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オルレイユ第七高校 1年Y組 一頁目


「ハァ………………………………」」

「おい爺さん! コーヒーを零すんじゃあない! おかげで服が汚れたじゃないですかっ!」

「す、すまんのうお兄さん。クリーニング代を出させてもらうから許しておくれ………………」

「その程度で私の気が晴れるものか! 貴方には! 私が心に負ったものと同等の傷を! その身に傷を与えてあげましょう!」

「ヒェっ!?」

「………………………………ッ!」


 一夜明け学校に登校しているシェンジェンであったが、その心境は穏やかなものではなかった。

 昨日の夜、属性粒子や能力を使えないという制約はあったものの、久々に心ゆくまで拳を使って戦えた事で充実感を得たシェンジェンであるが、次の日の朝になり冷静になると登った気分の倍、気分が落ち込んでいた。


 冷静になって考えれば昨日シェンジェンがやったことは学校の崩壊や先生や学生の避難など周囲に多大な迷惑をかける事ばかりであり、自分に向けられる周囲の視線を予想し落ち込んでいたのだ。


「朝っぱらからうるさいな!」

「アゴォバ!?」


 ゆえにシェンジェンは喧嘩の仲裁を行うにしても普段以上の勢いで声を荒げてしまい、老人に怒鳴っていた一回り以上年上の青年の顎に裏拳。

 それを受けた青年はきりもみ回転しながらゴミ箱の中に頭を突っ込んでいったのだが、その姿を見届けることなくシェンジェンは通学路を進んでいき、


「………………はぁ」


 校門を超え自身が通う教室、すなわち1年Y組の前にまでたどり着くと重いため息を一つ。

 伸ばしかけた腕をほんの一瞬引っ込めるが、意を決して扉を開き、


「お、おはようございまーす………………」

「「!!」」

「ひゃ!?」


 普段の彼ならば決して出さないような、か細い声をあげながら体を丸めて中へ。

 すると教室の中にいた三十以上の視線が全て彼に注がれ、思わぬ視線の数々を前に肩を揺らし女性の者に近い声をあげ、


「聞いたぞ転校生! あの兵頭我龍を拳で倒したんだってな! すげぇなお前!」

「イレの奴に付きまとってた連中も蹴散らしたんだってね。やるじゃん」

「??」


 直後には頭上に無数の疑問符を浮かべる事になるが、これは彼にとっては仕方がない事で、逆に周囲にとっては当然の反応である。


 なぜなら周囲の知人に勉強を教えてもらっている『だけ』であったシェンジェンは知らなかったのだ。

 この星における学校では当然勉学を教師が教え、部活動やサークルなどで汗水を垂らすような青春もある。

 しかしそれと並列するように、戦闘に関する訓練をしており、生徒たちはより強くなろうと努力しているのだ。


 とくれば当然強い者に対しては正負様々な感情を向けられるのが常であるが、今回の場合オルレイユ第七高校全体で名の知れた不良である兵頭我龍を倒したゆえに、強さは勿論のことヒーローとしての功績を称えらる。

