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イレ・スペンディオ 一頁目


 オルレイユに存在する八つの高校は広大なこの都市の一部に集中しており、その周辺に生徒の家族や生徒が単身で暮らすための一軒家やマンション。アパートを用意。周りには病院やコンビニにスーパーなどの生活に必須の物が用意されており、やや離れた場所には高級ブランド専門店や注目を浴びている飲食店が揃った繁華街。

 更に至る所に電車の駅まで用意されており、老若男女誰もが楽しめるだけの数の娯楽施設も点在されているため、大々的に公表することはなかったが『学園都市』と呼んでも問題ない規模の区画となっている。

 そしてシェンジェンが転校してきたオルレイユ第七高校はといえば、八つある高校の中でも最大規模のもので、一学年の平均人数はおよそ八千人。一クラスにつき二百人以上の生徒が在籍しており、優秀な先生の指導の元、就職や進学。それに兵士としても最高の進路を用意する事ができると知れ渡っている場所であった。


「昨日ぶりだねシェンジェンさん? 君? ところで一つ聞いていい? イレさんとは知り合いなの?」


 そのような場所でシェンジェンが昨日知り合った良照と隣合わせに座る事が出来たのは、良照が彼を隣に座らせるよう先生に立候補したからで、ホームルームが終わってすぐにコンサートホールのような傾斜をしているクラスから出るとキノコヘアーの奥から瞳を覗かせた彼は気になっていたことを尋ね、


「君でいいよ良照君。まぁ腐れ縁に近いけどね。それがどうかしたの?」

「気づいてないの!? みんなすごい目で君を見てたよ! 人によっては殺気を放ってさえいたし!」

「………………あれってそういう事だったのか。微弱だから気にしてなかった」

「え?」

「いや何でもないよ。それよりどうして僕がそんな目に遭わなくちゃいけないのさ。納得いかないんだけど。もしかして差別? 転校生差別?」


 平然とした顔で返事をするシェンジェンだが、その胸中は穏やかではない。

 突然の高校生活に関して戸惑いはあったものの、『せっかくなら楽しい学園生活を送りたい』と考えていたシェンジェンからすれば、来て早々に敵意や殺意を注がれるのは不服であったし、何よりそんなことになった理由がわからなかった。


「そうじゃないよ! みんなイレちゃんが大好きだからああなったんだよ!」

「え? あの『変』っていう言葉が擬人化した女がみんな好きなの? なんで? 理解できないんだけど?」

「そりゃあ………………!」


 これに対しさも当然という様子で返事をする良照であるが、シェンジェンはその理由が本気でわからず首を捻り、良照が詳しく説明しようとするが出来なかった。

 次の授業が始まる五分前をきっていたのだ。


「彼女がものすごく可愛いから! その上で誰に対しても優しい! そ、それに………………」

「それに?」


 なので教室に戻ると授業を受け、一限目が終わると周りの目が自分たちに向いていない事を確認して続きへ。

 途中で言い淀んだためここでも最後まで聞き終える事はできず、二限目三限目の終わりも移動教室であったため続きはなし。


「彼女さ、すっごいナイスバディじゃない。そんな人が気軽にボディタッチして来るから、みんな夢中になっちゃうんだよ!」

「ナイスバディにかわいい、ねぇ………………………………言われてみればそうかも」

「反応薄いね!? え、すぐにわかるところじゃないそれ!?」

「まあ、ねぇ」


 昼食の時間になり持ってきたシェンジェンは近くにあったコンビニで売っていた菓子パンを。

 良照は母親が作ってくれた豪華なお弁当を。

 肩を並べながら食べていたのだが、シェンジェンは良照がやや照れながら伝えた内容に対し即座に納得する事が出来ずにいた。

 日々を戦場で過ごしていたシェンジェンからすれば恋愛自体に関してあまり関心がないのもそうだが、

頭の中で比較対象に浮かんだのが『戦場の華』などと呼ばれてる尾羽優。

 それに世界中にファンを持ち『世界一の美女』などと呼ばれる事さえあるルティス・D・ロータスであるからだ。


 しかしである。言われて少し離れたところにいるイレ・スペンディオを見れば納得できるところもあった。

 女性にしてはやや高い背はそれだけで人の目を惹くし、ベージュ色の制服に付属しているボタンでは止められないほど膨らんだ胸部などはなんの変哲もない日常を送って来た者には劇薬だろう。

 快晴な時の夜空を思わせる腰の辺りまで伸びた藍色の長髪に星とガスにより形成された渦巻銀河に似た輝きを内包させた瞳はものすごく珍しいし、優やルティスほどではないが美しい顔は、満面の笑みを浮かべれば明るい性格の者を引き寄せ、落ち着いた所作と表情をすれば大人しい性格の者を呼び寄せる。


 『これが親近感を持って接して来るなら確かにモテるな』などとシェンジェンは思うが、ここでふと疑問に思い、


「もしかして良照君もアイツの事が好きなんじゃないの? それなら告白しちゃえばいいじゃないか」


 素直にそう尋ねてみるが、その瞬間、良照は顔を赤くではなく青く変色。


「い、いやいやいやいや! 馬鹿な事言わないでよ! そんなことしたら殺されちゃうよ!」

「アイツはそんなに過激じゃないって。それとも何? 他のライバルが暗殺でもしようっての?」

「違うよ! イレちゃんのお父さんが怖すぎるよ!!」

「………………あぁ。確かにそうだね。忘れてたよ」


 急激な変化をした理由を聞き、これに関しては激しく同意できた。


 自分の命よりも娘の命。

 リアルで目の中に入れるために娘を小さくしてみる研究をしてみるほどの溺愛ぶりを見せる彼女の父アル・スペンディオならば、娘がお付き合いする事になる、いや告白された場合、どのような行動に出るのか想像がついた。


