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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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裏切りのワイズマン 二頁目


 オレの目の前に現れたのは見たことのない水色の模様を付けた、黒のライダースーツに各々別の仮面を被った四人の男女だ。

 最近出没している危険な組織については一通り記憶しているオレが知らない姿をしたそいつらのうちの一人が、オレに銃を突きつけ剣呑な様子で語りかけてくる。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ。いきなり出てきて銃を突きつけるなんて物騒だなあんたら。一体ここで何が起きているんだよ!?」


 正直に言えばすぐに反撃に出たいところだったのだが、この時の俺は感情よりも先に理性が動いた。

 情報を絞りだすためにわざと慌てた様子で両手を上げ、切羽詰まった声をあげながら一歩下がった。


 そんな様子の俺を見た目の前の奴らは、仮面で素性を隠した顔を見合わせながら目くばせ。


「失礼。あなたは何故この場所に?」


 その状況でオレにしかけてきたのは、天狗の仮面を被った先頭の人物だ。

 冷淡共取れる落ち着いた声をした女らしき人物は、銃を狙撃銃を構えた黒豹の仮面を被った男に待ったをかけながら話しかけてきた。


「お、オレはこの近くに住む木こりだよ。ここらへんは属性使いでも作りだせない良い木が生えてて仕事に来たんだが、仕事場が真っ白な霧に覆われてるじゃないか! どういう事だ!?」

「「……」」


 オレの発言を目の前の奴らがどの程度信じたかはわからない。

 ただオレに銃口を突きつけた黒豹の仮面を被った存在は少なからず動揺したようで、そいつは先頭を立つ女に耳打ちをするために、少々戸惑いながら前に出た。


「そこだ」


 その一瞬、敵の意識が俺から離れたその一瞬をオレは逃さなかった。

 蒼野が命を狙われた際、打倒ゼオス・ハザードを胸に掲げた日からヒュンレイさんに習い練習を続けた『クイック』。

 その成果で得た目にも止まらぬ速さの動作で敵がこちらに意識を向ける前に銃を抜き、先頭に立つ天狗の面の女を対象に照準を合わす。


「あなた……!」


 先頭に立つ女が何か言葉を発しようと口を開くがそれよりも早く引き金を引き、銃弾は一直線に太ももへと向かい直進。


「ふん!」

「なに?」


 だがオレが撃ち出した敵の虚を突いたその一撃は、女の前に飛び出た男の、筋骨隆々の肉体に防がれる。


「正々堂々戦わず姑息な手を使うとは……貴様それでも漢か!!」


 驚くべきはその硬度だ。

 体を貫通させるために撃った貫通力のある鉄の弾丸は、獅子の面を被った男の肉体に直撃したにもかかわらず損傷一つ付けれず、体を覆うライダースーツに小さな穴が開いた程度の成果しか得られなかった。


「なんだその肉体…………」

「ほう、この肉体に目を向けるとは……外道の道を進んだにしてはいいところを見ている!」


 動揺から素直な感想が飛び出た俺に対し、天を突くかのような大声でしゃべり続ける獅子の仮面を被った男が前に出る。


「ふん!」

「あぁ?」


 その様子に警戒心を顕わにしたオレなのだが、男はテレビでたまに見る、リンゴを握り潰す時に発するような声を出し、それを前にしてオレは銃を構えた。


バリン!


「は?」


 そうしていると男の力の籠った叫びから少しして服の上半身がはじけ飛び、その光景に思わず虚を突かれてしまい、開いた口が閉じなかった


「見るがいい! 我が美しき肉体を!」


 しかも目の前に出た巨躯はその隙を突いて攻撃してくるわけではなく、自らの肉体を賛美し、マッスルポーズを決め始めるのだからオレの頭はさらに混乱。


「…………それだけ?」


 目前にいる存在が障害なのは重々承知していたのだが、それでもオレを含めた全員が男のその奇妙な踊り(言うなればマッスルダンスか?)に困惑し、オレは思わずそう聞かずにはいられなかった。