 つまり賞賛の言葉をかけられるのはさほどおかしなことではなかったのだ。


「ね。アタシを助けるといいことがあったでしょ?」


 この流れに乗ってやってきたイレが、座っているシェンジェンの隣に立つと銀河の輝きを秘めた瞳を細めながら顔を近づけそう囁き、


「お前はここまで計算して僕に頼ったのか? 正直信じられないんだけど………………?」

「バレたか。あれは完全にアタシの私情よ」

「だろうね!」


 シェンジェンはそれを見抜いたが腹立たしいとは思わなかった。

 兎にも角にもクラスに馴染めたのは彼にとって思わぬ収穫なので、今回ばかりはイレに追及するつもりはなかったのだ。


「あんなに強かったってことは、名の知れた師匠や塾講師を雇ってるってこと?」

「家はどのあたりなんだ?」

「シェンジェンさえよかったらだけどさー授業後に一緒にアハティーに行かない? イレとどういう関係なのか知りたいんだよねー」


 続けて投げかけられる質問や提案にも思わず笑みがこぼれるが、ちょうどそのタイミングで担任がやって来た事で話は終わり、シェンジェンの周りにいた生徒たちは自分の席へ。


「たった一日ですごい人気ぶりだね!」

「良照君」

「でもよかったぁ。せっかく同じクラスになったんだからさ、やっぱりみんなと仲がいい方が楽しいよね! 他人事だけど僕なんかホッとしちゃったよ!」


 隣に座った同年代初めての友人の言葉に微笑みで返し授業へ参加。


「あぁそうそう。一つ気になってた事があるんだ」

「どうしたのさ?」

「学校って言えばさ色々な行事があるじゃないか。運動会とか文化祭。合唱コンクール………………は違うか。なんにせよそういう行事はどのタイミングであるのかな?」


 四限目まで終わったタイミングで、休み時間ごとに餌に群がる小魚のような勢いでやってくる周りの目から逃れるためにシェンジェンが『風の膜』を使用。隣にいる良照を巻き込みながら廊下へ出ると、すぐ側にある窓から跳躍。

 屋上へと到達し誰もいない事を確認すると身に纏っていた風を解き腰を下ろし、コンビニで買って来たパンを食べ始めながら気になる点を指摘すると良照は頭上を見上げ、


「ごめんね。遠足はもう終わっちゃってるんだよね。運動会もうちの学校はつい先日終わちゃったんだ。だから次は………………」

「そっか。運動会が」


 そう返答。

 遠足に関しては世界中のどこにでも行けるシェンジェンからすればさほど興味がなかったが、運動会に関しては落胆するところであり、


「あ! 期末テストかな! あと一ヶ月くらいしたら期末テストがあるよ!」

「それは別に嬉しくないかな。でもそっか。期末テストがあるってことはその後は」

「うん! 夏休みがあるよ!」


 後に続く『テスト』という言葉には気が滅入ったものの、『夏休み』という単語は中々甘美な響きを持っていると感じた。

 どうせ仕事だらけになるだろうとは思いつつも、友人たちと一日でも一緒に過ごせれば楽しいだろうと思ったのだ。


「あ、あの~シェンジェン君、ですよね?」


 そんな事を考えていると、屋上に到達する階段から声が聞こえてくる。

 ゆえにそちらに顔を向けると文化部に所属しているインドア派な事を想起させる姿をした、黒縁眼鏡をかけた長身痩躯の姿があり、


「誰?」

「同じクラスの家永君だよ。一年生の中だと五本の指に入るくらい頭がいいんだ」

「すごいね。それと名前と顔を憶えてなくてごめんよ。昨日来たばかりだから、誰が誰だかまだわからなくて」


 見覚えのない顔であったため素直に聞くと良照がそう補足。シェンジェンは頭を掻きながら謝罪し、


「あ、いいんです。ロクに話しかけてこなかった僕も悪いですから。気にしないでください」

 

 すると応じる少年。家永いえなが 馬郎ばろうは穏やかに笑いながらそう応じ、これを聞いたシェンジェンは彼に対し好印象を抱き、


「それでですね、実は相談があって探してたんですけど………………」

「何かな。協力できる事ならさせてもらうけど?」


 なので名前と顔を覚えてなかった申し訳なさもあり遠慮がちに話し出す彼の言葉に対しそう応じ、


「助かります。実は僕の家に来てくれる家庭教師に関して相談したいことがあるんです」


 彼はシェンジェンに用件を伝えた。

 それは新たな物語の始まりであった。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


皆さまお久しぶりです。本日からまた更新をしていきますのでよろしくお願いいたします。


再開後第一話ですが、見ての通りの新章突入となります。

といってもさんざん言っている通り五章は小粒な話の連続。

今回の話もその類から漏れませんが………………今回はこれまでとは違う様相になるかと。

その差異に関しては次回以降。

なにはともあれ、惑星『ウルアーデ』における日常をお楽しみください。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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