表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1295/1357

白い闇の行方


 目前の敵を仕留め、熱していたシェンジェンの脳が冷えていく。

 そうする事により思考は平時のものに戻っていくわけであるが、すぐに嫌な汗が額から溢れ思考は戦時以上にぐちゃぐちゃになった。


「まっずい!」


 理由は明白だ。

 今しがたシェンジェンの頭に浮かんだこの依頼における最悪の結末。

 件の殺人鬼を仕留めきれず、『人死』にという最悪の結果が出てしまう事を思い浮かんだからであり、歯を食いしばり険しい表情をしながら勢いよく動き出す。


「どこだ!」



 髪の毛が巻き上がるほどの勢いで両手を振り抜き、真っ白な霧の妨害を力づくで跳ね除けるほどの量の風属性粒子を周囲一帯へ。

 そうする事で白い霧の出所や不審な動きをする者がいないかを探っていき、それが五秒ほど続いたところで、彼は目を大きく見開いた。


「いた!」


 声を張り上げ空に浮かんだシェンジェンが感知したのは一つの影。

 縮こまる者や周囲を警戒する素振りを見せる者に混ざってただ一人、周囲に気を配りながらも慌てた足取りで駆け出した者で、その迷いのない動きを理由にシェンジェンはその存在をターゲットと認定。全速力かつ最短距離を突き進んでいった。


「邪魔!」


 その過程で襲ってくるのは『死神』を相手取った際にも飛来した白い刃の群れなのだが、シェンジェンは気にする素振りを見せない。

 突撃と同時に展開していた強烈な風は迫る障害全てをあっさりと弾き、一切の躊躇なく校舎の壁へと突進。

 豪快な音を立てながら辿り着いたのは、2階から3階へと続く階段の踊り場であり、彼はそこで目標の存在。迷いなく三階へと向かって行く気になる存在を目視した。


「違う!」


 と同時に叫んだ。

 それは目にした物体が真っ白な煙を人型に固めた人形の類であり、自分が敵の術中に引っかかったのを早々に自覚したからで、声を荒げながら再び索敵を開始。


「他の! 他の影は!!」


 今度こそという思いで大量の風属性粒子をばらまきながら声を荒げ、


「うああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 そのタイミングで耳にしたのは、向かいの建物から聞こえる絶叫であり、全てを察したシェンジェンは自身の臓腑が地に堕ちた錯覚に陥ったが、だからといって膝をつく事はなかった。


「まだ、だ!」


 断末魔らしき絶叫があがったのは間違いのないことである。

 しかしそれが戦いの終わりを明確に告げたというわけではない。

 もしかしたらまだ戦いは続いていて、自分の助けを待っている人がいるかもしれないのだ。


「音の方角は!」


 無論そのような考えが自分にとって都合のいい解釈であるシェンジェンはわかっていたが、それでもその希望にすがるように再飛翔。

 音のあった場所へと向け一直線に向かい、ガラス窓を突き破り、その中の光景を目にして息を詰まらせる。


「君は………………シェンジェン・ノースパス! 兵頭君を仕留めた転校生のシェンジェン・ノースパス君か!!」

「………………え」


 そこで目にしたのは人相の悪い中年男性が首根っこを掴まれ失神している姿。

 それに戦いがあったことを示すような荒れた屋内で、彼の首根っこを掴んでいる一つの影。

 真っ白な髪を腰の辺りまで携え、戦いなどとは無縁そうな温和な顔つきをした一人の青年の姿であるのだが、シェンジェンは後者の人物に関しては薄っすらとだが知っていた。


「貴方、は」

「ちょうどよかった。君に頼みたい用件があったんだ!」

「………………僕に?」

「ああ。実は三日後に第三高校との代表者三名による交流戦があってね。そこに出て欲しいと思っていたんだ」


 たくあんでも乗せているのかと思ってしまう太眉と癒し効果を備えているタレ目をしたその人物は、オルレイユ第七高校の三年生にして生徒会長でもあるヌーベ・レイであり、自身の身に起きた危機的状況など気にしていない朗らかな声色で、そんな場違いな提案を行った。




 第七高校のみならずその周辺まで包んでいた白い霧の消失。それが此度の戦の終わりを告げる証であったのだが、シェンジェンはまだ安堵したり正常な判断を下す事が出来ずにいた。


 この星にいる人々は大なり小なり戦士である。となれば突然の襲撃にあったとしても返り討ちにすることは特段おかしなことではない。

 しかしだとしても目の前で大人の暗殺者を退ける同年代の青年がいるとなれば、多少なりとも驚かずにはいられなかった。


「交流、戦? それは一体?」


 それゆえ本来ならば返り討ちにしたいきさつ等、他に聞くべき事はいくらでもあったはずなのだが、今のシェンジェンは自分に向けられた言葉にしか意識を向ける余裕がなく、素直にそう尋ねてみるとこのオルレイユ第七高校の生徒会長は、戦火の跡が残った荒れ果てた屋内にはふさわしくない温和な笑みを携えながら開口。


