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集結と秘密の部屋


「本当にそんな場所があるってのか?」

「そっか。康太は第五階層に行かなかったから知らないよな。安心してくれ、間違いなくあるよ。俺と優、それにゼオスは大量の本棚が立ち並んでいる映像を、第五階層に入ってすぐに目にしたんだ」


 惑星『ウルアーデ』の命運を握る戦いが終わり、周囲一帯は先ほどまでの喧騒が嘘のような静寂に包まれる。

 夜の闇は未だ去っておらず各地に戦いの傷跡が残ったままであったのだが、最上階で戦っていた蒼野達七人は既に動き始めていた。


「なんにせよ行ってみるしかないわけだけど、アタシ達、その場所がどこなのか皆目見当がつかないのよね」

「ならダメじゃねぇか」


 エレベーターは激しい戦闘の影響で故障しており、能力で『神の居城』の時間を戻そうとした蒼野であるが、粒子が足らず思うようにはいかなかった。

 ゆえに一階まで飛び降りた最上階での戦いを生き延びた七人であるが、あいにく地下にある図書館の場所など知るはずがない。


「とりあえずいけるところまで行ってみよう! その後に関してはまた考えればいいさ!」

「ずいぶんとお困りのようね。ならアタシの出番ってわけね!」

「アイビスさん!」

「知ってるんっスか!」

「あの場所に関してはアタシとデュークだけには教えてくれてたのよ。だから大船に乗ったつもりでいなさい!」


 ゆえに蒼野が発破をかけるのだが、そんな彼らの側にやって来たのは黒海研究所から崩壊した『神の居城』まで戻って来たアイビスであり、彼女は胸のやや上部を右手で作り上げた握り拳で軽く叩きながらそう豪語。


「みんな揃ってボロボロだな! まあ仕方がねぇけどな!」


 続けてやってくるのは彼女と共に黒海研究所に訪れていた面々で、ナラストと共に殿を務めていたエルドラがそう言うと同時に、更なるメンツが彼等の元へとやってくる。


 大樹と負の結晶を破壊した、最終決戦において最後の一手を叩き込んだガーディア=ウェルダ。

 デュークの活躍により『黒い海』が沈静化し、各地から主戦場である『神の居城』に訪れた貴族衆のクロバやシロバ、それに賢教のシャロウズら。


「各地の有力者が集まってきたか」

「ガーディアさん! 無事だったんですね!」


 そこから更にノア・ロマネや李凱。久我宗介やクドルフ・レスターなどもやってくると、最後の締めを飾るようにガーディアがやって来た。


「これで全員かしら? なら行きましょうか!」



 そこまで見届け、アイビス・フォーカスが動き出す。

 誰の目で見ても異常なほどハイテンションな振る舞いで。


「にしても元気っスねフォーカスさん」

「そりゃそうよ。この世界を襲った史上最大規模の事件が終わったのよ。明るくならなくてどうするのよ!」

「どうしたんだ聖野。随分暗い顔をしてるじゃないか?」

「あ! いや! 気にしないでくれ! 大丈夫だ! 大丈夫!」


 とすれば事情を知らない康太などは呆れてしまったのだが、黒海研究所に向かっていた面々は違う。

 大小の差はあれど沈痛な面持ちを浮かべており、地下一階にある巨大な資料庫へと向かう傍らで蒼野にそう尋ねられた聖野はといえば、両手をブンブンと振りながら否定し、


「その反応は………………むしろ気になってきちまうんだが?


