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オルレイユ第三高校


「開始は午後四時。集合時間は五分前だ。それまでは好き放題歩き回れ負け犬」

「じゃんけんで勝ったくらいで調子こきすぎだ。後でぜっっっったい痛い目みせてやるからな!」


 他愛のない争いが終わった直後のこと、シェンジェンは笑い声をあげながら去っていく我龍に悪態を吐くが、意識を切り替えてすぐ少々頭を悩ませることになった。

 開始時刻は午後の四時という事だったのだが、思ったよりも時間が余っていたのだ。


「お祭り価格っていう奴なのかな。おいしいけど高すぎでしょ」


 であれば必然時間を費やす必要があるのだが、腹を膨らませる程度の飲み食いは既に終えており、懐事情を考えればここから更に買い食いしようとは考えられない。

 他にやることと言えば、各高校が開いている無料の遊技場の類であるが、戦場で日々活躍しているシェンジェンからすれば、子供だましのそれ等に対する関心は薄い。

 では今行われている他校の試合を見るかと言われると、これまた誰も彼もが自分より弱いため退屈極まりないもので、シェンジェンは開始までのおよそ二時間ほどが手ぶらな状態になってしまった。


「………………え嘘。なんでいるの?」

「どうしたのシェンジェン君」

「あ、あーごめん! ちょっと用事ができたから離れるよ。二人で回ってて!」

「あ、ちょっと!?」


 ならば我龍の登場により少々離れた場所に避難している良照や馬郎と合流し雑談でもしながら過ごそうかと思ったシェンジェンであるが、すぐにその考えを改める事になる。

 自分へと飛ばされた強い気配。それが発せられた方角に目を向ければ思ってもみなかった人物がベンチに座っており、続けて飛ばされた『来てほしい』という念話に従い急いで移動。


「な、なんでこんなところにいるのさゼオスさん!?」

「………………花見だ。よく来てくれたなシェンジェン」


 人だかりをかき分けたシェンジェンが驚いた顔で見つめた先にいるのは、サングラスで目元を隠し、下は黒のチノパン。上はベージュのTシャツを着たゼオス・ハザードその人で、彼はベンチに座り桜餅を頬張っていた。


「いきなりこんなところに呼び出すってどういう事さ。もしかして緊急の仕事だったりする?」


 見るからに休日を楽しんでいる姿であるが、シェンジェンは気を抜くことはできずにいた。

 それは突然依頼を投げかけられる可能性があるからで、そんな自身の胸中を示すように彼は『できれば今仕事を受けたくない』と考えてる事を訴えるような声を。


「…………そうだな。仕事と言えば仕事かもしれんな」

「………………………………」

「……時にシェンジェン。お前は次に戦う第三高校の他の高校にはない特徴に関して知っているか?」

「すごく唐突ですね。知らないですよ」


 そんな彼の内心を推し量っているのか判別しにくい平坦な声が返ってくるが、その内容は全くの想定外であり意表を突かれる。

 まさかこのタイミングで、次に戦う相手の名前を聞くとは思っていなかったのだ。


「…………あの高校だけは他の七校とは違う。他の七か所はこのオルレイユを統治しているD・ダイダス家が運営しているが、あの高校だけは外部にあるC・クロムウェル家が運営してる」


 ゼオスはというとシェンジェンの内心の変化などお構いなしに淡々と説明を続けるが、続く内容をしっかりと把握しても、シェンジェンは未だ自分をここに呼ばれた事情を把握しきれない。


「それは意外ですけど、そこの違いに意味なんてあるんですか?」

「………………そうだな」


 ゆえにこちらから先を促すような言葉を投げかけるとゼオスの視線が明後日の方角に向くのだが、そこにあったのは第三高校が運営している『竹斬り』と書いてある出店で、


「………………改めて問うほどの事ではないが、お前は奴らの専門分野が何かは知っているな?」

「貴族衆一の武器製造部門。今は没落したガノ家が日常生活に役立つ最先端技術を担っていたけど、その枠組みに入っていない軍事部門をクロムウェル家は………………って、まさか!」

「…………そうだ。全八校の中であそこだけは貴族衆が所有する最新鋭の武器を所有していて、毎年対抗戦で使っている」


 更に話を進めて行けば、流石のシェンジェンも第三高校の特殊性を把握し、と同時に頭の奥底でフッと思い浮かんだのは『ある推測』である。


「もしかしてだけど心配してくれてるの? 油断した僕が無様に負けないようにって」

「………………話を元に戻させてもらうが、俺がお前に頼みたいのはあの出店の記録を塗り替えることだ」


 なので素直にそう聞いてみると、話の内容はわけのわからない依頼へと移行しシェンジェンが首は捻り、思わず『え、なんで?』と呟いていた。


「…………あそこの運営をしている子供達が一位の記録を作るために使ったいるのは、見た目はただの竹刀だが、実際にはクロムウェル家が製造した最新鋭の剣だ。秘めている能力は見たところ身体能力を挙げる類で、その上で剣の中に様々な剣士の戦闘データが詰まっている」

