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シェンジェン・ノースパスの休息と神の居城


 鬱蒼とした森の一角で、強烈な爆風と音を伴った爆発が炸裂する。

 その中心部にいた人物は両腕と右足を吹き飛ばしながら数百メートル吹き飛び、太い幹にぶつかったことで静止。

 全身黒こげの死に体であったが、数秒したところで失われた四肢は元に戻り、火傷も全て無くなっていた。


「ゆ、許してくれぇ。もう痛いのはいやぁ………………」

「まだまだ付き合ってもらう、なんて言いたいところだけど、僕も疲れてきちゃったな。今日はこの辺で勘弁してあげるよ」

「きょ、今日? まさか明日も!?」

「さぁ。それは僕の気分次第だね」


 渡された依頼をその日のうちに解決した次の日の午前十時、シェンジェンはオルレイユではなく数日ぶりに『神の居城』に帰還。

 表向きの目的は捕まえた殺人鬼二人の移送であったのだが、裏には二つ別の目的があった。


 まず初めに一つ目はシェンジェン個人の目的で、彼は白い濃霧を張り巡らせた殺人犯と手合わせをしたかった。

 これは昨晩シェンジェンの元にやって来たエルドラが出した『ある依頼』が理由で、午前九時からおよそ一時間ほどのあいだ練習室で彼らは戦闘。

 結果、件の殺人鬼は二十二度訓練場の床を舐める事になり、対するシェンジェンはやや不満ながらも最低限の収穫はあったと息を吐いた。


「とりあえずお休み~」

「うげぇ!?」

「眠ったかな? 眠ったよね………………アルさーん! これでどうですかー!」

『上出来だ。そのまま上にまで持ってきてくれ!』


 もう一つの目的は『神の居城』側がシェンジェンに依頼したもので、彼等はこの殺人鬼に強い関心を示していた。

 なぜなら殺人鬼という他者との相互理解が難しいコンビを組んでいるのは珍しい事で、警備の網に引っかからず殺人を何件も犯してきたことも良くはないが目を見張る結果であった。

 しかも殺した相手に何の関連性も存在しない事から、彼等がどこからか依頼を受けて行っていることまで考えられ、そこから彼等の裏には相応の大きさをした組織があると考察。


 その考えが正しいかどうか探るため、件の人物を『神の居城』へと移送した後、アル・スペンディオ主導で彼の記憶を読み取る事になったのである。


「よく来てくれたなシェンジェン君。彼はそこのベットにおいてくれ」

「はいはい。ところでこういう装置を使って記憶を覗くのって見たことがないんだけど、疲弊させる必要ってあったの?」

「色々な能力を模倣できるようになったのはいいが、強弱で言えばまだまだ専門家レベルには届かないからな。相手の自意識を弱めて、中に入りやすくしておくのは必須と言ってもいいんだよ」


 言いながら目の前にあるキーボードを慣れた手つきで叩いていくアルだが、彼が今行っている行為はイグドラシル・フォーカス死去から九年の内に磨かれた科学技術の進歩。すなわち蒼野達が先頭に立って行った政策の結果である。


「なんにせよ随分と便利になったよね。九年前だったらこんなことできなかったでしょ」

「そうだな。振り返ってみると充実した日々だったと思うよ」

「なんで全部終わった気になってるのさ。まだ続いてるでしょアルさん」

「…………失敬。年より臭い言い方になってたな」


 九年前に蒼野達が神になった後に行った政策の中で重点を置いた分野の一つに科学技術の進歩と普及があったのだが、この点に重点を置いた理由は『誰に対しても平等』な点にある。

 明かりを点ける事や火をつける事。車や電車を使った移動はやり方さえ覚えれば誰でも行えることであり、この範囲を術技や能力に広げ普及させることで、文化や法の違いがあった四大勢力。特に二大宗教の軋轢の解消と亜人に対する様々な差別意識を消し去ろうとしたのだ。


 その中には一部の者しか扱えなかった強力だったり複雑な能力も含まれており、アルが現在行使している記憶の読み取りも、不死鳥の座アイビス・フォーカスが『身元のしっかりした大手企業ならば扱っても問題ない』という名目の元、自由に使えるだけの精度と扱いやすさ、他諸々の要素が組み込まれたものであった。