「それだけとはなんだ! この美しき肉体を見て口にすることは他にあるであろう!」


 その返事に対し、思わず顔を強張らせてしまった。

 目の前にいるのは明確に敵であるというのに、獅子の面を男の思わぬ行動と言動に対し頭を抱えたくなる。


「えっと、あのな……」

「馬鹿かお前! 早くとらえろ」

「む、心得た!」


 そうして周囲の空気が何とも言えない微妙なものに変化したわけだが、どうやら背後の奴らはそうでもないらしく、同格らしきどくろの仮面を被った男が獅子の仮面を男を叱咤すると、大木のような腕でオレを掴みに来やがった。

 オレはそれを躱して男の肩に足をかけると、四対一では流石に分が悪いことを感じ取り、濃霧漂う森とは逆の方角へ跳躍。撤退を決意した。


「パンサー」

「任せろ姉さん!」

「ちっ!」


 だがことはそう上手くは進まなかった。

 四人の内の一人、獅子の仮面を被った男は驚くべき速さで逃げようとするオレの前に立ちはだかり、


「足を止めたな坊主!」


 それを対処しなければならないと考えたオレが目の前の男に対し銃を構えようとした一瞬に、両肩に弾丸が撃ちこまれた。


「クソがッ!」


 痛みに意識が集中する。

 銃使いが銃にやられるという本末転倒の結果に対しこの上ない憤りを感じるが、その時のオレはそれに対し怒りを燃やすだけの余裕はない。

 なにせオレが痛みに顔を歪めたその一瞬の間に、獅子の仮面を被った男が手を振り上げ迫っており、それに対処しなければと考え直感に任せ上へ跳躍。

 男の頭を蹴り飛ばし、こちらに向けて銃を構えている黒豹の仮面を被った男の撃ち出した銃弾を躱し相手の頭部を掴んで獅子の面を被った男に蹴り飛ばと、後ろの方で人と人が衝突した打撃音が聞こえてきた。


「今のうちに!」


 その隙に、革袋から煙玉を出し投げつける。


「させません!」


 地面に衝突する前に指令役の女が掴み破裂するのを阻止するが関係ない。

 その場で動きを止めた獲物を狙う事ならば朝飯前だ。

 痛みを堪えながら撤退した状態から振り帰り、空中で銃を抜き、天狗の仮面を被った女が手にした煙玉に狙いを定め、引き金を引くと、銃弾は煙玉に命中しその本来の力を発揮した。


「パンサー!」

「へいへい。しっかり仕事をしますよ!」


 それで逃げきれたと安堵したオレだったのだが、煙の中から黒光りする銃身が現れたと思えば、オレに対し狙いを定めて来たので、


「させるかよ!」


 オレは煙から出てきた銃身に向け引き金を引き、相手が銃弾を撃ちだす前にそれを破壊してやった。


「はぁ!?」


 その結果を前にパンサーと呼ばれた男は困惑した声をあげており、それを聞いて正直胸がすっとした。


 何せわけもわからず命を狙われたのだ。

 そんな相手に一泡吹かせたんだから楽しいったらありゃしねぇ!


「なに神業をさらっとやってんだクソガキ!」


 銃身から溢れる煙を見て男が叫ぶが時既に遅し。

 オレは奴らの目が届かない位置にまで退避。


「ひとまずヒュンレイ様に連絡じゃ! 恐らく奴が、古賀康太であろう!」

「はぁ?」


 その時獅子の仮面を被った男が口にした思いがけない名前を前に俺は思わず声を上げてしまった。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


本日は遅くなってしまい申し訳ありません。


今回の話ではこの物語の全貌がちょっとずつ見えたかと。

仮面と言えば蒼野や康太には嫌な思い出があるものなのですが、

それについては明日話せればと思います。

今回に関して言えば、敵は複数人、そして仮面を被っていると覚えていただければ幸いです。


それでは、よろしければ明日もお願いします



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