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NEW『ウォーグレン』!


「あの姿は………………」


 時は少々巻き戻り『神の居城』最上階。

 真っ白な煙が吐き出される事によるゲゼル・グレア二度目の肉体変化にかかった時間は、今回の場合はごく僅かであった。

 切り揃えられた短髪が伸びていくと同時に赤から橙色へと変わるグラデーションが加わりパーマのかかったものになり、瞳は穏やかなものから野心を感じさせるものへと変化。

 服装こそ違うものの、優を除いた三人の剣士はすぐに理解できた。

 今目の前にある姿はゲゼル・グレアという存在が最も記録として残されている状態。つまり肉体面の全盛期であると。


「「!?」」


 そのような事を考えていると、ゲゼル・グレアの肉体が四人のど真ん中にまで移動。


「これは! 瞬間移動か!?」

「そんなものが使われた感じはしなかったな。どちらかと言えばこれは!」

「………………素の脚力に神器の能力を合わせたのか結果か。早すぎる!」


 蒼野や優だけではない。レオンやゼオスでさえ視認できない速度を出した全盛期の肉体を持つゲゼル・グレアは、四人が何かをするよりも遥かに早く蒼野と優の顔面を掴むと強固な床に叩きつけ、左右から振り抜かれる二本の神器は屈んで易々と回避。


「「っっっっ」」


 反撃の回し蹴りでゼオスとレオンの足を宙に浮かばせ、未だ掴んだままの蒼野と優の二人を武器として器用に扱い四人全員を一か所にまとまるように壁に叩きつけた。


「我が刃――――剣帝を超える!」

「剣帝ってつまり!」

「シュバルツ・シャークスを仕留めるための技か! 全員意識を極限まで研ぎ澄ませ! 対処を失敗すればおそらく死ぬぞ!」

「崩鮫――――」

 

 四人の耳に絶望的な語句が飛び込んできたのはその最中であり、続きが綴られるよりも早く四人は体勢を立て直しゲゼル・グレアへと視線を移動。

 刀と剣で十字を作り上げた彼を凝視し、ゼオスが蒼野と優に触れてゲゼル・グレアの背後に回るように瞬間移動。残されたレオンも視界から離れるように風属性粒子を纏った上で速度特化の状態へと変化し動き出す。


「クソ!」

「………………完璧に見切って、絶好のタイミングで合わせてくるか!」


 だが彼の視線からは外れきれず、動き回るレオンと瞬間移動したゼオス達が一瞬重なる様子を見せると一歩前に踏み出し、描いた十字を開放。交差した炎の斬撃が四人へと飛来する。


(………………凄まじい威力だが想定よりは威力が低い)

(なんとか行けるか?)


 ただその威力はシュバルツ・シャークスを退けると言った割にはさほど強力なものではなく、ゼオスやレオンはこれを囮の類と判断。迎撃に瞬間移動。他にも回避などの手段を瞬時に思い浮かべ、


「原点回帰!」


 そんな中で誰よりも早く動いたのは蒼野であり、万物万象を破壊する真っ赤な光が炎の十字を浸食。瞬く間に消し去りその向こう側へと向かっていった。


「…………悪くない判断だな」

「むしろベストだな」


 この一手をゼオスやレオンは最善手であると考えた。瞬間移動や回避もせずに次の一手を待ち構えられることはかなりのメリットだったからだ。


「上よ!」


 そう考えていたところで優が見つけたのは四人の頭上に浮かぶゲゼル・グレアの姿で、手にしている刀には螺旋状の雷粒子が滞留。


「「来る!!」」


 ゼオスとレオンはここで悟る。これから繰り出される一撃こそ必殺であると。

 ゆえに足を止め攻撃の軌道を見切る様子を見せ、


「もういっちょ!」


 ここで蒼野が再び駆動。攻撃が発射されるよりも早く原点回帰を展開し、万物を阻む障害として機能させ、


「がっ!?」

「なに!?」


 その展開を読んでいたようにゲゼル・グレアの肉体が四人の前に挟まり、蒼野の体を両断。問題はこれを仕出かしてなお刀に雷が装填されていることであり、残る三人が目を見開き、


「しまっ!?」

「――――むん!」


 気が動転した隙を縫うように雷が放出………………すると同時に氷属性へと変化。回復しきっていない蒼野は全身を、残る三人は下半身が凍り付き動きを止められる。


「ちょっと待って! まさかシュバルツさんを仕留めるために作ったこの技って!?」


 間髪入れず繰り出される斬撃は鋼の杭となり彼らの体を拘束するのだが、ここで優は気が付いた。自分たちがしでかした、致命的な失敗。そしてゲゼル・グレアが対シュバルツ相手に構築した秘儀の正体を。


「気づくのが遅ぇよ。ゲゼルさんの使うそれはおそらく連続技だ」

「!」


 それを言葉として口にしたのはこの場にいる四人の誰でもなく、しかし声の主の正体を知っているゆえに幾人かの目に希望が宿る。


「こりゃ勝手な予想だがな、たぶん千変万化の攻撃手段を用いた猛攻だ。あらゆる点で秀でたシュバルツさんをどれか一つで崩して、その隙を執拗にせめて仕留めるってところじゃねぇのか?」


 直後、四人を仕留めるべく繰り出された突きのラッシュを阻止するように発砲音が鳴り響き、神の座イグドラシルが張った黒い膜を突き破ってゲゼルへ直進。そこに込められている圧倒的火力を理解すると回避行動に移行し、その隙に彼は『神の居城』最上階へと上陸。


「康太!」

「待たせたなお前ら。これで新生ウォーグレンは集結だ。反撃といこうじゃねぇの」


 現れた最も頼りになる援軍を前に体の傷を治した蒼野が声を明るいものへ。


「新生ウォーグレン、ですか。貴方一人が加わったところで、二ヶ所の対処ができるとは到底思えないのですがね」


 そんな彼の意気を挫くように、肩で息をする積を眺めながらイグドラシルは嘲笑を浮かべ、けれど康太の余裕に陰りはなく、語る声色にはなおも自信が宿っている。


「どうやら前線を離れすぎたようだなイグドラシル」

「?」

「オレは、新生ウォーグレンのメンツを『六人』だと言った覚えはねぇよ」

「っっっっ!?」


 その意味が理解できたのは直後の事。

 これまで無傷であった彼女の体が空から降り注いだ青い雷に飲み込まれたタイミングだ。


「待たせたな積君!」

「ヘルスさん!」

「下じゃダメだったが、今度は役に立つぜ!」


 次いで現れたのは今しがた攻撃を行った張本人であるヘルス・アラモードであり、積を守るように前に立つと地面に掌を置き雷を放射。


「これで戦場慣れしてないひ弱な神の座が合流。対するこっちは足並みを揃えられる七人組だ。降参するつもりはねぇか?」

「本当に………………本当に好き勝手しますね古賀康太!」


 上層と下層に分かれていた二つの戦場は一つとなり、イグドラシルの口から苛立ちの感情が零れだす。

 対する蒼野らはヘルスと康太を迎え入れたことで意気を高め、


「――――――」


 ただ一人、ゲゼル・グレアだけはなおも泰然自若の様子で立ち塞がる。

 



 最終決戦は第二ラウンドへと移行する。

 

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