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日進月歩の果てに 一頁目


「ずいぶんと元気がよくなったようですがお忘れではありませんか? なぜ仲間面しているのかわからないヘルス・アラモードは下でゲゼルに負けていて、康太君はノア程度を相手にして苦戦していた事を。そんな二人が加わったところで、状況を打開することなどできないでしょう?」


 康太やヘルスが合流したことによる苛立ちを感じさせる表情をかき消し、つい数秒前に浮かべていたものと同じ余裕の笑みを顔に張り付ける神の座イグドラシル。

 彼女が右腕を掲げ染み一つない五本の指を動かせば、糸で操作する人形のようにゲゼル・グレアの死体は応えて動き出し、


「――――――む」

「もう!」

「好き勝手はさせねぇよゲゼルさん!」


 即座にこの戦場に新たに参戦したヘルスと康太が起動。腕を振り上げる動き出すよりも二歩三歩と早く、撃ち出された雷と弾丸が行く手を阻み足を止め、流れるように事態は動き出す。


「………………ふぅ!」

「よくやってくれた二人共! だが! 俺はギルド『ウォーグレン」の一員でいいのか!?」

「ミレニアム相手の時を皮切りに何度も助けてくれたんです。今更否定しても遅いですよレオンさん!」


 身動きを止めたゲゼルへと向け、ゼオスが、レオンが、蒼野がつい先ほどまでと同じく駆けだす。

 先ほどまでとの大きな違いは衝突の結果で、今の彼らは押し負けていなかった。

 康太とヘルスが作り上げた一瞬の硬直という好機。これを十二分に生かし、この戦いが始まって以降初めて、ゲゼル・グレアを防戦に追い込んだのだ。


「何をしているのですかゲゼル。貴方ほどの存在が彼等如きに!」

「そう言うなってイグドラシル。『人数が増えた』上でその全員が『息の合った連携を組める』。その上で『手札の数が明確に増えた』んだ。となりゃこうもなるさ」

「積っ!」


 この状況を覆すべく声を張り上げるイグドラシルだが、そんな彼女にも攻撃の手は伸びる。

 フリーの積が再び彼女の前に踊り出て、手にした普段よりも遥かに大きな鉄斧で彼女の胴体を深々と切り裂いたのだ。


「手札が『明確』に増えた?」

「今までの五人はさ、俺を除いた全員が近づいて殴る斬るを専門としてた奴らだったわけだ。けどな、あの二人は違う。もっと器用に立ち回る事が可能で、中・遠距離が主体なんだよ」

「おのれ!」

「危ない積君!」

「そりゃお前、戦い方も変わるし、強さも単純な足し算程度じゃ収まらないよな!」


 続けて繰り出された積の一撃を回避したイグドラシルは、積をこれまで苦しめ続けた黒い破壊光線を放射。

 しかしそれは連携の合間を縫って繰り出したヘルスの雷撃にかき消され、更なる追撃をしようにも優が前に躍り出た事で阻まれる。


 つまり『神の居城』最上階における戦いが始まって以降初めて、ギルド『ウォーグレン』完全有利な状況が生まれたのだ。


「我が剣――――――光を呑む!」

「これは!」


 この状況でゲゼルが繰り出した一手は、刀の切っ先に滞留する炎の渦で、それは空中へと投げられると同時に闇属性へと変化。強力な引力場を生成すると、前線に立つ三人を援護する銃弾や雷の砲撃を吞み込んでいき、積や優などのイグドラシル側にいる者達を除いた面々を引き寄せていく。


「今の言葉からしてアイリーンさん用だな! とっとと対処するぞ!」

「任せろ! 破壊なら大得意だ!」


 蒼野達が有利に事を進められているのは、端的に言ってしまえば十全に実力を発揮できている故であり、ゲゼル・グレアの一手はこれを阻むもので、これを放っておいた結果が先ほどまでと絶体絶命の状況であるのはすぐにわかり、蒼野が繰り出した原点回帰が即座に破壊。


「崩鮫――――――」


 この瞬間、他の者らは巻き込まれないよう意識を黒い渦と破壊の赤い光に向けていたのだが、この一瞬をゲゼル・グレアは好機と見た。

 全員の意識が僅かに離れた一瞬の間に、全員を一気に仕留めるべく対シュバルツ・シャークスを想定した第一手を繰り出す準備にかかる。


「させねぇって!」

「!!」


 この状況でいち早く動いたのはヘルスだ。

 ガーディアに極めて近い反射神経を誇る彼はゲゼル・グレアが何か仕出かそうとしていたことをいち早く察知し、剣と刀に炎が宿ったタイミングで、青い雷を固めた剣で斬りかかり、動きを止める。


「よくやってくれたヘルス・アラモード!」


 一瞬止めれば状況は大きく動き、発破をかけるような声をあげながらレオンが参戦。続けてゼオスと蒼野も加わると数秒前と同じ拮抗状態を作り出し、


「――――――そこだ!」


 鋭い声を発した康太が撃ち出した一発の弾丸。

 それが始めてゲゼル・グレアの腕を吹き飛ばし、完全に再生しきるよりも早く近接戦を挑んでいた四人の息の合った斬撃が全盛期の肉体に叩き込まれ、追い詰めていく。


「うし!」

 

 その様子をやや離れたところから見ながら康太が確信を抱く。


 ゲゼル・グレアは強敵である。これは間違いない。


 しかし今の自分たちが全力を発揮し続けることが出来るのならば、決して超えられない壁ではないのだと。


 そう思えば顔には自然と勝気な笑みが浮かび、けれどそれは油断に繋がると考えすぐにかき消し真顔に。


「イグドラシルの方はどうだ!」


 この戦いのカギを握る最重要人物。

 難敵ゲゼル・グレアの動きを縛る要因となるイグドラシル・フォーカスの方に目を向ける。


「………………あ?」

 

 そこで目にしたのは足止めをしていた積と優が自分の元へと向け勢いよく後退する姿。


「いいでしょう。全て、すべてすべて! 原初の無に帰りなさい!」


 そしてどこからか生み出した『黒い海』を津波として扱い、戦場を呑み込まんとする神の座の歪んだ姿であった。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


連日短めとなり申し訳ありません。ラノベ新人賞に向ける比重が重くなり始め、短くまとめてしまっています。

その関係で一時投稿を止める予定なのですが、こちらは投稿作の大幅改定に挑む必要が出てきたため、二十日過ぎと、普段よりちょっと早めになると思います。

出来れば一気に終結まで書きたかったのですが、しばらくお待ちいただくことになってしまうと思うので、よろしくお願いいたします。


さて私の近況はこの程度として、本編へ。

戦いは第二ラウンドへと進みましたが、康太とヘルスが加わると大きく戦術が変わりますね。

まぁ康太はゼオスと同格。ヘルスはシュバルツとほぼ同等。アイリーンやエヴァでも仕留めきれない強さなので、この二人が参戦すればそりゃ変わってくるというものです。


ただイグドラシル・ゲゼルペアも当然指を咥えて見ているわけもなく………………。


とまあこんな感じで語りましたが、もう一方の方も含め延々と続く感じではありません。

完結まで(いったん休載を除いて)後一ヶ月ほどでしょうか。

ですので皆さま、もうしばしのあいだお付き合いいただければと思います。


それではまた次回、ぜひごらんください!



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