 その反応を見た蒼野が訝しげな表情を浮かべ、


「あ、あら? 不味いわね。上の戦闘の余波で、置いてあったはずの門がどこかに行っちゃってる」

「すぐには見つけられないんッスか?」

「残念ながらね。物が物だからめちゃくちゃ小さくして悪用されないようにしている上に、索敵系の術技や能力を完全に無効化する仕様が施してあるのよ。元の場所から移動しちゃったら探すのはかなり大変」

「………………それは、まずいのではないか?」

「そうね。けど人数が人数だし、人海戦術で何とかなるはず!」


 けれどアイビスと康太、それにゼオスの会話を耳にすると意識をそちらに向け彼女の側にまで移動するが、続く説明を聞けば同意しずらいものであった。

 

「どんなものなんですか?」

「砂粒よりちょっと大きいくらいの、透明化してる物体よ!」

「この部屋の時間を俺の能力で戻したら元の場所に戻らないですかね?」

「多分無理ね。さっきも言ったけど、あらゆる能力とかを弾くように色々な術技や能力を施してるから」

「となると中々ハードな話ですね」


 なにせ彼らが訪れた地下一階はとんでもなく広く、この世界の中心である『神の居城』の資料庫として使われていたゆえに大量の物が溢れており、その中からアイビスが言ったようなものを探すのは、一日二日かけても見つけることが出来ないように思えたのだ。


「大丈夫! 一年頑張れば絶対見つかるって!」

「アイビスさん。それは貴方の時間間隔なら短いかもしれないですけど、俺達一般人からしたら気の遠くなるような長さなんですよ」

「しかも私はその十倍だぞ。考えたくもない」


 励ましの言葉も聖野とガーディアによりあっさりと無意味な物と化し、彼女が肩を落とし、他の者達も思わずため息を吐く。


「全く、君たちはこんなものも探せないのか?」

「あ!」

「…………貴様は」


 そんな中、声をあげる者がいた。

 地下へと降り立った彼等から幾分か離れた位置にいたその影の招待は、第五階層でガーディアが退けた難敵ゴットエンド・フォーカスであり、自身に向けられる敵意などものともせず彼らに近づいていくと、右手に掴んでいたものをアイビスに。


「最下層、秘密の図書館に至るための転送門だ。鍵を使って入るといい」

「意外だな。君はイグドラシルを殺めた彼らが憎いから協力しないと思っていたよ」

「ガーディア・ガルフ………………お前は本当に人の心がわからないんだな。確かに彼らは母さ………………いやイグドラシルを殺した。だが同時に鍵を譲渡されたんだ。それならそこまで導いてやることが、彼女の意図を汲むことになるんだよ」

「どなたかは知らないが、私の親友が失礼な事を言ったようだな。すまない」

「シュバルツ・シャークスか。君はその親友と比べて礼儀正しくていい奴だな」

「………………………………」

「待て待て! そんな事で嫉妬心を向けるなガーディア! 怖いから!」


 高慢な物言いに対しガーディアが尋ねると、彼は鼻を鳴らしながらそう返事を返し、ガーディアとシュバルツの漫才のようなやり取りを一瞥すると、秘密の部屋へと入っていく面々を見張るように最後尾へ。


「なら――――行くわよ!」


 アイビスが気合を入れながら鍵を透明の物体にぶつけると、直後に世界が歪み、


「ここが!」

「イグドラシルが言っていた秘密の図書館か」

「こんなところがあるとはな。あの方に長くお仕えしていたが、終ぞ知らなかったよ」


 歪みが消え去ったところで彼等の前に姿を表したのは、どこまで伸びているのかもわからない高さの本棚が規則正しく並んでおり、宙には鳥のように羽ばたく本が存在する異様な空間。


 彼女が自分と同じ『フォーカス』の性を持つ者にしか教えていなかった、この世界の最深層に至る秘密の場所である。

 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


エピローグ編その3になりますが申し訳ない。

予定では今回の話で終わるはずだったのですが、書いていると意外に分量があったので分割。

今回と次回の前後編に分けました。


で、今回の前編に関してですが、世界の秘密に触れるという事もあり、全員集合回。そしていざ地下大図書館と言ったところであります。


この場所がどのようなところなのか。そして後回しにした世界の様子に関しては後編で!


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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