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エラッタ・リードと審判の天秤


 戦場に立った少女が言葉を紡いだ後に最初に起きた変化は、戦場となる円形リングの側面に沿って現れた小さな光球で、黄金の輝きを秘めるそれはさほど速くはないが動き出し、その様子を一瞥した対戦相手の男が咆哮。

 下はボロボロのジーパン。上は黒のタンクトップを着たオールバックの男は、腕に嵌めた鋼鉄製のグローブを彼女の頭部に付いているフラッグへと向ける。


「折れろぉぉぉぉ!!」

「壁!」

『おぉぉぉぉっと! ケリン選手による息つく暇のない攻撃が続く! それに対抗するようにエラッタ選手は壁を張るが、一瞬で崩壊寸前に追い込まれているぞぉぉぉぉ!!』


 荒々しい声と同時に発射されたのは米粒サイズの赤く輝く弾丸で、それはエラッタが地面から生やした石の壁に衝突。

 強烈な爆発音と爆風、それに衝撃が周囲一帯に響くと一拍遅れて観客席から声が上がり、その歓声に包まれる中、第三高校の先鋒ケリン・ラザエが跳躍。

 石の壁を越えたところでグローブの照準を真下に合わすが、顔を歪める。

 エラッタの姿が見当たらないのだ。


「どこだ! どこに行ったあの女!」


 すぐに着地した彼は残像が残る勢いで首を左右に振りながら声を荒げるが、不幸な事に自分が生じさせた爆煙が周囲の景色を見づらいものにしており、


「――――告げる」

「クソ!」


 そんな中、彼は荘厳な声を耳にすると慌てて近寄り、そのタイミングで戦場を埋めていた爆風が霧散。

 勝負を決めるべく拳を握り、


「近接戦闘の威力を『軽く』。遠距離戦闘の威力を『重く』!」


 急いで振り抜くが一歩遅かった。

 光る球体は既に戦場を一周しており、使い手である彼女がそう告げると効果を発揮。

 拳はエラッタが再び生成した壁に衝突すると、先ほどまでとは比べ物にならない巨大な爆発が巻き起こり再び歓声が上がるが、


「その程度の威力ではもはや意味はありませんよ」

「っ」


 石の壁は崩れない。いや焦げ跡一つ付けることなく、二人を阻む障害として機能していた。


「んー? 思ったよりも損傷が少ないね。解説役の我龍さん。説明をしてもらってもよろしいですか?」

「説明くらいしてやるが誰が解説役だボケ!」

「仕方がないじゃないか。マイクパフォーマンスをしてるお姉さんは周りを鼓舞するような言葉は吐くけど、能力の詳細なんかは詳しく説明してくれる雰囲気じゃないんだからさ」


 その光景を目にした瞬間にシェンジェンが抱いた違和感は口にした通り。


 第三高校の先鋒ケリン・ラザエが装着しているグローブの効果は、発射する弾丸や撃ちだす拳に『爆発』を付与する効果である。

 これにより米粒ほどの弾丸でも絨毯爆撃の如き範囲攻撃になるし、ただの拳の威力が大幅増加。

 その練度に関しても悪くなく、初級クラスを遥かに超える事からクロムウェル家が作る兵器の性能の良さが見て取れた。

 その上で拳を撃ちだす際の隙の無さや速さから、シェンジェンは相手の選手が利点を活かした立ち回りをする中々のやり手であると評価していた。


 これに対するシェンジェンのエラッタへの評価はあまり高くはない。

 石壁の練度は生成の速さには目を見張る点があるが硬度は初級者に毛が生えた程度だ。


 つまりこの二人が衝突した場合、今のように焦げ跡一つ付かない状態で攻撃を防ぎきるのは不可能であるという見積もりだった。


 だというのに、現実は彼女にとって都合のいい結果になった。

 ゆえに尋ねると我龍は腕を組んだまま短くため息を一つ。


「名までは知らんが能力の内容に関してならわかる。あの能力は自分がこさえた範囲の中に一定のルールを敷くもんでな。『軽く』と言った内容は元々の十分の一の効果しか発揮できなくなり、『重く』と言った内容は逆に十倍の効果に変化する。ただ条件として、最初に効果を発動する際に相手に条件を伝える必要がある」


 戦場を見据えながら言った内容はそのようなものであり、その言葉が嘘でない事を示すように円形のリングに立つ両者は遠距離戦へと移行するが、話を聞き終えたシェンジェンは顔を渋いものにしながら、視線を真上へ。


「それって微妙じゃない? 相手に変化の内容を伝えるのならすぐに対応されちゃうし、範囲が限られてるなら逃げられたり自分が範囲外におびき寄せられたら意味ないじゃん。それにあの上に浮かんでるの壊されても終わりでしょ」


 浮かんでいた黄金の天秤を顎で指しながらそう伝えるが、我龍の考え、というより世間一般の彼女に対する評価は違った。


「天秤は効果が発動していることを示すために見えてはいるが、実際には触れる事すらできねぇ。それとだ、こうやってタイマンしてる今だからそう思うかもしれねぇがな、奴の将来の就職先は拠点防衛に関する場所らしい。つまりだ」

「あの能力は動かない場所を守るのにはうってつけってことか。なるほどね」

「それともう一つ。天秤に乗せるものは一分経過した時点で自由に変えられる。そしてその際は相手にわざわざ宣言する必要はない」

「だから長い目で見れば使いどころはいくらでもあるってことね。理解したよ」


 続いて我龍の説明が偽りでない事を証明するように状況が変化する。

 それまで馬鹿みたいな威力を発揮していた両者の弾丸の威力が嘘のように弱体化したのだ。


「今度は遠距離の威力を『下げた』感じだけど、代わりに底上げされたのは近距離戦?」

「考えが浅いなチビ助。別にあいつの能力は攻撃の威力を上げ下げするだけじゃねぇぞ」


 代わりにあがったものを最初シェンジェンは把握できなかった。

 しかし直後に動いたエラッタを目にすると、何が『上がった』のかを理解できた。


「いただきますね」

「この、野郎!」


 彼女の動く速度がつい先ほどまでとは比べ物にならないほど増している。

 音を置き去りにするどころか雷と並ぶかそれ以上の速度で一直線に迫る彼女の向かう先には、対戦者の頭の上に巻き付いている真っ赤なフラッグがあり、鋼鉄製のグローブが向けられるよりも一歩早く掴むと、土属性で強化した腕力で真上へ。

 

「勝者! エラッタ・リード!」


 掲げられた腕の先に掴んでいた真っ赤なフラッグを目にすると、審判をしていた職員が戦いの終結を告げると、無駄の無い動きと目にも留まらぬ速さを称賛するように歓声があがり、同時にシェンジェンは認識を改めた。

 エラッタ・リードは弱者ではないと。

 基礎能力だけでは測れない、独特の強さを持った戦士であると。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


先鋒のエラッタ・リードの能力お披露目。そして活躍を描いた今回のお話はいかがだったでしょうか。


ルールに厳しく几帳面。自分含め範囲内全員に適用されるが、ルールの変更権は自分にある。


サッと終わりましたが個人的には彼女の性格や賢しさが出せたかと思います。

あとこれは補足なのですが、彼女は様々な分野にスキルツリーを伸ばしていますが、石壁以外も大体初心者に毛が生えた程度です。

これは年齢相応と言う面が一つ。それに能力との合わせ技を考えた場合の彼女の選択です。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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