「告白して玉砕すれば思いがうまい方向に進む事もあるけど、それが封じられちゃってるわけだ。で良照君みたいに恋焦がれるだけの人が増えてると。それってまずいんじゃない? どこかで爆発しない?」

「う、うん。だからこの第7高校にいる彼女を好きな人は、抜け駆けとかしない休戦協定を結んで、どうにかして彼女のお父さんの壁を超えられないかって模索してるんだ」

「中々難しい気がするけど、まぁ頑張って。僕はぜっっっったいに手伝わないけど」


 ここまで話していると昼食も終わり五限目に入り、それが終わる事でシェンジェンの高校生活初日は終了するが、その顔は浮かない。


「…………思ったよりつまらないな。高校って」


 授業の内容が理由ではない。むしろその点に関しては知り合い以外に教えてもらったことで、新鮮で楽しかった。

 だが授業の合間に入る話題の内容が自分の知り合いに関する内容であること。それに周りから時折注がれる敵意や殺意が原因でボソリとそう呟き、


「それじゃあさ! 僕がこの第七高校の案内をするよ! 通ってすぐだと広すぎて迷っちゃうしね!」

「いいのかい?」

「いいよいいよ!」


 その思いを察した良照がそう提案すると、不満げな顔をしていたシェンジェンが頬を僅かに緩めながら立ち上がり、


「おーいシェンジェーン! 朝から一度も話しかけてこないなんてひどいなー! もうちょっと幼馴染に構おうっていう優しさはないわけー!」


 その思惑はホットコーヒーに入れた角砂糖のように簡単に溶けた。

 軽快で楽しそうな声をあげた話題の人物。

 すなわちイレ・スペンディオが大声をあげ美しい藍色の長髪を揺らしながら駆け寄った事で。


「ちょ、おまっ! 離れろって!!」

「ふっふっふー。捕まえたのだー!」


 さらに問題なのは彼女が猫のような身軽さでシェンジェンの胸に飛び込んできたことで、周囲にいた人らの視線が抱き合っているような様子の両者へ。

 既に良照から聞いていたことで危機感を覚えていたシェンジェンは勢いよく引っぺがそうと足掻き、


「ギャルンギャルンギャルンギャルン!!!!」

「今度はなんだよぉ!!」

「あれって確か! イレさんの作ったロボチョッチョじゃない!?」


 状況はさらに変化する。

 シェンジェンとイレ。それに側にいる良照の三人を囲うように視線を向ける少年少女。

 彼等のいる場所から少し離れた位置にある壁を突き破り飛び出てきたのは、二メートルを超える身の丈をした二足歩行の物体。

 すなわち全身をピンク色で固め、ファンシーかつおまぬけな顔をした兎型ロボットで、目の部分を赤く光らせたかと思えば口から飛び出た銃口をシェンジェンへ。

 

「あれって確かワタシがあげたロボチョッチョだ。なんでこっち向いてるんだろー?」

「掃除ぃ? 殺戮兵器の間違いじゃない?」

「違うよー! 色々な状況に適応するように作った量産予定のお掃除ロボットの試作品だよー」

「じゃあその中に『邪魔者のお掃除』でも入ってたんじゃないの?」

「………………………………あ」


 イレがポカンした表情を浮かべた時には五百発以上の銃弾が初撃としてシェンジェンだけに向け正確に撃ち出されており、けれどそれ等は全ては思うような成果を出せない。

 五百発以上の弾丸は全て、零距離にまで迫ったシェンジェンが掴んでは床を傷つけないよう優しく投げ捨てており、


「セーフティーくらいつけとけ!」


 第二撃が繰り出されるより早く手刀を上から下へ。

 イレの作ったロボットはその威力に耐え切れず真っ二つに分かれ、爆発するよりも早くシェンジェンは起爆ヶ所を追撃のラッシュで潰しきり事態は沈静化。


「これは改善の余地ありだねー。ワタシの方でオンオフできるように設定し直そうかな」

「それってお前がその気になれば大規模なテロが起こせるじゃん。ロクなことにならない未来が見えるんだけど」


 一連の動きは僅か数秒で終わり、周囲の視線には敵意や殺意とは別に尊敬の念が混ざり始め、


「ほーんと。幼馴染に対して冷たすぎない? 一緒にお風呂に入った仲だっていうのにさぁ!」

「馬鹿! その言い方は勘違いされ――――――!!」

「「あぁん!!!!!?」」

「プガァ(鳴き声)!?」


 その悉くがイレの軽率な発言により切り替わり、滅多にあげない声をあげながらシェンジェンは確信した。

 自分が望む生活を送るためにしなければならない最初の課題。


 それは今日配られた宿題をこなす事でもなければ、神の座になった蒼野から貰った任務でもない。


 嵐の目といっても過言ではない彼女を中心とした様々な問題を、解決する事であると。


 


 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


面白そうだから鳴き声を使ってみた、そんな話です。

勿論それだけが重要な話ではないのですが、極端に閲覧数に悪い変化がなかったら、これからもシェンジェンは変な鳴き声を上げる運命になるでしょう、とだけは言い切れます。


さて話を本編の他に移すと、ウルタイユにある高校、そして5章のメインキャラクターの一人であるイレ・スペンディオの紹介回です。

これまで長いこと書いて来たのですが、彼女のように無自覚に爆弾を振りまくキャラクターは、自分の書く話では中々いなかったのでちょっと新鮮な気持ちでした。

あと一話でスッと完結する話は無双気分を味わえるのも面白いですね。


さて次回からは学園編最初の物語。愉快なイレ・スペンディオ厄介事編が開始。シェンジェンが奔走します。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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