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暁に終焉を


「ああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?」


 終わりの瞬間がやってくる。

 積が手にした得物を引き抜き、鮮血と見紛う『黒い海』が夜空を舞うことで。


「まだです! まだ………………まだ! わ、わたわたわたしはぁ――――私は世界をぉ!?」


 噴水のように噴きあがる液体の発生源たる邪神は、その口から言葉を零す。

 全身だけでなく声を震えさせながら、空に浮かぶ黄金の月を睨みつけ、憎悪に彩られた声を零し続ける。


「ああああああぁぁぁぁぁぁ………………………………ぁ!?」

「諦めろ。もう………………終わりなんだよ」

「積!?」

「アンタ大丈夫なの!?」

「安心しろ。問題ねぇ!」


 そんな状態の彼女に追い打ちを仕掛けたのは、吹き出る『黒い海』を恐れず唯一彼女の側にいた積であり、瞬時に生成し打ち出された鉄杭が彼女の体を五度六度と貫通。その全ての場所から夥しい量の『黒い海』が流れ出し、


「――――――――――――」


 夜空を満たす絶叫が――――止む。

 小刻みに体を震えさせていた邪神は声一つ漏らさなくなり、そのまま体を前に傾ける。

 それがこの戦いの終わりであることを五人は悟り、


「………………!」

「え!?」

「まだやるってのかよ。なら今度はその頭部をかち割って!」


 そんな彼らの前で、彼女は一歩踏み出す。

 崩れかけていた体を立て直し、沈んでいた頭部をゆっくりだが持ち上げる。

 とすると優の口からは戸惑いが漏れ、彼女の側にいた積はすぐさま消していた鉄斧を生成するが、そんな彼の肩を後ろからやって来た蒼野がそっと掴んだ。


「蒼野?」

「いいんだ積。もう………………いいんだ」


 彼は真っ先に感じ取り理解したのだ。

 自分たちの目が捉えている存在から敵意や殺意が消えていることを。

 体を真っ黒に染めていた『黒い海』はもはや漏れる事はなく、生命の彩りを感じさせる美しい緑の髪の毛に戻っていることを。


 つまり目の前にいる存在は――――ほんの少し前まで自分たちが慕っていたイグドラシル・フォーカスであるという事を。




 いつ崩れてもおかしくない足取りで彼女は歩き続ける。向かう先は崩壊した壁の側で、辿り着いてすぐに彼女が目にするのは外の様子。自分が千年かけて作り上げた惑星『ウルアーデ』そのものである。


「そうですか。みな、頑張ったんですね」


 近場をみれば、戦闘が終わったことを知り地下から這い出て城下町の修繕に努める者達がいた。

 目を瞑って千里眼を発動すれば、先ほどまで自分の体を使っていた邪神が巻き起こした黒い津波から身を守るための壁が見えた。

 他にも多くの場所に意識を向ければ、世界を滅ぼす災害を前にして懸命に立ち向かった結果がありありと見て取れた。


「神教も賢教も。貴族衆もギルドも関係なく。みんなで」


 驚くべきは世界中の人らが手を取り合っている事で、自分が死ぬ直前から今まで続いていた成果に彼女は胸を熱くする。

 それは自分が仕組んだ対立を最高のタイミングで乗り越えてくれたことに対する感謝の念も含まれており、


「…………生き伸びてくれたんですねガーディア。それにゴットエンドも」


 何より嬉しいのは、惑星『ウルアーデ』が誇る二つの奇跡。

 史上最高にして一生物の到達点が二つとも生き残っているという結末で、その結果を前に彼女は頬を緩ませ………………直後に悔しさから涙を流す。


「ああけれど――――――私は夜明けを迎えられない」


 それは最高の結果を得たにも関わらず、唯一取りこぼしてしまった出来事の事を考えてしまったため。

 千年待ち望んだ瞬間を、誰よりも見たかったはずの自分が見れなかったゆえであり、けれど彼女は悲嘆に暮れている暇はなかった。

 自身が果たすべき最後の役目。残された最大のタスクを終えるため、自身の瞳から流れる熱くて透明な液体を人差し指でそっと拭い、緑の長髪をたなびかせながら、先へ進む者達を目にするため振り返る。


「イグドラシル様………………」

「本当に、ご迷惑をおかけしてすいませんでした」

「そんな! 私の方こそすいません! もう回復術が使えなくて!」


 発せられる言葉に込められているのは慈愛の念で、それを聞いた優が瞳を震わせ、胸に置きながら言葉を発する。


「気にしないで尾羽優。それに古賀蒼野も。今の私は魂の残りカス。何をしたって助からない運命なのです」


 そんな彼女と積の横にいる蒼野を慰めながら、彼女が右腕を前へ。

 突然行われたそれを前に、けれど彼らは動じない。康太でさえ危険はないと断じ、続けて訪れる『何か』を待ち続け、


「これは『神の居城』最下層にある図書館へ通じる秘密の鍵です」

「最下層………………図書館?」

「…………下の階に広がっていた本棚の本体ということか」

「そうです。そこで、貴方、達………………は」


 しばらくして浮かびあがったのは、蒼野やゼオスの二の腕ほどの長さをした巨大な黄金の鍵で、イグドラシルの掌から離れると蒼野達五人の前へと跳んでいき、同時に全ての役割を果たした彼女の肉体が端から崩壊していく。


「イグドラシル様!」

「千年間………………働きすぎた、んでしょう………………ね………………………………おやすみ、なさい」


 すると彼女は悲鳴に似た声をあげる優から離れるように再び崩落した壁の側へと向け歩き出し、


「世界、を………………宙を………………………………………………………………おね」


 最後まで言い切るよりも先に、その身を虚空へと解き放つ。


「「!!」」


 直後に外壁へと駆け寄った蒼野と優が目にしたのは、全身を灰にして天へと昇っていく女神の姿。


 千年という長き時間を統治した偉大なる先達の完全消滅の姿であった。




 こうして彼らは惑星『ウルアーデ』が迎えるはずであった『終わりの刻』を踏破した。




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


四章エピローグ編その一。イグドラシル側の最終話。最後に色々と含みのある事を言いましたがそれはまた今度。

予定では次回次々回でエピローグも終了。エクストラステージに当たるラストシナリオという感じだと思います。

ちなみに今の内から言ってしまいますが、エクストラステージはそこまで長くないです。

あれは三章が異様なだけですね。はい。


それではまた次回、ぜひご覧ください!


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