「ふむふむ」

「……つまりあの剣を握り、発せられる指示通りに動けば、誰でも熟練の剣士としてやっていけるという代物だ」

「すごいじゃん」

「…………そうだ。だがそれで使用者が有頂天になるのを俺は見過ごせん。『兵器を手放した結果、何もできずに惨殺された』などという事があったら最悪だからな。ゆえにお前の手で、今のうちに彼等に知らせてやってほしい。世界には、想像を絶する強者がいると」

「………………あぁなるほど。そういう心配ね」


 そんなシェンジェンは、続く話を聞きようやく全てを把握した。

 要するに側にあるベンチに座り桜餅を頬張っている現代最高峰の剣士は、心構えの点で心配しているのだ。


 『神器や最新鋭の設備の性能を発揮するのはいい。しかしそれがなくなった時に何もできない木偶の棒になるのは阻止したい』


 口下手な彼は有頂天になっている子供達を目にしてそんな危機感を抱いており、その点を改善したいと思っていたのだ。


「別にいいけど僕じゃなくてゼオスさんの方が適任でしょ?」

「……………………より効果的なのは大人よりも同年代だと思っただけだ」

「素直じゃないねぇゼオスさん。おせっかいだって認めちゃえば楽なのに!」

「………………………………………………」


 そんな中、最後の発言だけは間の長さから嘘であるように思え、ではそこにどんな思いが秘められているかは先にシェンジェンが告げた通りのものであり、


「まぁいいや。ちょうど暇だしその依頼を受けるよ。報酬は?」

「一緒に歩いていた友人たちも満足できるくらいのこづかいをやる」

「そりゃ最高。じゃ、行って来るよ! で、さっさと終わらせてくる!」


 嬉々とした足取りで第三高校が運営している出店へ。


「よく来たな! ここでやってるのは竹切り! 十メートル先にあるあの一メートル大の竹を、一秒間にどれだけ切れるかって競技だ! 今の最高記録は! 俺が叩き出した!」

「百五十九回、ね。使う竹刀はこれでいいのかな?」

「お、おう!」

「属性は纏っていいんだよね。それなら!」


 意気揚々と語り出すパンチパーマが特徴の三年生の言葉を遮り、手にした竹刀に風属性粒子を纏うと、指定の位置へ。

 直後に競技開始の合図が鳴り響き、


「ゴチになります!!」

「ヒャワ!?」


 シェンジェンは秒間五百回を記録。周囲にいる人らが唖然とする中で離れたところにいるゼオスの場所へと帰還すると、契約通りの金額をもらい、二人の元へと戻っていった。


『さあ始まりますよ本日のメインステージ! 共に優勝圏内! ランキング二位同士の二校がぶつかります!』


 それからおよそ二時間後、もらったこづかいを使い腹を膨らませたシェンジェンが時間通りにテントへと行き、入場。


「勝利条件は相手の気絶! リングアウト! そしてフラッグの破壊だ! 先鋒は前へ!」


 最初の試合の時は耳にしなかったマイクパフォーマンスが木霊する中、審判の発言を聞き終えたエラッタ・リードが半径十メートルの円形リングに登り、


「うらぁ!」

『おっとこれはあまりにも早い先制攻撃! では遅れてしまいましたが試合開始です!」

「え、あんなのアリなの!? ズルじゃない!?」


 直後、開始を告げる合図が鳴り響くよりも早く対峙した相手のグローブをつけた拳が彼女の顔面へ。

 彼女はそれをあっさりと躱し拳は地面に衝突。すると火柱が空へと立ち昇り人々が歓声を上げるが、側で見ていたシェンジェンはというと唖然とした声を発し、


「まぁその通りなんだが気持ちはわかるな。このタイミング以外であの女と互角の土俵で戦えるタイミングがないからな」

「え?」


 彼の隣に座る我龍はといえば、腕をながら半ば同情するような声をあげ、


「私が囲い、私が決める。ここは――――天秤の寵愛に満たされた地なり」


 その意味を、シェンジェンはすぐさま知る事になる。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


申し訳ありません、本来の投稿時間から大幅に遅れての投稿となります。


内容は次の戦いに移行する前のちょっとした日常話。そしてやや詰め込んだ感はありますが、先鋒エラッタ・リードの戦闘となります。

彼女の力に関しては次回で存分に語る事になるので、少しばかりお待ちくださいね。


その前にあったゼオスからの依頼と言う名の情報収集に関しては一つだけ小話を。

今回の話の始めにシェンジェンは懐事情が寂しい、金欠気味であることを察せる呟きをしましたが、これは給料が少ないゆえになったわけではありません。

仕事の内容が内容なので学生どころか一般的な社会人など目ではない給料をもらっているはずのシェンジェンが嘆いている理由は、単純に金遣いが荒いため。

給料日に一ヶ月の生活費を決めてしまうと、残りは散財する性格のためです。

ゼオスはそこらへんに関して知っていて、友達と遊ぶのに苦労しているのを察知したのでお小遣いをあげた感じですね。


それではまた次回、ぜひご覧ください!


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