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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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裏切りのワイズマン 一頁目


 真っ白な霧が壁のように立ちはだかる様子を見て、オレの口から思わずため息が漏れる。

 それから無意識に肩に巻いた包帯に手を持って行くと、その時鋭い痛みを感じ取り表情が歪んだ。


「とにかくだ、一度合流したい! ギルド自体は昨日と同じ場所にある……ハズだ。確かここに来るまでに赤レンガの建物があっただろ。あそこで合流するぞ。俺も今すぐ移動するから、お前らもすぐにやって来い」


 電話の向こう側にいる蒼野に対し、それだけ伝え有無を言わさず電話を切る。


「さて、うまく働けよオレの直感」


 オレが今いる場所はキャラバンから少し離れた位置にある、日の光を遮る森の前だ。

 手負いのオレはそこでけがの治療を行った後、目の前に広がる霧の壁を木の上からじっと眺めている。


「しっかしまあ、どれだけ厳重に守ってんだよ」


 腰に付けた巾着から双眼鏡を取り出し、白い霧に覆われた空間とそうではない空間の境目に立つ兵士をじっと見つめため息を吐き、


「まさかあの時の違和感からこんなことになるなんてな」


 息を潜め、極力姿を見せぬよう注意をしながらその場を後にしようと昇っていた木から別の木へと跳躍。


「いたぞ、あっちだ!」

「おいおい。いくら何でも早すぎだろ。自分の隠密行動の腕に自信なくすぞ」


 できるだけ音は鳴らさぬよう気を付けての移動だったんだが、その結果が十数秒で見つかってしまうという結果に表には出さないがかなり落ち込み、背後から迫る脅威に対してオレは思わず悪態を吐いた。


「きりがねぇ!」


 敵は複数。一人一人が味方を庇い、連携し、力を十倍も二十倍も発揮する熟練した動きを見せる兵士たちだ。彼らを相手にしながらオレは思い返した。


 ほんの十数時間前から、今に至るまでの経緯を。




「今日の依頼ですが賢教側でとある人物の監視を頼みます」

「うっす、わかりました」


 オレがヒュンレイさんと話をしたのは昨日の朝だ。

 朝目を覚ますと既に善さんは依頼を受け外に出ており、ヒュンレイさんが代わりに伝達してくれることになっていたので朝支度を行い、階段を下りてリビングで食事をしながら彼から説明を聞いた。


「監視ねぇ。どんなワルなんですか、こいつは」


 渡された顔にバッテン印をつけてる男を目にして尋ねてみると、ヒュンレイさんは自分のメガネの上から自分の目の両端を左手の親指と中指で引っ張りながら、少々考えた末に口を開いた。


「彼は裏社会で幅を利かせているなのですが、最近不穏な動きをしていると神教から通達があり、監視を頼まれました」

「監視ッスか、久しぶりですね。それに裏社会とは。また珍しい依頼だ」


 神の座イグドラシルがこの世界を千年前に統治した時から、世界の形はそれまでの形から大きく変貌した。

 それまでは賢教による支配が続いたわけだが、それを継続するために表側の力だけでなく裏社会に存在する様々や貴族衆の力を利用していた。

 が、神の座が統治して以降その形は大きく変貌し、その過程で危険人物が数多く存在する裏社会は、現代において猛威を振るっている四大勢力の、賢教を除いた三勢力が九割方滅ぼした。

 つまり今の世の中は裏社会にいる奴らというのは、時代遅れの勘違い野郎が大半なわけだ。


「そうですね。期限は明日の日が昇る頃までで、それ以降は別のギルドのものが監視につく手はずです」

「寝ずの見張りッスか。こりゃ栄養ドリンクをしっかりと買っておかなきゃならんッスね。ところで他の奴らは?」


 封筒に入っていた内容を一瞥し、ヒュンレイさんに気になった事を聞いて見る。

 壁にかかっている時計に目を向ければ普段ならば蒼野が起きてくる時間を大幅に過ぎており、いつもならば日課でやっているはずの鍛錬をやっている様子もない。

 加えてゼオスの野郎の姿もない。

 クソ犬に関して言えば事情は知らないが、残る二人がいないことは稀で、オレは違和感を覚えたので聞いてみた。


「蒼野とゼオスの二人は今日はお休みです。昨日のうちに私から伝えておきました」

「そりゃあ……急ですね」

「ええ。昨日友人からロッセニムの観覧券が送られてきまして。最近しっかりとした休みもなかったですし、この機会に休暇を与えようと思いまして」


 確かにあのヒットマンの事件以降、俺やクソ犬は二日ほど休みがあったが蒼野やゼオスにはなかった。そう考えればおかしくない事なのだが、この時俺は妙な引っかかりを覚えた。


