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策謀。密やかに


 地下にあった隠された大図書館の焼失と久我宗介の死亡に関する件は、周りには知らせず内々で処理することになった。

 これは今世界中に広がっている平和な空気をわざわざ自分たちの手で壊す必要はないという考えからで、現場にいた蒼野とゲイルを中心とした数人が大図書館内部の捜索を開始。この事件の犯人を捕まえるための情報探しに躍起になる。


「ダメだ。何もわからない」

「何もって、アンタ時間を戻せるじゃない。犯人の姿を見るのは無理でも、手口とかくらいならわかるんじゃないの?」

「俺もそう思ってたんだけど、どうもそうはいかないみたいなんだよ。かなり強力な阻害系の力が働いてて、俺の能力を弾いて来やがる」

「犯人はかなりのやり手ってわけね…………オッケーわかった。それなら能力なしで手がかりを探しましょ!」


 最も頼りにしていた蒼野の時間回帰は空振りに終わり、優の言葉を聞き現場にいた面々は調査を再開。結果として何の成果も得る事ができず終わりを迎える事になるのだが、その裏で密談をする者達がいた。


「話ってのはなんだ? この状況でこんな辺鄙な場所でしなくちゃならないほどのものなのか?」


 世界中の歴史を蓄えた大図書館から遥か彼方、周りに誰もおらず四方を荒波で囲われた離れ小島で向き合う影があった。

 その場所になんの許可もなく無理やり連れてこられたのは、つい先ほど正しい道を歩み始めた原口積で、彼は岩肌に背を預けた状態で腕を組んでいるもう一人の男。

 すなわち自分をこの場所に運んだガーディア・ガルフにそう尋ねる。


「君は、つい先ほど本気で死のうとした。そうだね?」

「…………いちいち嫌な確認をする奴だな。否定はできねぇけどさぁ!」


 その返答は物静かなもので、積は顔を歪めながら応じ、その様子を見たガーディアは沈黙。

 一秒、二秒と、二人を囲う波の満ち引きだけが場を支配し、


「もし君がこの後に何か悪だくみをしようと思うなら、死ぬ可能性が高い危機的状況に身を置くことはないだろう。加えてここ最近の動きを見れば、世界を良い方向に導こうという意思があったこともわかる」

「待て待て! いきなり何を言い出すんだお前は! 説明をしろ説明を!」


 その果てに口を開くのだが、突然の問い掛けに積は付いていけず、抱いた困惑を素直に零す。


「ゆえに問う。原口積、君はなぜイグドラシルが、このタイミングで乱心したと思う?」

「………………………………!」


 けれど続く言葉を聞いた時、彼の乱れ切った思考は正常に戻った。

 全身を支配していた困惑と熱気はみるみる内に退いていき、優れた観察眼が光る。

 なぜならそれは積も気になっていた事柄であったからだ。


「それは………………」


 此度の大戦における結果は『イグドラシルの中に巣くっていた巨悪は打ちのめされ、世界に平和が訪れた』というものだ。


 がしかしである、考えてみればそもそもの前提がおかしいのだ。


 もし本当に世界を滅ぼすつもりであったのなら、馬鹿正直に真正面から攻める必要はない。

 神の座を操っているという有利性を活かすならば、世論を味方に付けつつ、人様に知られぬようこっそりと邪魔者を排除するように動いた方が効率がよい。

 そうでないにしても、多種多様な手段が可能であったはずなのだ。


 そしてそのような策を弄せることは、蒼野達五人を賭博の楽園オルレイユにおびき寄せて襲撃した様子からも伝わってくる。

 だというのに、その形をわざわざ崩して強硬策に出た理由があると彼等は考えており、


「………………賢者王を名乗る奴が現れたから?」

「………………………………………………フム」


 しばし考えた後、積は質問に答える。

 それは最も単純。いの一番に思いついた答えで、聞いたガーディアすぐには答えを出さずに熟考。


「…………この問題は、明確な答えをすぐに出せるものではない。けれど私は、そこに私達が知らない大きな意味があると考えている」


 その果てに告げた答えは具体性に欠けたものだったため積は片方の眉を吊り上げるが、すぐに気を取り直し、


「大きな意味?」


 一歩二歩とガーディアから見て向かって右側に歩きながらそう質問。するとガーディアは迷うことなく頷いた。


「そうだ。話によると『仮面の狂軍』と呼ばれる軍勢は、私がいなかった千年のあいだに活躍した英雄たちの死体を利用するという非道徳的なものだったらしいじゃないか。そこまでして戦力を集めた理由は何だと思う?」

