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オルレイユ全高校合同対抗戦第4期 一頁目


 生徒会長ヌーベ・レイが口にしたことでシェンジェンが参加する事になった対抗戦。

 この行事の正式名称は『オルレイユ全高校対抗戦』と言う。

 オルレイユ内にある八つの高校全てが参加するこの行事は、日ごろの勉強疲れや闘争欲求を解消する目的や、普段は関わりの少ない学校の垣根を超えた交流を促すものであるが、そのような好意的な意図とは別に、各学校の格付けの意味合いも込められていた。

 蒼野達による新世代に移って早九年、世界は徐々に変化していた。

 けれども『強さこそ正義』という考えは色濃く残っており、であれば学生が高校を目指す理由や親が子に勧める高校の基準の中には『学校全体の強さ』があった。

 無論本来ならばそれは、学校内で行われている授業内容などから読み取るべきものであるのだが、それ等の情報は基本秘匿されているため、わかりやすい各々の高校の『強さ』が目立つことになる。


「で、実際に戦う様子を見てみたいって意見が多かったから、こうやって一般公開されてるってこと。ちなみに出店だったり参加者を募ったイベントが多いのは、外から来てもらった人らに楽しんでもらうためで、終了間際になるとその辺りに関しても投票されて、閉幕直前に各部門のトップスリーが発表されるんだよ」

「なるほどね………………僕が思ってたより結構大規模なものなんだね。このイベント」

「外の人を巻き込むって意味だと、修学旅行以上かもしれないね」


 そこまでの事柄に関して、自分よりも頭一つ以上小さな良照から説明を受けたシェンジェンが今歩いているのは、話に出ていた出店が連なるエリアで、桜並木が咲き誇っている周囲を見渡せば、確かに自分らよりも二回り以上年上の姿が散見していた。


「この第四期ってのは?」

「対抗戦は一年スパンの二か月おきに行われるんだけど、今年の四回目ってことだね。ついでに説明しておくと、四回目なのは4月はじまりじゃなくて12月はじまりだからだよ。一回目が12月。二回目が2月。三回目が4月。最後が10月だね」

「なるほどなるほど」

「各高校は開催されるたびに基本的には午前の部で一回。午後の部で一回、別の高校と戦う事になってて、一年が終わる頃には各高校と2回ずつ戦えるようになってる。細かいルールに関してその時々で変わるね」


 次に気になったのは、学校で渡されたプリントに書いてあった第四回という文字についてであったのだが、最初こそさほど気にせず頷いたものの、少ししたところでシェンジェンは眉を顰め開口。


「いやちょっと待って。各高校と二回ずつ戦えるよう設定してあるって言ったよね。それならさ、回数が足りなくない? 八つの高校がリーグ戦をするとしたら、自分のいる高校を抜いた7つの高校と2回ずつで14回戦うわけじゃん。でも開催が六回で午前の部で一回と午後の部で一回だと、各高校全部で12回しかできないよ?」


 指摘した点は当然の疑問であり予想できる範疇であったため、良照は慌てない。むしろ『当然の疑問だよね』などと思っている様子で力なく笑い、


「さっきも言ったけど『基本的には』だからね。あと全六回の内のどこかに挟まれるんだけど、形が特殊なんだ」

「どういうこと?」

「基本的にさ、この対抗戦って3VS3か5VS5なんだけど、それに加えて1VS1の戦いと代表者一名を全員同じフィールドにいれたバトルロワイアルが一回ずつあって、六回の内のどこかに差し込んで来るんだ。これは学校側の層の厚さを調べるためだね」

「………………マジで凝ってるね。驚いたよ」


 続けて行われた説明に目を丸くした。

 まさかここまで大規模なイベントが起きているとは思わなかったのだ。


「まあそういうのワクワクするからいいけどさ。あ、今度はあそこにあるベビーカステラを食べに行こ」

「それはいいんだけど時間の方は大丈夫? そろそろじゃない?」

「………………ホントだ!? ごめんだけど行ってくるね!」


 そんなイベントを心ゆくまで堪能していることを示すように頬をハムスターのように膨らませていたシェンジェンであったが、指摘され時間を見ると硬直。

 一拍置いた後に慌てふためいたかと思えば勢いよく跳躍し空に浮かび、待ち合わせ場所であった第七高校の控室へと急行。


「遅いじゃねぇか。ぶるって逃げ出しちまったかと思ったぜ」

「冗談だろう?」

「あぁ冗談だ。この俺を下した奴が、そんな腰抜けだとは思っちゃいねぇよ」


 待合室として用意されていた十人以上が入れる規模のテントに辿り着いて入り口を開けば、中には『人間台風』という異名をつけられた兵頭我龍。


「十時五十二分。つまり二分の遅刻ですね。これが軍事作戦であった場合、時間の遅れは自分や仲間の死に直結します。貴方はもう少し時間管理に意識を持つべきですねシェンジェン・ノースパス」

