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家永馬郎と家庭教師


 惑星『ウルアーデ』における家庭教師とは単純に勉強を教える者だけを指す言葉ではない。

 部活動に精を出している少年が、親に頼んでマンツーマンで有名アスリートやコーチを呼ぶ際にも、そのものを『家庭教師』と呼ぶことがある。

 またこの星においては最重要視される戦闘力を鍛える際に、腕利きを呼ぶ際にもも『家庭教師』という言葉を使うわけだが、上記と比較した場合、戦闘能力を鍛えるために腕利きを呼んだ場合にはあるリスクが存在する。


「新しくやって来た人のやり方が気に入らない………………いや過激すぎるってこと?」

「う、うん。それでお父さんとお母さんに相談して違う人にしてもらうように頼んだんだけど、先生が強すぎて抵抗することが出来なかったんだ。だからこの状況を打開するために兵頭我龍を撃破したシェンジェン君の力を借りたいんだ!」


 それが契約を破棄する際に起こるトラブルであり、うなじにかかるほどまで伸びた茶髪につぶらな瞳をした、少々馬に寄った顔立ちをした家永馬郎の家庭もその類の問題が起きたという事で、目の前にいるシェンジェンを前にして両手を合わせ、つぶらな瞳を揺らしながら懇願する。


「なるほどなるほど………………うんいいよ。馬郎君の家で起きてるその問題は僕が解決しよう」

「え、そんな安請け合いしていいの!? 相手の強さだってわかってないんだよ!?」


 対するシェンジェンの返事は軽く良照の口から素直な感想が飛び出たが、それを聞いてもシェンジェンの気持ちは変わらない。


「いいよいいよ。家庭教師なんて仰々しい言い方してるけど、実際にはちょっと腕の立つ人がやってる小遣い稼ぎでしょ? それなら僕の相手じゃないよ。それに暴力で脅迫してるっていうのならストレートに僕向けの案件だからね。受ける事に躊躇する事情がない」

「あ、ありがとうシェンジェン君!」

「ただし一応最初に状況の確認はさせてもらうよ! 相手側が悪くなくて馬郎君が悪いって場合もあるからね! 最初の内は隠れて状況を見て、黒判定を出せる状況になったら動かせてもらうよ!」


 とはいえ無責任な事はしないという意味合いを込め、シェンジェンは人差し指で馬郎の胸元を小突きながらそう宣言。


「うん! それでいいよ! 十分!」


 応じる馬郎はといえば、満面の笑みを浮かべながら再び両手を合わせシェンジェンを拝み倒し、すぐに自宅の場所を教え、家庭教師がどのくらいの時間にやってくるかを伝えたところでチャイムが鳴った。


「ねぇねぇ。なんであんなことを言ったの? 馬郎君のお願いってそんなに気にするところがあった?」


 数時間後、授業が終わった直後にやって来た人々による様々な部活の勧誘を断り続けたシェンジェンが帰路に就いていると、隣を歩いていた良照がそう質問。

 電車が通過する事を示す踏切の音を耳にしながら、シェンジェンが小さく息を吐き、


「少ないケースではあるんだけどね、たまにあるんだよね。気に入らない相手を遠ざけるために本当の事情が隠して、その上で高いお金を払って用心棒を雇うパターンがさ。そのパターンだった場合相手に悪いからね。こういう場合、現地に行ってしっかりと確認しておかなくちゃいけないんだよ」

「へぇーそんな事があるんだ。でもそんな事にまで詳しいって、本当に何者なのシェンジェン君?」

「あー………………それについてはノーコメントで」

「もう! またそうやって言葉を濁す!」


 自分がした提案の意味を素直に話すシェンジェンであるが、続く良照の質問に対しては素直には応えなかった。

 学校が自分が思っていた以上に面白い場所であると知った今でも、仕事とのつながりはできるだけ持たせたくないという考えは残っていたのだ。


「ほら。踏切も上がったしさっさと行こうよ」


 なのでやや強引にでも話を断ち切り、日が沈みつつある時間にシェンジェンは馬郎宅付近へ。

 事前に申し合わせた通り、彼の自宅から一キロほど離れたところで風の膜で姿を隠すのだが、それから少しして家永馬郎の自宅を見た瞬間、『確かにここは狙われそうだ』と思った。


 彼の自宅は十数人の児童が走り回ることが出来るほど大きな芝生の庭を備えており、その先にある建物は三回建てかつ横にかなり広い。一言で言うなら『邸宅』や『お屋敷』という言葉がふさわしかった。


「馬郎君の家ってすっごく大きいよね」

「良照君は何度か来たことがあるの?」

「何度か遊びに行かせてもらったよ。あ、それとお昼の時にすごく頭がいいことは伝えたけどさ、その上でかなりのお金持ちらしいんだよね」

「で、そのお金を使って息子を強くしようとしたけど、上手く事は進まず恐喝された、か………………筋は通ってるね」


 更に話を聞けば、シェンジェンは同級生が行った依頼内容に嘘はないという確信を持ち、


『さあ坊ちゃん! 戦闘訓練のお時間ですよ! 外に出て! 剣を構えて!』

『ま、待ってください。何度も言いましたけど息子には剣ではなく弓を教えて欲しいのです! 得意なのは弓なんですから!』

『既に得意とする分野を鍛えてどうするんです! ワタクシが言っているのはね! 弓の届かない近距離に接近された時の対処法なんですよ!』

『そ、それは先生が弓が苦手で剣を得意としてるから言ってるだけじゃ!?』

『えーいうるさいうるさい! 余計な口をきけないようにしてやりますよ!』

「あ、はい。真っ黒です。ありがとうございましたー」


 家の中から聞こえてきた声。

 外に飛び出してくる家永一家が、鞭のようにしなる剣で叩かれて体を丸めながら逃げ出す姿。

 何より部外者である男が着ているシャツに付いたシミと顎にある傷が、今朝あしらった性悪と同じ存在であることを示唆し、


「おらぁ!」

「ひげぇ!?」


 思いっきり殴った。


 風の膜を解除し姿を表してすぐに真正面から。鼻っ柱を折るように力を込め。

 

 すると男は二度三度と芝生の上をバウンドした末に沈黙し、意識を失った事を示すように体の節々をピクピクと痙攣させ、この光景を目にした家永一家がシェンジェンに対し次々と感謝の言葉を投げかけた。


「このくらい朝飯前ですから気にしないで」


 するとシェンジェンはそのようにありきたりな言葉で返事を行い、


「!」


 そのタイミングで、持っている仕事用の携帯端末が小刻みに揺れ出した。









ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


ポンポン進むよどこまでも。

という事で依頼のあった家庭教師に関する話ですが、流石にこれだけで終わる話ではありません。

ここまでが前章部分で次回からが本番。

本部から送られてくる依頼が、シェンジェンを本来の世界へと帰らせます。

その内容は次回で


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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