日進月歩の果てに 五頁目
「ゼオス!」
「…………俺とて剣士の端くれだ。できるだけ抵抗するが、行使されるのはガーディア・ガルフ相手の技だ。あまり期待はするな」
ゲゼル・グレアが紡いだ言葉を聞いた瞬間、五人が全神経を集中。
彼らはみな欠損した頭部を再生させているゲゼルをその眼で見つめるが、彼らは同様の事を考えていた。
すなわちこれから繰り出される攻撃の正体に関して。
果て越えガーディア・ガルフを仕留めるための攻撃というのならばその脅威は推し量るまでもなく、康太だけではなく全員が警戒心を最大にし、その正体を見極める。
(シュバルツさんにアイリーンさん向けの攻略法)
(それを顧みるに、ゲゼルさんの技は目標を相手に徹底的にメタを張ってるはずだ)
(…………ならば)
彼らの考えは似通っていた。
アイリーン相手にゲゼル・グレアは、機動力を奪うような技を用意していた。
シュバルツ相手には二本の武器による手数と連携を活かしたもので、言い換えればこれは、シュバルツの土俵である力押しからかけ離れるようであった。
であればガーディア・ガルフ相手に繰り出す『必殺』にも同じ法則が当てはまるのではと考えており、ではどのような形であるかといえば、幸運にも彼等は目途がついていた。
なぜならかつてシュバルツが対ガーディアに関する一手を見せており、
「どいて! あたしが盾になる!」
両手に掴んでいる剣と刀を握る力が増し、その刀身に見たこともない量の練気を纏ったのを感じ取り、妨害することなど考えず五人全員が受ける構えを見せ、他の者達の意図を察した優が前へ。
「っっっっ!!」
次いで右足で大きく踏み込みを行いながら繰り出された剣の一撃は、五人全員の目論見通りの物。
すなわち『回避を許さぬ』という意思を込めた、速度と範囲を誇る神速の一撃。
ゲゼル・グレアの視界を埋めるように広がる横薙ぎの一閃である。
「当然だろうけど………………やっぱ見えなかった~~~~!!」
「男として恥ずかしいが助かったよ優君!」
「いやぁここで最適解を打つのに恥とかないでしょマクドウェルさん!」
本来ならばそれは、五人全員を塵芥に変えていたはずだ。
そうならずに済んだのは優が前に出てゲゼル・グレアの視界を奪い、そのタイミングを見計らって残る面々が神器を仕舞いゼオスの側へ。
優を除く三人に触れながら瞬間移動を発動し、ゲゼル・グレアの背後を奪い危機的状況を脱したのだ。
「首から下が全部なくなったのはマジで久しぶりだわ! てか治りにくい! めっちゃ強力な回復妨害が施されてるわよ!」
「そりゃそれくらいしてるわな! 優ちゃんはそこで回復しときな!」
攻撃を受けた優はと言えば顎から下全てがなくなっており、自己再生がうまく働かず時間がかかることに関して愚痴を。
ただそのタイミングで背後を見ればゲゼル・グレアが視界に収めていたであろう空間が塵一つなく消え去っていたのを確認でき、ヘルスの激励を聞きながら、決死の行動をしただけの価値があったことを知り安堵し、
「まだだ!」
直後に康太は声をあげる。
警戒心を解くなと言外に伝え、レオンやゼオスも気が付いた。
今ゲゼル・グレアが繰り出した斬撃は剣だけで繰り出されたものだと。であるならばまだ刀による一撃は残されており、
「「もう一発来るぞ!」」
続く声はゼオスとレオン、それに康太から同時に発せられたもので、背後に回った四人を目掛け刀を一閃。上から下へと振り下ろされたそれは彼らを呑み込むだけの範囲をしっかりと持っており、
「「っっっっ」」
けれどそれが振り抜かれるよりも僅かに早く、先に攻撃が来るのをわかっていたゆえに彼らは防御行動に移ることができた。
ゼオスに康太。それにレオンが持つ神器全てをかざし、迫る一撃を阻む盾として活用して、これにより難を逃れる事が出来た。
「この、感じは!?」
はずであったが、康太の叫びがそこまで安直な事態に終わる事はないと告げる。
なぜなら彼らは見誤っていた。
ガーディア・ガルフを打倒するためにゲゼル・グレアが用意する必要があったものは、圧倒的な速度を捉えられるだけの『速度』と『範囲』だけではない。
接触の際に必ず使用されると思っていた神器『白皇の牙』による守り。つまり神器の硬度を突破するだけの『威力』を用意する必要があったのだ。
このために彼は練気を鍛え続け、結果的に『硬化』の力を取得。取得後も延々と強化し続けた結果、ついに神器を超える硬度を会得する事ができたのだ。
「やべぇ!」
これにより交差させていたレオンの持つ二つの神器を僅かな拮抗の末に破壊。このタイミングでヘルスが動き、残る三人の体を無理やり抱えながら真横へ跳躍。
最後まで抵抗していたゼオスの持つ神器。
ゲゼル・グレアが残した受け継がれた剣が真っ二つに折れた瞬間、両足を犠牲にして逃れる事ができた。