「………………はーい」


 そして生徒会長であるヌーベ・レイの右腕。

 背高ノッポの細メガネ。波立つ赤の長髪と頬にあるそばかすが特徴の生徒会副会長、エラッタ・リードが待ち構えており、神の居城で働いていた時には聞くことのなかった感情のこもっていない形式ばった言い方を前にして、シェンジェンが力ない声で返答。


「全く貴方は………………いや今はその件は置いておきましょう。重要なのは八分後に迫った我々の戦いに関して。ヌーベが貴方に下した『華々しい勝利を飾り、外部に第七高校の凄さをアピールしてほしい』という案件に関してです。今回の形式は三対三の二本先取。したがって三戦目の場合、この目的が成し得られない可能性があるので貴方には第二戦までに出てもらう事になりますが、どちらの方がいいですか?」

「初戦でいいよ。そこで注文されてた『華々しい戦果』ってのを挙げてみせるよ」

「俺は二戦目で行こう。お前が大将でいいか?」

「かまいません」


 間を置くことなく語られる内容に関して迷うことなく返答すると、残る二戦のオーダーも決定。

 開始五分前になったところでテントに案内役を務める教師がやって来て、一辺二十メートルの正方形のフィールドの前に案内され、側にあるパイプ椅子に着席。


「勝利条件は相手の意識を奪う、もしくは相手をリングアウトさせた場合。それに降参の二文字を相手から引き出した場合とする。それと、リング内では相手を殺さないよう致命傷分のダメージを自動的に外に弾く能力を張ってある。なので神器持ちは前もって外すなり解除するなりしておくように!」

「了解了解」

「それが終わり次第、初戦の選手はリング状にあがるように!」


 秒針が二度一周したところでジャージ姿の職員が説明を終えるとシェンジェンは立ち上がり、同時に立ち上がった長身痩躯の相手選手を見て、大将のエラッタ・リードが顔を渋いものに。


「第一高校は確実に一勝する算段のようですね。これではヌーベの目的が………………」

「どういうこった?」

「相手は第一高校の大将ですよ」


 腕組みをした状態で副将の席に座っている我龍が尋ねかけると、彼女は口を開き語り出す。


 化粧をした事で蝋のように真っ白になった顔面。その上に左目を包む紫の星型を描いたその人物こそが、五十四枚のトランプを駆使して戦う第一高校の生徒会長パンディラスであるという事を。


「ダイヤ・ハート・クローバー・スペードの各絵柄ごとに別々の効果があり、ダイヤは硬度特化。ハートは回復の術式。クローバーは透明化の能力が付与されており、スペードは縮小に巨大化。連結して武器にもできるという万能性があります。その上で二枚のジョーカーは内部に秘めてる精霊を召喚でき」

「もういいもういい。十分にわかったよ」


 そのまま相手の戦法に付いて説明していく過程で語る速さは徐々に増していくが、それが聞き取れない速度に至る事はなかった。

 これ以上の説明は無意味であるという事を訴えるように我龍が右腕を持ち上げ、言葉の洪水が止んだのを把握すると失笑。


「お前さんは心配し過ぎだ。アイツは勝つ。だから黙って見とけ」

「言い切りますね。理由や理屈がおありで?」


 訝しげな顔で質問をされると、彼は胸を張って言い切るのだ。


「当然だ。なんせあいつは、粒子が全く使えない状況で俺に勝てるほどの猛者だぜ。そんなあいつが今回は自由に動き回れる。となりゃお前の語ってる程度の奴は相手にならねぇよ!」


 自分を下した男は、その程度のことなど障害と思いはしないと。

 そして


「色々使えるのはわかったけどさぁ!」


 己の背後でされていた説明を聞いていたシェンジェンが、ゴングが鳴り響くと同時に自身の身を包むように風属性粒子と氷属性粒子を放出。

 左腕を振り抜いた事により放出された凍てつく風は、第一高校生徒会長パンディラスの周囲に浮いているトランプ全てを瞬く間に凍らせ、


「これに対応できないなら!」

「!?」

「もっと基礎的な部分を鍛えなって!」


 かと思えば氷属性粒子を引っ込めその分の風属性粒子を己が身に。

 我龍の異名を奪うかのような生きた台風へと変貌すると、ピエロ然とした顔には相応しくない仰天顔を勢いよく殴り抜いて地面に叩きつけた。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


さあさあ始まりました対抗戦。

五章の学園生活では色々なドラマを見せてくれる大きなイベントです。

さてその初戦はシェンジェン華々しい勝利の巻です。


色々な設定の開示にすっきりさっぱりな初戦の勝利を楽しんでいただければと思います。

そして次回に関してですが、たぶんあっさりとした一話になると思います。

後半戦部分までの箸休めともうちょっと説明をする感じの予定です


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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