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DEAD HEAT


神の座イグドラシルの体に巣くった『黒い海』が、彼女の持つ知識から見つけた『仮面の狂軍』の最終強化手段。それが仮面を外す事による肉体の変貌。

 すなわち個々人が到達していた、または到達するはずだった最盛期へと変化させるというものである。


 この効果の凄まじさはアデットやギルガリエ。そしてゲゼルが示した通りであるが、この仕組みを施した『黒い海』は、実のところこの状態に移行するための方法は理解していたが、『どうしてこうなるのか』という仕組みに関して理解していなかった。


 ゆえにここで告白しよう。

 彼女が行っているこの強化方法は『魂の燃焼』により起こしているものである。


 そもそもの話として仮面を被った者達を兵士として活用できている原理は、死者が体内に残したほんの僅かな魂の欠片に『黒い海』を接続し、醜悪かつ不出来ではあるが、動けるだけの形を取り戻している故なのである。

 これに対し『魂の燃焼』とは、仮面を外すのと同時に体内に残った『黒い海』の動きを活性化させることで、元々ごく僅かしかなかった魂の欠片に浸食させ、勢いよく燃やし想像を絶する強化を施すというものなのだ。

 そんなことをすれば当然ながらごく僅かな魂が耐えきれるわけもなく、最後には耐え切れなくなりアデットやギルガリエが起こしたような結末、意思持つ『黒い海』が想定していなかった終わりを迎えるのだ。


「ゲ、ゼル?」


 そして今、そんな定められた結末がゲゼル・グレアにも訪れる。

 若き日の姿を取り戻した彼の肉体から大量の黒い煙が溢れ、膝を折る。


「お、おぉぉぉぉぉぉ!!」

「なっ!」


 だがそんな終わりをイグドラシルの姿を模した邪悪は認めない。溢れ出るエネルギーを補充するように、自分や蒼野の頭上に浮かぶ負の感情の結晶を注いでいく。


「何をしているのですかゲゼル! 貴方が真に最強であるというのならば! 目前の雑兵を蹴散らしなさい!」


 次いで指示を出せばゲゼル・グレアは動き出す。

 もはや言葉一つ発することなく、糸に操られた人形のように、ただの殺戮兵器として千年磨き続けた剣技を繰り出していきけれど対峙する五人は誰一人として真正面から対抗しようとは思わない。全員が回避に徹し時間切れを狙っていく。


「………………康太。頼む」

「わかってる。オレに任せておけ」


 これは当然の選択であり恥じる事はなにもない。

 なにせ彼らは既に情報として、このまま放置しておけば目の前の存在が自滅する事を知っており、なおかつ康太の持つ『危険察知』の異能を用いれば、比較的安全に事を成し遂げられる事をわかっている。

 ただそんな終わりを迎えさせることに対しゼオスや康太は後ろめたいものがあり、


「我が剣――――剣帝を超える」


 そんな彼らの思惑を超えてくるのが今のゲゼル・グレア。人類史上最強たる『果て越え』に挑むため、千年間鍛錬を続けた怪物である。


(この状況で剣速が更に増してっ)


 首と心臓しか狙って来ないとわかっているのに、康太の持つ直感が十全に働くというのに、ゲゼル・グレアの刃は完全なる死が近づいた今になって研ぎ澄まされ、康太達五人を追い込んでいく。


「あぶねぇ!」


 迫る刃の速度に唯一体を動かすことができたヘルスが庇うように前に出るが全て受け止めきるには至らず、右足が三つに切り離される。

 続いて前に出たレオンは砕けた神器を盾にするが膂力の差で押し負け、魔剣は掌から離れ虚空に。

 残った神剣だけでは防ぎきれず、胴体を貫通するように刀と剣が突き刺さり、瞬く間に真上へと引き抜かれ鮮血が宙を舞う。


「っ!」


 となれば急いで回復術を行使する優であるが、その表情が歪む。

 それは今しがたレオンを致命傷から回復させた事で水属性粒子が底をつき、これまで延々と頼って来た回復術がついに使えなくなったからで、


「「ッッッッッッ!!」」


 康太とゼオスが、膝から崩れたレオンを庇うように前に出る。

 すると繰り出された刀と剣を一本ずつ止める事ができ、体内に残っていた力を振り絞り押し返し、反撃とばかりに繰り出した刃の折れた剣が繰り出した一撃が、全力には程遠い威力の弾丸が、ゲゼル・グレアの体に突き刺さる。


「我が剣――――――」


 無論その程度が致命傷になど至るわけがなく、ゲゼル・グレアは動き続け両腕を掲げる。

 するとこれから繰り出される技が未だ攻略できていない必殺であると知っているゆえに、前に立つ二人が歯を食いしばり、


「――――――――――――――――――――――――――――――――」


 訪れるはずの瞬間は………………どれだけ待ってもやってこない。

 振り下ろせば全ては終わるはずだというのに、彼の者は彫刻のように固まってしまう。そして


「世話を、かけた、な」


 続いて聞こえてきた声を聞き、対峙していた者達の表情が緩む。

 それは誰の目で見てもわかる全てが終わったことの証左であり、


「どいて、くれ」

「ゲゼルさん?」

「いかな、ければ。約束を………………果たす、ために」


 目の前にいる若者たちの激励の言葉を送ることもなく、必死な表情でゲゼル・グレアが動き出す。

 体の至る所から黒い煙を出し、四肢の端を砂にして崩しながら、それでも果たさなければならない最後の役割を終えるために動き続ける。


 真下にいる彼に会うために動き続ける。

 

 


「ヘルスさんごめんなさい。その傷をすぐに治す事は」

「気にしないでくれ。というかむしろ誇らしいよ。俺の頑張りで君達を守るだけの手助けができたんだからな」

「…………悪いが俺もここまでだ。自分らの身はしっかり守るが上に関しては君たちに任せたい?」

「ウス」


 斯くして戦いは終わり、生き残った者達は言葉を交わす。

 結果、ゲゼルから子供たちを守るため、最前線に出て片足を無くしたヘルスと致命傷からは回復したが動く余力のないレオンの二人はこの場で待機。

 話しかけられると康太が代表して声をあげ、直後に跳躍。追うようにゼオスと優も上へと昇っていき、


「待たせた!」

「来てくれただけでうれしいよっ」


 無数の木の根を捌き、反撃で赤い光を撃ち込む蒼野の元へと合流。


「貴様らぁ。貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 全てが終わる。その瞬間がやって来た。




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


皆様お久しぶりです。長かった戦いの日々も、今回でまた一つ終わりを迎えました。

もしかしたら見ている皆様の中には『ちょっとあっさりしすぎでは?』と思われているかもしれませんが、作者としましては、明確な超えなければならない壁はクソメガネことゴットエンド。

ゲゼル殿はそれとは違う立ち位置なのです。

なので彼の果たす役割は戦闘部分ではなく今から。

多分向かう先の人物も望んでいた瞬間にあります。


ただそちらに関してはちょっと先で。

その前に、最後まで残った戦いを終わらせましょう!


ということで次回はVSイグドラシルもどきです!


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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