「そうか。君はまだここにきて日が浅いからね。知らなくても仕方がないね。それなら少し説明させてもらうとだね、オルレイユにある八つの高校は定期的に交流戦を行っているんだ。その際は屋台も出て軽いお祭り騒ぎになるんだ。ちなみに秋頃になると全ての学校を交えた本戦が行われるよ」


 穏やかな口調で話しながら周りに散らばっていた瓦礫やガラスの破片を丁寧に片付け、かと思えば右手の掌を一回転。

 するとそれに呼応するように二脚の真っ白な椅子と真っ白な丸机が現れ、その上に焼き菓子の乗せた大皿とコーヒーの入ったティーカップを声や表情からは想像できない素早やさで用意すると、シェンジェンを手招きした。


「代表者の数はその時々で変わるんだが今回は三名でね。君にはそのうちの一人として出場してもらいたいんだよ」

「あ、あの! それよりも大丈夫なんですか?」

「なにがだい?」

「いえその………………殺し屋に襲撃されてたんですよね? お怪我はありませんか? 毒とかは?」

「あぁ気にしないでくれ。日常茶飯事だ」

「そうなんですか?」

「うん。大方次に戦う第三高校が僕を煩わしく思って刺客を飛ばしたんだろうさ」

「ず、ずいぶんと物騒なんですね」


 それが自分を誘っているジェスチャーである事をシェンジェンは理解していたが、このタイミングで正気に戻るとお誘いに乗ることなく立ったままそう質問。

 生徒会長のヌーベは気軽な様子でそう説明し、そんな彼の前でシェンジェンは封印術を起動。この場所に濃霧を張った男を捕まえる事で、ようやく事件の完全な終息を悟ったのだが、混乱は収まらない。


「そのですね、実はちょっと別件で動いていまして、今すぐにその話に関するお返事をすることはできないんですよ………………………………また明日でいいですか?」

「問題ないよ。ちなみに別件というのは、今君が捕獲した男に関するものかい?」

「アッハイ」

「そういえば報告によると君は『神の居城』から来たんだったね。という事は私への襲撃を阻止するために動いてくれたという事か。ありがとうね」

「イエコチラコソ」


 この場であった戦闘に関する詳しい情報。

 いつの間にか自分の身の上に関して知られているという事実。

 やけに余裕な目の前の人物の態度。

 それによくわからない対抗戦に関する相談。

 

 その全てが一斉に襲い掛かった事で、シェンジェンは目を点にしたままフワフワと空を飛びながらホテルの一室へと帰還。


「………………………………いやおかしいって! なんであんなに余裕なのさ! 生徒会長って確か軍役経験のない一般人だよね! ならもう少しさぁ! 驚くのが普通じゃ無いの!?」


 ドアを閉めると同時に脳内で渦巻いていた疑問を吐き出し始め、置いてあった机やベットをバンバンと叩いたり蹴ったりし始め、


「それはヌーベ・レイが既に一流の戦士だからだ」

「!?」

「その証拠に彼は、君と同じ経緯ではあるが神器を所有しているからな」

 

 そんな彼の前に本日最後の衝撃が訪れる。

 それは金髪オールバックが特徴の切れ長の瞳をした長身痩躯な男性の襲来であり、見覚えのない姿が窓際に立っているのを目にしたシェンジェンは即座に戦闘態勢へ。


「え、エルドラさん!?」

「お仕事お疲れさまだシェンジェン君。それはそうとそれとだ。彼から受けた提案をぜひ受けて欲しい。そして見事勝利した暁には、一つ彼に頼みごとをしてもらいたいんだ」


 ただ彼が身に纏っている空気が既知のものであり、その正体を口にすると対峙する人影は否定するそぶりを見せず、自分がこの場所にやって来た用件を淡々と伝え始めた。

 



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


という事でやって来た殺し屋に関する話は終了! 

完結編である今回は次回以降に関わる人物達の登場です。


なんて話なのですが、ここ最近になり以前よりも三人称視点の文章がおかしく………………というより下手になっている感じに襲われてる今日この頃。

気を引き締めるのは当然ですが、ちょっと文体を変えた方がいいのかもしれないとか思ったりもしています。


さて次回に関してですが、せっかくの九年後なのです。

シェンジェンに関する話をちょっと進めながら、他のメンツが主役の話もやって以降かなと思います。


それではまた次回、ぜひご覧ください!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