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CHAIN MATCH シェンジェン・ノースパスVS兵頭我龍


 顔面に突き刺さった拳の威力に耐え切れず、後方に吹き飛びながらシェンジェンが思ったのは、高校という場所の適応力の高さである。

 つい先ほどまで、雑兵相手にシェンジェンが暴れていた時は、学校側は何の動きも見せなかった。

 これはシェンジェンが素早く学校自体に自己再生機能が備えられているのを把握し、それによる再生が間に合うレベルの規模の攻撃しかしなかったからだ。


『全校生徒及び職員・訪問者に告ぐ。第三生徒棟にて『人間台風』兵頭我龍が戦闘を開始。繰り返す第三生徒棟にて『人間台風』兵頭我龍が戦闘を開始。角印速やかに外部へと退避せよ』


 では今はどうなっているかと言われればシェンジェンの想定していた自己再生ラインを余裕で突破するように校舎が崩れ始め、彼の視界の端で事態が慌ただしく動き出す。

 急ぎ足で、けれど決して冷静さを失う様子はなく、人々は最寄りの壁や床に手を付ける。

 すると彼らの体が光に包まれ、一秒後には校舎の内部からいなくなっていた。


「『神の居城』と同じような事が出来ちゃうんだ。学校ってすごいなぁ。そこらの大企業なんて余裕で上回ってるよ」


 この光景をいくつもの壁を突き破り、人体模型や机を壊しながら見送ったシェンジェンの口からはそんな感想が出てくるが、その意識は直後に鋭い刃のように戦時のものへと変化。


「っ!」

「よそ見や呑気に休んでなんかいるじゃねぇぞボケがぁ!」


 直後、自身の体が己が意志に反し強烈な力で引っ張られる感覚に陥り、一秒も経たぬうちに巨大な拳が視界を埋める。

 シェンジェンは今度はこれを上に弾くが兵頭我龍は攻撃の手を緩めず、空に浮かんだまま蹴りのラッシュを繰り出し、対するシェンジェンはその全てを右手一本で捌き、


「なら――――こいつでどうだぁぁぁぁ!!」

「っっっっ」


 反撃に移ろうとした瞬間、その思考を読んだように鍛え抜かれた左腕によるストレートが襲い掛かるが、問題はその精度だ。


(なんだこいつ。絶対に攻撃を当ててくるじゃないか!?)


 この戦いが始まってから今まで、シェンジェンは何度も攻撃の回避を試みた。ガードして消耗するよりも避けた方が効率が良かったのが理由だ。


 けれどそれらは全て失敗に終わった。


 躱そうと体や頭を動かした先に必ず、その動きを完璧に把握したように拳が『置かれて』おり、結果的に回避を諦め防御するしかなくなっていた。


「ずいぶんとうまいこと拳を撃ち込むんだね。もしかして的あての名人だったりする?」


 威力に関しても恵まれた肉体から放たれるそれらは申し分なく、防御に使った両腕が徐々に痺れるのをしっかりと把握しながら、シェンジェンは言葉を投げかける。


「俺はガキの頃から百発百中! 拳を撃ち込みゃ全部相手に当たんだよ!」

「!」

「なんらかの粒子術か能力だと思ったかぁ? んな軟弱なもんじゃねぇ! 俺の拳は! 絶対に外れない運命が施された拳なんだよぉ!」


 その間に繰り出される拳の嵐がシェンジェンの腕に突き刺さり続け、かと思えば突然軌道が変わり右肩へ直撃。


「っ!」


 シェンジェンの体はその衝撃を逃がしきれず、またも二枚三枚と壁を砕いていき、職員室に到達。積まれていた紙の山が宙を舞い、それが落下していくのを見ながら考える。


 まず第一に、兵頭我龍の拳が当たる理由は『異能』である可能性が高い。能力や粒子術を否定した際の様子におかしなところは見受けられなかったからだ。

 無論ガーディア・ガルフのような技術を極めた結果や異次元の動体視力によるものであることも考えはしたが、拳を動かす動作自体にはまだまだ改善の余地が多く、であれば神域に至るような技術や動体視力ではないと判断。


「おいコラどうした。お前さんのイレちゃんに注ぐ思いはこんなもんか?」

(問題は、こっち!)