 なんというか…………嫌な感じの違和感だ。


「………………ふむ」


 その直感の正体が何なのか頭をフル回転させて考えるが、少なくとも今すぐに答えは出ない。


『今月……三件…………このままの進路であれば………………』


 その時、オレは耳に入ってくる変わり映えのしない内容にふと視線を向けた。


「ふむ、今月三件目ですか。連中、ずいぶんとフットワークが軽いようですね」

「そッスね」


 『境界なき軍勢』それが連日世間を騒がす犯人たちの俗称だ。

 黄金の王・ミレニアムを筆頭に、現在の世界に不満を持った者達が集まり、好き勝手に暴れまわる武闘派集団、それが奴らだ。


 迷惑な事この上ない。


「どうしました康太君。黙りこくってしまって。何か問題でもあったのですか?」

「あ、ああ。大丈夫っす。ちょっと考え事をしてて。準備だけして、行ってきます」


 そんな事を考えていると、オレが無言で黙り続けていたのがよっぽど不気味だったのか、ヒュンレイさんが心配そうな声色で聞いてくる。

 その際思わず返事を返してしまったが、それでもただの監視任務ならば大して問題はないと考える。


 今思えば、俺はここでもう少し頭を働かせるべきだった。

 違和感の正体を、どうにかして掴むべきだった。


「では、ターゲットは昼前には部屋から出てくるらしいので監視をお願いします。くれぐれも監視の範囲で。もし何かあったとしても衝突はせず、私に連絡をください」

「了解ッス。ま、命あっての物種。深追いは避けますよ」


 普段よりも厳かな声で依頼を告げるヒュンレイさんに対し返事を返し、部屋に戻って監視に必要な双眼鏡やカモフラージュ用の迷彩柄の大きな布などを用意し、ワープパットに乗って最寄りの場所に移動する。


 結論から述べると、この件に関しては別におかしなところはなかった。

 オレが監視した男は長い年月をかけて縮小させた裏社会の生き残りらしいが、周りの目を気にする様子はあったが何かしでかすような素振りはしておらず、他の一般人と同じように過ごしていた。


「これなら連絡もいらねぇな」


 日が沈み部屋へと戻っていく男を見ながら、持ってきた栄養ドリンクの瓶をゴミ箱に投げ捨てて監視を続行。

 それから更に数時間男の様子を探るが際立った変化もなく、沈んだ太陽が再び昇ったころ仕事を終えた。


「ん? 電話がかからない?」


 それからオレは監視を行っていた駅前のホテルを離れ、朝出社のサラリーマンが集まる駅を横切りながら電話をかける。

 電車の音や人の話し声を防ぐために耳を当てていない左側を手で覆い、もう一度掛けてみるが一向に出る事はない。


「ま、戻ってすぐに報告すればいいか」


 移動用のワープパッドが設置されている場所は目と鼻の先だ。連絡などせずとも、直接会って話しをすれば事足りる、そう思い機械の上に乗り行き先を入力すると、


『エラーです。この場所への移動はロックされています』

「なんだと?」


 無機質な電子音が返ってくる。

 これは流石におかしいと思い、オレはギルドの移動船が停泊していた場所から最も近い場所に転送。

 こちらは問題なく起動し、廃村から少し先にある、キャラバンで移動する際に蒼野やゼオスと一緒に目にした、赤レンガの建物の廃墟前に移動。


「さて、こっから走って二、三分くらいか。たくっ、徹夜の後にトラブルとは運がねぇな」


 そうぼやきはしたが文句よりも心配が上回ったオレは走り出し、想定通りの時間に目的地にたどり着いたのだが、そこで見た物に声を曇らせちまった。


「白い……霧?」


 オレの視線の先に広がっていたのは、ギルドが停泊していた森一面を覆う程の濃霧だ。

 直感が無反応なのを確認し飛びこんでみるが、ほんの一メートル先さえ見渡せない。


「動くな。両手をあげ、膝を付き、地面に額を付けろ」

「あ?」


 奴らと出会ったのはその時だ。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


という事で新たば物語に突入、その始まりです。

先日伝えた通りかなり大規模な戦いになると思いますので、よろしくお願いします!


あと、優については康太支点のため伝えられなかったですが、彼女は彼女で仕事に出てます。


それではまた明日、よろしくお願いします

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