「神器と俺の両足がぁっ!」
「仕方がねぇだろ! 気持ちを切り替えろ! 能力は使えるんだからまだ負けたわけじゃねぇ!」
その結果を見届けヘルスが悲鳴を上げるが、康太は檄を飛ばし、形を残していた自身の持つ二丁の拳銃をゲゼル・グレアへと向け、
「我が剣――――」
「あぁ!?」
もう一つの勘違いの代償を払う事になる。
「果て越えに挑む」
これは当然の事であるが、相手がガーディア・ガルフであるというのなら必然的に超光速戦闘になり、となれば必殺の一撃を撃ち込む隙も当然少なくなる。
であれば本当に僅かな隙。というよりも隙など無くとも無理やり攻撃を挟み込むだけの地力が必要になり、反撃の事を考えるのならば、即座に次の行動に移れるようにしなければならない。
そして即座に次の行動に移れるというのならば、それは第二波を撃ち込めるという事にも繋がり、鍛え上げた技術と無限に湧き出す練気だけしか使っていないため、ゲゼル・グレアが鍛えた究極秘儀『十字滅天悉』は連射が可能であり、
「動き続けろ! でなけりゃ死ぬぞ!」
「逃げろつったって………………ガーディアの旦那相手に当てるつもりの技をそんなホイホイ避けれるワケが!」
「文句言ってるんじゃねぇ!」
康太とヘルスが怒声をあげる中、絶望をそのまま形にしたような追撃が迫って来た。
一方の黒海研究所真下の『黒い海』の中では、アイビス・フォーカスが声をあげた瞬間に状況が大きく動いた。
鉄閃は一瞬怯んだものの止めていた腕を急いで動かし始め、焦燥感を抱いた表情をしたシュバルツが彼の両腕をしっかりとつかんで膠着状態へ。
「動かないで! もし私の気に障ることをしたら、皆を包んでいた防護膜を解除するわ!」
そしてこの件における最重要人物。
デュークの家族であるアイビスはと言えば声をあげながら右腕を掲げており、親指と中指の先端を合わせ、いつでも指を鳴らせるよう準備をしていた。
(何で止めたんだよデカブツ。アイツに阻止されようが、無理やりでも壊しちまえば全部終わりだろうが!)
この状況に陥ったと同時に念話を発したのは鉄閃であるが、彼の言う事は間違ってはいない。
神器を持つ彼ならば、たとえ体を纏っている防護膜を解除されてもすぐに死ぬようなことはなく、無理やりにでもデュークの心臓に師から受け継いだ神器を突き立てる事ができたのだ。
無論この場合アイビスの逆鱗に触れるため、聖野やナラスト、それにエルドラなどの神器を持たない人物は『黒い海』に犯され発狂死する可能性が大いにあったが、彼はその可能性を理解した上で動いていた。
世界を救うためならば、少人数の犠牲は容認するべきと思ったのだ。
(それはわかってるんだが…………頼むから待ってほしい)
(んでだよ?)
(肩を並べ、同じ未来を夢見て歩んだ二人を、私は引き離したくないんだ)
だがシュバルツにはそれができなかった。
かつてアデットを無くした際、伝えたいことを口にすることができなかった負い目がある故に。
死んだはずの人と、最後に少しでも会話をできる事がどれほどの救いになるのかを、ほんの少し前に体験してしまったために。
「私が必ず説得するから、早まった行動はしてくれるなよ。みんなが助かって、その上で納得できる結果があるとするなら、それが一番に決まってるんだ」
だからこそ彼はアイビスに歩み寄る態度を見せると一歩前に出て、応じた彼女はというとシュバルツの元を通り抜け、鉄閃をどかし、死んでいるかのように眠っているデュークを守るような形で立ち塞がり、
「話をさせてくれ。貴方が辛いのはわかってるが、だからといってこちらも、素直に引き下がれるわけじゃないんだ」
「………………」
両手を広げ、必死の抵抗をするアイビス相手に語り出す。
「………………………………………………姉、ちゃん?」
「「!!」」
この騒動の中心に立つ人物。
すなわちデューク・フォーカスが重たげに瞼を持ち上げ、久方ぶりに口を開けた結果、掠れた声をあげたのはその時の事であった。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
連続更新二日目はついに発動するゲゼル・グレアの切り札の巻。
流石に対ガーディアを千年目指してただけあって、高火力に超速度。信じられない硬度を揃えているだけあります。
連射性能まで秘めていることを考えれば、おそらくシュバルツ以上に対ガーディア適性が高いと思います。もちろん勝てるかどうかは別問題ですが。
さて話の後半に関しては、黒海研究所方面もクライマックスに至ります。
再び出会った義兄弟が何を話すか。そしてその結果が何を導くのか。
その辺りは次回で
それではまた次回、ぜひご覧ください!




