新世界の犯罪模様
「……俺だ」
『任務の終了お疲れさん。流石に早いな』
「……あの程度の集団が相手ならばこれくらい当然だ。それより結果はどうだった?」
『送られてきた六十七名のうち六十六名はスカ、何も知らなかったよ。で、最後に送られてきた大将首に関してなんだが………………』
「…………どうした? 言葉に詰まるような事があったのか?」
『野郎の記憶に潜り込もうとした瞬間、頭部が爆発したよ』
午前十一時ちょうど、仕事を終え山の麓の茶屋で団子を頬張っていたゼオスの元に連絡が届く。
それは神の座となった蒼野直々の電話であったが、重々しい声色で語られた『頭部の爆発』という単語を聞いた瞬間、口元に運んでいた串が制止。
「……様子から察するに進展ありか」
『あぁ』
そのまま側に置いてあった長方形の器に戻すとゼオスはそう口にするのだが、これは近年この惑星『ウルアーデ』で出没している犯罪者たちを顧みての発言だ。
『今回は俺も側で見てたからな。魂が粉々になるよりも早く時間を戻したよ」
「………………そうか」
「気になってた爆発の仕組みに関してだが、どうやらこの時代には存在しない技術。いわゆるロストテクノロジーを用いた小型爆弾が原因らしい。今はそれを対象の脳を破壊せず取り出すために四苦八苦してる最中なんだ。結果がわかったらまた連絡するよ』
九年前に突如生じた些細な争い一つ起こらない二年間にも及ぶ平和な時間。
これが終わった七年前から今日まで起きた様々な犯罪にはかつては存在しないある特徴があった。
端的に言ってしまうとそれは、イグドラシルが統治していたかつてと比べ、チームや集団を形成して犯罪に及ぶ者達が増えたというものなのだが、その形は多種多様だ。
シェンジェンとゼオスの手で摘発されたような殺し屋たちを集めて作り上げたギルド紛いの組織や、や火災だけを行っている迷惑集団。
粗暴な者達を集めて作り上げたギルドを通していないグループも出来上がっており、他にも少数の『親』と数万人の『子』で形成された詐欺会社が横行したりもしていた。
「…………例の連中に繋がるといいな」
『ああ。そうすればまた、あの奇跡のような二年間が訪れるかもしれないからな』
とはいえ全ての集団が頭を悩ませるほど厄介な存在というわけでもなく、電話の向こうにいる蒼野の声を曇らせているのは、この中にあるほんの一握り。
数々の集団の中でも一際厄介な性質の者や武闘派達が揃っている傾向にある集団で、彼等の記憶を読みその奥に控えているより大きな存在に手を伸ばそうとするたびに、頭を爆発されて記憶を読み取らせない結果に終わっていたため、膠着状態が続いていたのだ。
『ところでお前はどうする? 緊急の用事が出来たら遠慮なく呼ぶが、そうでないなら少しくらい周囲の散策してもいいんだぞ。気分転換にもなるぞ』
「………………頭がシュバルツさんのようなバトルジャンキーになりかけていて困っていたからな。そうさせてもらおう。付近におすすめの場所はあるか?」
『その周辺だと………………そうだな…………………………お前って確か桜の花が好きだったよな。それならオルレイユに『不滅桜』って呼ばれてる一年中咲いてる桜で作られた並木道があるはずだ。そこに行ってみるなんてどうだ?』
とここで堅苦しい会話が終わった事を示すように蒼野の声が明るいものに変化するのだが、会話の内容は九年前とは大きく異なる。
「……いいな。その案を採用しよう」
『そうか。あ、ちなみに明日行くのなら出店も出てるぞ。なんでもオルレイユ内の高校で対抗戦が行われるらしくてな。出店で買った料理やお菓子を食べながら、桜を背景にした戦いを見るのが好評らしいぞ』
「…………一層興味が沸いた。一泊二日の休日をいただくとしよう」
『お土産期待してるからなー』
当然と言えば当然だが、九年という月日は馬鹿にできない長さだ。
その間に培われた経験は人を変えるのに十分すぎるし、かつては興味のなかったことに手を伸ばし、趣味ちしていたとしてもさほどおかしなことではない。
ゼオスにとってそれは桜を見る事であったのだが、これはガーディア・ガルフの一件が終わった後に行われた記念の花見の席が、彼の中で記憶に残るほど楽しかったからである。
『それとこれもついでの情報なんだが、その対抗戦にはシェンジェンも出るらしいぞ。気が向いたら覗いてみてもいいんじゃないか?』
「…………覚えておこう」
斯くして側にある団子を食べ尽くしぬるくなったお茶を飲み干したゼオスもオルレイユへと移動を開始。
能力を使いすぐに現地に赴くと、既に開いていた出店で卵の乗った焼きそばを咀嚼しビールを飲み終えると、かき氷を食べながら蒼野におすすめされた桜並木を見物。満足すると早めに宿を取り、少し体を動かしたあと、早めの就寝にいたった。
「二人ともよく来てくれたね。用件は既に知っていると思うけど、明日は僕の頼れる右腕と君たちの二人で対抗戦に挑んでもらう。よろしく頼むよ」
一方オルレイユ第7高校では、たった一日で壊れていた建物や機材の全てが修復。
生徒会室の最奥にある長机に座っていた生徒会長のヌーベ・レオは自分の隣に立つ背高ノッポの女性を一瞥した後に目の前にいるシェンジェンに兵頭我龍の二人を見つめそう宣言。
「なんでお前が出ないんだよ」
「実は昨日の夜、僕を狙った殺し屋が送られてきてね。彼の思惑はこの通り失敗に終わったワケだが、ここはわざと相手の策に乗って油断させようと思ったんだ。それで相手の手が緩むのなら儲けものだろう?」
「もちろん応じるけど、約束の方は守ってくれるんですよね?」
「君が勝てたのなら応じよう」
舌打ちする大男の横でシェンジェンは探るような声でそう質問し、真正面から向き合ったヌーベは微笑みながら返答。
一夜が明け、シェンジェンにとって高校入学以来初めての学園行事の幕が開いた。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
前回の話から次回の話に到達するための橋渡し回です。
戦闘もなく学園風景なども描かれない地味だと自覚してる話ですが、九年経って変化していたゼオスの私生活は楽しかったです。
団子はともかくとして、昔のゼオスなら焼きそばやビールは勿論、かき氷を一人で食べる事なんて絶対なかったですからね。
さて次回からは対抗戦編。
ここで待つものは果たして
それではまた次回、ぜひご覧ください!




