判は私エラッタ・リードが勤めさせていただきます。ルールは対抗戦で行われた物と同じフラッグ戦。勝利条件は相手の意識を奪う事! もしくは相手のフラッグを地面に落とす事!」


 続けて能力が発動したことを示すよう天秤と両手を掲げると戦いのルールを説明し始め、シェンジェンは腕を組んだまま神妙な顔つきで待機。

 ヌーベは微笑みを携えたまま自身の額を右手人差し指で小突き、


「それともう一つ。対抗戦にて存在したリングアウトの概念ですが、今回の場合は私が展開した能力の範囲内。この場所から半径二キロ圏内とします。これはこの第七高校の半分以上を収めた範囲となり、境目では空に向かって光が昇っていますので、一目で確認できます」


 この戦いの記録を任されたイレは、持ってきた映像機器の類を自身が制作したロボットに持たせ空に飛ばし、


「本来の対抗戦でしたら時間制限のドローが存在しますが、今回の場合非公式の戦いなのでその部分はない物として使います。以上です」

「ふむ。なら一つ付け加えておこう。今の時間は先生方はいらっしゃるが、生徒は僕たち以外残っていない。この点に関しては断言していい」

「つまり?」

「職員室のある二階にさえ気をつければ、屋内を自由に動き回ってもいいということさ」


 説明が終わったところでヌーベが補足。シェンジェンは何度か頷く。


「それと言うまでもない事ですが、ルールの穴をつこうと思って神器を使う事も禁止します。ルール内でしっかりと戦うように」

「………………ちぇ」


 かと思えば思い出したかのような声色でエラッタが付け加え、シェンジェンは小さな声で悪態を吐き、


「話は今度こそ以上です。なんの質問もなければ始めますが如何ですか?」

「僕は特にないかな」


 懐中時計を懐から取り出したエラッタがルールに関して確認すると、フワフワな真っ白な髪を腰まで携え、沢庵のように太い眉毛をした生徒会長は即座にそう返し、


「じゃあ一つだけ。今日初めて知った概念だったんだけど、オルレイユの高校には『個人ランキング』なんてものがあるらしいじゃないか。生徒会長殿は何位なのさ」


 シェンジェンはと言うと興味本位からそう質問。


「第一位だよ」

「!」

「だからまぁ、相手が戦場で武勲を挙げてる凄腕だと知ってても、早々簡単に負けてあげるわけにはいかないんだ」


 声は穏やかなままで。

 けれど内に秘めた誇りが伺える内容を口に。

 それから五秒間待っても二人が何も言わない事を確認したエラッタが、二人の耳にしっかりと届く声量で『始め!』と宣言。


「最初の一撃で終わったらゴメンね」


 未だやや驚いた様子を示すシェンジェンに対し、オルレイユ最強の高校生はそう言い切りながらピストルの形をした右手の人差し指をシェンジェンへと向け、そのまま超圧縮した光属性のレーザーを撃ちだした。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


超がつくほどわかりやすい決戦準備回。

生徒会長ヌーベに関するちょっとした情報も出てきましたが、今回の話において大きく比重を置いているのはやはりルール説明。

実は色々と仕掛けが施されているわけですが、詳しくは次回以降。


命がけの戦いではない。

とはいえ全身全霊を尽くす戦いが始まります!


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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