「これで完了だ。あとは数分待つだけなんだが、その間にお前に聞きたいことがあるんだ」

「どうしたのさ改まって」


 当然研究者としては惑星『ウルアーデ』内で最高位に立ち、彼女と協力してこの装置を作り上げたアルならば片手間で済ませられる程度の操作であり、他の者ならば十分ほどかかっていたであろう作業を二分で完了。

 椅子をグルリと回転させると真っ白なマグカップに並々注がれたコーヒーを飲んでいたシェンジェンを見据え、


「ここ数日な、学校から帰って来た私のかわいいかわいい、いやかわいいかわいいめっちゃかわいい愛娘が、お前の事をよく話すんだよ。そこら辺の事に関してべんか…………いや、何か私に言う事はないかな、なんて思ってね」


 早口でそうまくしたてた。

 するとシェンジェンは予想はしていたものの想定以上の気迫を前にカップを落として硬直してしまったのだが、それがいけなかった。その姿に後ろ暗いものが隠されていると考えたアルの狐のような細目が薄っすらと開かれ、汗の伝うシェンジェンの顔面を凝視。


「その反応………………なにかやましいことがあるんだな!」

「な、ないないホントにない! だからそんな怖い顔しないでよアルさん!」


 直後に先ほど以上の速度で語り出すアルと勢いよく否定するシェンジェンであるが、実際のところシェンジェンにやましい所はなにもないのだが、それは一般人を基準にした考えである。

 娘思いという言葉の域を軽々と超えた愛を注ぐアル・スペンディオであれば、イレと親しげに話す事はギリギリ許すが、お姫様抱っこを筆頭とした抱きかかえるような事態は決して許しはしない。加えて言えば周りを引くための動作や思わせぶりな発言を、彼は誰よりも過敏に受け取るだろうことも想像できた。


 ゆえにシェンジェンの否定の言葉は不必要なほど強烈なものになり、それを見たアルが顔に邪悪な笑みを張り付け、掌をワキワキと動かしながら前進。


「そうかそうか。だがそれが本当のことかまではわからないなぁ………………いや待て! ちょうどいい所に人の記憶を読み取る事ができる装置があるぞぉ! さあシェンジェン! お前が本当に無実の清い少年だというのなら、すぐにここに座って脳みそにこの機械をつけるんだ!」

「嫌に決まってるだろぉ!」

「じゃあやっぱやましい所があるんだな!」

「ない! ないったらないって!」

「ならさっさろ座れ! でないと殺すぞ!」

「いくら何でも過激すぎるでしょ!」


 二人の間で無意味な喧嘩が始まったのだが、そうしている間にも記憶を読み取るための装置は動き続け、彼等が望んだ結果を表示。二人が意識を向けるまでもなくデータは上層部へと送られ、その資料を基に各勢力の代表者による会議がしばし行われ、


『最後にこの件を担当する人物の選定についてだが…………シェンジェン君に引き継いでもらうかい?』

「いや。今のシェンジェンはオルレイユで起こってる事件を専門に動いてもらってるんだ。ここで外部の案件に時間を割いてほしくない」


 話の最後に貴族衆の代表として訪れたシロバ・F・ファイザバードが画面越しにいる人物。すなわち神の座である古賀蒼野にそう質問。顔の前で腕を組んでいた蒼野はかぶりを振りそう説明し、


『じゃあ誰にするんだい? アタシだったら嬉しいんだが………………どうせそうじゃないんだろ?』


 頭の後ろで手を組んでいた壊鬼が退屈そうにそう尋ねると頷き、


「ちょうどここ最近仕事がなくて腕が訛ってるんじゃないかと心配してる奴がいるんでね。すぐに仕事として投げつけて、近日中に片付けさせますよ」

『誰かはわかったが、少し、いやかなり過剰な戦力じゃないかい?』

「こういうのは案件は速めに根っこから刈るべきだと思ってるんでね。最良の選択である自信がありますよ」


 そう宣言。

 側にある端末を慣れた様子で操作し、自身の右腕たる人物。



 すなわちゼオス・ハザードにこの仕事を担当してもらう事にした。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


『忘れられちゃってるかもしれないですけど、この話の主役格ってシェンジェンだけじゃないんですよ』なお話。

蒼野にアル。それにほんの僅かですがシロバや壊鬼の登場です。

そして次回は! 久々に少年時代での主役格の一人! この青年編でも色々な活躍をすることが確約されてるゼオスの登場です!


次回は最初から最後まで戦闘できればと思うのでよろしくお願いします!


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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