裏切りのワイズマン 三頁目
「つーわけだ」
自身が怪我を負い撤退したまでの一連の流れを説明し終えた康太。
それを黙って聞いていた蒼野とゼオスは何度も頷き、康太が一息吐くと、蒼野も張っていた肩を沈め康太以上に深く息を吐いた。
「……状況はわかった。だがそこからヒュンレイ・ノースパスに繋がる理由が見えん。どこで確信を持った」
「お前なぁ、これ以上康太にしゃべらそうとするな!」
彼らが今現在いる場所はキャラバンから五十キロほど離れた場所にある赤レンガの建物の中で、合流を終えた三人は住民のいないその場所に残されていた埃の積もった椅子の上に座り、顔を合わせながら事情を。
両肩の痛みに耐えながら話を続ける様子の康太に対し、蒼野は不安げな表情で、ゼオスは無表情で最後まで聞いていた。
康太の傷に関しては時間が経ち過ぎたことで蒼野の能力でも修復できず、ゼオスが持っていた傷薬を塗り包帯を巻くことで最低限の応急処置を済ませた状態だ。
「さっきの話の中に獅子の仮面の野郎が出てきただろ。そいつが追ってきた最中にそう喋るのを聞いたんだ」
「……よく聞こえたものだ」
感心した様子でそう口にするゼオス。
「いや、元々大声でしゃべる性なんだろうな。普通に聞こえた。んで、それ聞いて周りの奴らが睨んでた」
「どーにも憎めない奴らだな」
「……だが敵だ。情けや容赦をするな」
それに対する康太の返答は気の抜けるもので、蒼野が乾いた笑い声を上げるのだが、ゼオスの発言を聞くと顔を引き締めた。
「だけど本当にヒュンレイさんが主犯なのか? 俺にはあの人が敵には思えない」
そうしていの一番に確認しなければならない事を尋ねると、康太は『信じられない』といった様子で声を発する。
「俺もだよ。だが敵の一人が口にした言葉の様子に、そもそもギルドの乗っ取りを行おうとすれば必ず大きな障害になるヒュンレイさんの処理。それを俺らの誰にも連絡されるまでもなく行われたというのなら、やっぱヒュンレイさんしかいない」
「そう、か」
まるで十数年付き合いがあった友人に裏切られたかのような表情を見せる蒼野を前に康太が咳込む。
「ま、犯人の正体については今はどうでもいい。それよりも今は、善さんとクソ犬に合流することを考えるべきだ。連絡は?」
「優にはさっき連絡がついた。ただ、善さんには電話が繋がらない。一応メールはしておいたけどな」
「そうか」
敵の戦力は未知数。目的はわからず主犯はおそらくヒュンレイ・ノースパスという不確かな事実があるのみ。
手探りで進まなければならない状況で善の力に頼れない事実に、事実を口にした蒼野が表情を暗いものに変え康太が頭を掻いた。
「……貴様ら何を落ち込んでいる。さっさと作戦を考えるぞ」
「さ、作戦?」
が、そんな状況でゼオスはそう発言し、思わぬ言葉を聞いた蒼野がオウム返しで繰り返した。
「……そうだ。何を驚いている。このままおめおめ逃げ回ったところで必ずどこかで追い詰められる。そうならないためにこちらから先手を打つのは当たり前だろう?」
さも当然と言う様子で木製の机に肘をつけ頬杖をつき、話を進めるゼオス。
「いやでも善さんなしで戦略練ったり戦うのは……」
「…………古賀蒼野、貴様は原口善無しでは動けん木偶か?」
「あ……」
それに対し蒼野が遠慮がちな様子でそう言うと、それを聞いたゼオスが冷めた物言いでそう返し、蒼野は自身の発言を反省した。
「そうだな。ああそうだ。お前の言う通りだ」
と同時に康太が目を覚ます。
思えばギルドに入ってから今日まで、二人は指示を受け、それを忠実にこなしていただけだ。
無論それが悪いというわけではない。
善やヒュンレイが指令を出し、それをこなしていくのが彼らの仕事だ。
ただその最中で、ジコンで過ごしている頃にはあった自らの意思で判断し動く力を失ってしまった事は紛れもない事実だ。
「敵の戦力は未知数とはいえ、俺と蒼野、それにお前が素直に力を貸すってんなら少なくともあの五人組には勝てる」
「とっ捕まえて情報を聞きだすんだな!」
「うまくいってそうなればベストだが、もしうまくいかなくてそいつらが援軍を呼んだとしても、こっちにはゼオスの野郎の空間移動がある。これをうまく使えば不利な状況からでも容易く戦線離脱ができる」
「情報集めに最適ってことか」
そうして康太が大前提を話していき、それを聞いた蒼野が相づちを打ち、問題があれば康太が修正。
「ああ。敵の戦力にヒュンレイさんの件の真相解明。他にも知りたいことはいくらでもある。経路と作戦を考えて、こっちから仕掛けるぞ」
「……別に貴様らに手を貸すことに文句がないが、俺の時空門に頼りすぎではないか? 俺は自由に移動するための便利アイテムではないぞ?」
着々と計画を立てていく中、ゼオスが文句を口にするも、それを聞いた様子のない二人が作戦を練り続ける。
見張りでもするか二人の様子を確認しそれが最善と考えたゼオスが立ち上がり、建物の正面出入り口から外に出ると腕を組み周りを見渡す。
「……あれは」
するとこちら側に向かって周りを警戒しながら迫ってくる優を見つけ、優の方も腕を組んで立っているゼオスを確認すると周囲の様子を伺いながら慎重な足取りで進み、ゼオスが赤レンガの建物の中に入るように促した。
「遅くなってごめん!」
「優!」
「たくっ、おっせぇんだよ。お前を作戦に入れるかどうかで迷ってた時間を返せ」
そうしてやって来た優の姿を見て、蒼野は顔に笑みを浮かべ歓迎し康太は悪態をつく。
それから十分ほどで蒼野とゼオスにしたときと同様康太が説明をすると、優は額に手を置いて何事かを考える。
「どうしたんだ、優」
その様子を確認し、不安げな様子で尋ねる蒼野。
「うん。今の話を聞いてちょっとね。まず確実に言えることは、そういう仮面を被った組織があった事をアタシは知ってる。元々はヒュンレイさんがトップだった組織よ。名前は…………忘れちゃったわ」
「ヒュンレイさんがトップだった組織?」
「ええ、十怪だった頃ヒュンレイさんが作った組織よ」
そうして語られた内容は、ヒュンレイ・ノースパスという人間がこの一件に大きく絡んでいるという事に関する、これ以上ないくらい大きな証拠であった。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
メンバーの合流回。本当はもう少しじっくり書きたかったのですが、
そうすると冗長になってしまうのでそちらはまた次回。
今回の話に関してですが、ちょっとこれまでと比べ戦闘前までがスローペースで話が進んでいくと思います。
過去話や動機、それに加えて様々な描写が合わさるのです。
なにぶんご理解いただければ幸いです。
それではまた明日、よろしくお願いします。