「………………アンタはなんだと思うんだ?」

「私はこれが、来たるべき決戦に備えた戦力だと判断した」

「来たるべき…………決戦?」

「ああ。だとするなら様々な不明点にも説明がつくと思うのでね」


 自身が統治する事になった千年もの間、不必要なはずの賢教との衝突を継続させていたこと。

 自身と同じ『果て越え』を求めていたこと。

 そして先に述べた『仮面の狂軍』の結成は、いつか来る戦いに備えていたのだと彼は告げる。


「なるほどな。ところでこの話を俺だけにしてる理由は何だ? どういう意味がある?」


 この時点で恐るべき話が展開されていたので思わず背筋を凍らせたのだが、積は他の者らからわざわざ離れ、自分にだけ話をした理由に関して尋ねた。

 少なくとも積と同じギルド『ウォーグレン』の面々や、ガーディアの友である二人がいてもおかしくないと思ったからであり、


「正体のわからない謎の敵………………その本人か端末か。もしくは無意識の協力者かまではわからないがね、私は我々の内部にも敵の魔の手が潜んでいると考えている」

 

 直後に行われた返答を聞き、この会話が始まって以降最も大きく胸を跳ね上げる。

 ここまで共に戦ってきた仲間達。その中にイグドラシルがずっと警戒していた存在に類するものがいるなど、思ってもいなかったのだ。


「なら! まさかそいつが今回の犯行を!」

「その可能性は十分にあるだろうね」


 そこから更に思考を先へ進めれば、此度の久我宗介殺人事件に関しても伸びていき、積は言葉を失う。

 そして


「ひとまず私は彼女の作った結界維持装置を調べてみようと思う」

「結界維持装置を?」

「そうだ。此度の戦いにおいて、あれは『黒い海』の情報収集に利用されたそうじゃないか。だが本来の使い方は別にあったはずだ。それは以前あれを壊していた時、他の者らから報告を受けていたことから確かなことなんだ」

「…………イグドラシルが操られたのは直近の事。つまりそれ以前には違う意図を持っていたという事か!」


 内心で『あの人が死んだ大本の原因はお前だろうが』と突っ込みながらも、積はガーディアが望む返答を投げかけ、すると視界に映っていた景色が大きく変化。

 事件のあった『神の居城』の前に移動していたことから、ガーディアが瞬く間に自分を運んだのだと理解し、


「何かあればまた連絡するが、しばらくのあいだはこのことに関しては誰にも喋らないでもらいたい」

「誰が敵で誰が味方かわからないからってことか。わかったよ」

「そうだ。だが――――神崎優香ならば別だ」

「………………あの人か!」


 最後にそのような会話をすると、驚く積に対し何も言わずガーディアはその場から離脱。

 己が目的を果たすため、壊れた結界装置の一つへと移動し、内部の観察を行い始め、


「――――――――」

「!?」


 そのタイミングを見計らうように、彼は襲撃を受け、再び物語が始まる八年以上先まで、彼が表舞台に姿を表す事はなった。





「っ」

「どうした優?」

「気にしないで。なんでもないの」


 そしてもう一つ、彼等の周りで変化があった。


(今日だけで断片的な記憶喪失が二回。それに頭痛がこれだけ続くなんて。アタシどうしちゃったの?)


 尾羽優が時折起こす記憶喪失の頻度が増え、これまで体験したことのない頭痛に悩まさられることになる。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


というわけで正真正銘少年編の最終話が終了。

ここまで永らくお付き合いいただきありがとうございました!


最後の話は未来への布石。それに残された謎の提示です。


ここから五章以降に続くわけですが、その内容に関してこの場で少々。


まず初めに青年編は五章から七章まで。長さに関しては最終決戦である七章は中々ですが、それでも三章を超える事はなく、他二つに関しては二章と同程度かそれ以下になると思います。


六・七章の内容に関してはまだお話できませんが、五章に関してはこの場で。


五章の内容はというと、蒼野達が作った世界での日常編となります。

といっても戦多い星『ウルアーデ』での話ですので、基本的にはバトル多めの短編で、特徴は神器使いが出てくる頻度が少ない。つまり能力者主体の話が多いと思います。

主人公に関しては、五章の一話目で明かされるのでお楽しみに!


で、執筆開始の時期ですが、長かった少年編が終わり、これから書く青年編の見直しもしたいものでして、その上で賞に投稿する話も書いている途中なので、今回は少し長めの休みを挟み、6月1日に再開させていただきます。


それからはこれまで通りのペースで書いていくので、少しのあいだお待ちください。


それではまた五章で、皆さまに見ていただければと思います!

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