 これだけでも十分に厄介だったのだが、此度の戦いで鍵を握る要素はもう一つあった。

 シェンジェンと兵頭我龍の腕に巻き付いた黒鉄色の分厚い鎖で、吹き飛ばされてる途中に破壊するために動いていたのだが、ここで彼はこの鎖の厄介さを知る。

 どれだけ使おうと思っても粒子術と能力は使えない。裏を返せば今、シェンジェンは単純な殴り合いしかできない状態に陥ってるのだ。


「ねぇこれさぁ!」

「あぁん?」

「僕の予想なんだけど、君も粒子術や能力を使えないんじゃない? そういう条件なしで相手の粒子術や能力を完璧に封じる事なんて早々簡単にはできないと思うんだけど?」


 とすれば自身の実力を半分も発揮できないシェンジェンが、繰り出される拳を流しながらそう質問。

 応じる際の態度。それに声の調子で真偽だけでなくその胸中まで図ろうと考え意識を集中させ、結果確信を得ることになる。


「それがどうした? 男同士のタイマンなんだぜ。んなもん余計なだけじゃねぇか」


 目の前にいる男は真正のステゴロ馬鹿であると。

 勝ち負け以上に拳同士をぶつけ合う事に意味を見出している存在であると。


「お返事どーも。でも今の質問に正直に答えたのが君の敗因だよ」

「あ?」

「話を単純にしてくれてありがとうってこと!」


 こうして相手がそのような単純思考であるとわかればシェンジェンにもやりようはあった。


「ぶぁ!?」

「要は拳を撃ちだせないようにすればいいだけでしょ。それなら簡単。君に手番を回さなければいい」


 直後に繰り出される拳の嵐は目の前にいる巨体の意識を奪い勝利するために非ず。目の前にいる巨体の動きを縛るためのものだ。

 その狙いも厄介なのが拳だけとわかっているためかなり絞られており、シェンジェンは今、繰り出す攻撃の全てを肩・肘・手首・掌だけにしており、兵頭我龍を攻撃態勢に移れないように画策。

 後はこれを延々と続ければ勝利の二文字は自分に転がり込んでくると思い、


「こ、の………………!」

「え?」

「この! 兵頭我龍を舐めるなよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「!」


 そのようなシェンジェンの思惑を、目の前の男は正面から捻じ伏せる。

 罅を入れるほどの勢いで床を踏み、自身を一個の肉塊として扱い前進。小技を繰り返していた己よりも頭二つ以上小さなシェンジェンの体を体当たりで吹き飛ばし、


「まだまだぁぁぁぁぁぁ!!」


 その勢いを保ったまま跳躍。天井を突き破りながら前に進むとシェンジェンの頭上に覆いかぶさり、


「死ねヒョロガキィ!!」


 右腕全体に大小様々な血管を張り巡らせ、本日最大、まさしく全身全霊の一撃を撃ち込み、回避不能なそれはシェンジェンの右肩を粉々に砕き、


「認識を、改めよう」


 シェンジェンはここで、自分が大きな思い違いをしていたことを知る。


「この場所は………………ただ穏やかな日々を送るだけじゃ『もったいない』場所だ」





 

 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


VS兵頭我龍戦。ちょっと筆が乗ってまだ続きそうだったので、今回は前後編に変更しましたがいかがだったでしょうか。


要約してしまうと彼は絶対に当たる拳を持ったステゴロ野郎で、その上で肉体に恵まれもいます。

これと対峙し苦戦するシェンジェンが至った思いは何か。

次回後半戦はそこから始まります。


さて話は変わって賞に投稿するためのお休みなんですが、これは25日終了分。つまり次回終了後から7月の2日までとさせていただきます。

いつも見ていただいている方には大変申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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