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剣聖 ゲゼル・グレア 三頁目


 体の至る所から煙が零れ、蒼野達の目では見えにくいがゲゼル・グレアの姿が変貌していく。

 それは鉄閃らやシュバルツならば知っている自体。仮面を外したことによるリミッターの解除とも言うべき事柄なのだが、真実を知らない蒼野やゼオスは警戒心から状況の変化を見守る。


「させん!」

「レオンさん!?」

「何が起きてるか具体的なことは分からない。だが! 黙って見ていることが悪手なことはなんとなく分かる!」


 だがただ一人、レオン・マクドウェルだけは違った。

 何が起こるか理解していないながらも、心臓をチクチクと刺す嫌な感触に身を任せる。このまま放置していれば最悪の事態になると考え、それを阻止する事に全身全霊を傾け握った神剣『アスタリオン』を最短距離かつ最速で振り抜く。


 結果、ゲゼル・グレアに起こるはずであった変化は阻止された。

 訪れるはずであった最悪の変化。ゲゼル・グレアが全盛期の肉体を取り戻すことを食い止めたのだ。


「………………」


 だがそれでもゲゼル・グレアは取り戻したのだ。

 千年という月日を幾分か遡り、死に際よりも動ける己が肉体を取り戻した。その結果が今、目の前に提示される。


(親指と人差し指だけで風属性とスタイルチェンジで速度特化型になった俺の一撃を!?)


 現代最高峰であり、剣士としての格ならばなおもゼオスを上回るレオン最速の一撃が、たった二本の指で止められ、弧を描くような勢いで投げ飛ばされ――――――蹂躙される。


「っっっっ!!」


 最高到達点を超え、落下していくレオンへとゲゼル・グレアが繰り出したのは、なんの変哲もないただの踏み込み切りである。

 しかしそれはレオンが反応し、防御するように動くよりも早く彼の上半身と下半身を切り離し、そこから正中線に沿うように一閃。レオンの体が瞬く間に四つに分かれる。


「レオンさん!」

「………………挟み込むぞ!」


 瞬きすらする暇なく行われた刹那の攻防を前に場の空気は急激に熱し戦場が慌ただしく動く。

 優が五分というタイムリミットが尽きるよりも早くレオンの蘇生を行うと駆け出し、蒼野とゼオスの二人が目前の敵。

 未だ白髪ながらも髪の毛が短く切り揃えられており、顔に刻まれたシワが減り顎髭も消え去った、やや活力を取り戻した様子のゲゼル・グレアへと迫り、完璧に同調した様子で二方向から襲い掛かる。


「早い!」

(………………加えて巧いな。技術だけならばシュバルツさん以上か!)


 そして知る。目の前にいる男が死ぬ直前には見せれなくなっていた真価。

 アイビス・フォーカスやデューク・フォーカスさえ凌ぐ、神教最強として君臨していた頃の実力を。


 蒼野が繰り出した斬撃は右手に掴んだ両刃剣で全て抑えられ、ゼオスが繰り出す蒼野以上の速度と威力の剣技は左手に持った刀で防いでいる。

 途中に二人が挟み込む風や炎の攻撃などは、軌道を完璧に読み切り、体を僅かに揺らすだけで対処されてしまうほどだ。


「感謝する。すぐに行かなくては!」

「行くのはいいですけどまた四分割にならないでくださいね! 治すのだって手間なんですから!」

「わかってるさ!」


 完璧に翻弄されているこの状況を崩すため、優により瞬く間に息を吹き返したレオンが参戦。今回は彼だけではなく優も最前線に加わり、数による圧殺を狙うのだが、これにより状況が変化する。


 ゲゼル・グレア優位という、嫌な方角へ。


「うぉっ!」

「…………っ」


 蒼野の繰り出した一太刀を右手に掴んでいた両刃剣を手放し再び親指と人差し指で器用に掴み、すぐさまゼオスの前に盾として移動。するとゼオスは一瞬動きを止めるのだが、この隙をつくように左手に持った剣で彼の胴体を突き刺す。


「クソッ!」


 こうして二人を自在に操れる状態になると迫る二人へと投げ飛ばし、迫るゼオスを放置できずにレオンがキャッチ。


「無視するわよ!」

「問題! ない!」


 ただ一人、優だけは蒼野の頑丈さを信じると受け止めることなく前に突き進み拳を突き出すが、これは持ち上げた右膝で易々と弾き、その状態から前に跳ね彼女を残る三人の前まで吹き飛ばす。


「――――――受けよ」

「炎の塊!」

「そりゃ使うよな! 得意属性は炎って話だし!」

「三人とも下がってて!」


 四人が固まったのを見届けると同時に頭上に太陽と見紛う球体を形成し四人へと向け打ち出すのだが、そこに込められてる熱が自分でも対処できる程度の物と判断した優が三人の前に出ると分厚い水の壁を作り、


「「!?」」

「なん、で!?」


 結果、彼女の後ろにいた三人はロクに喋る事も出来ず体を痙攣させ、当の本人は困惑した。

 今しがた自分の出した盾に触れ、その結果として体を襲ったのは炎による熱ではなかった。雷属性による強烈な痺れであったゆえに。


「馬鹿な。神器は手にしていないはずだ!」


 この事態の正体をレオンは知っていた。けれど元になった神器がないため不可能であると告げ、


「確かに今のゲゼルは神器を持っていませんが、無くなった部分の補強くらい当然しますよ」

「レオンさん。ゲゼルさんの能力って!?」


 一方的に攻め続け余裕を得たイグドラシルが、そんなレオンを嘲笑う。とすればレオンは舌打ちをして蒼野が質問。攻撃がやってこない事を把握したうえで彼は口を開いた。


「生前のゲゼルさんは二つの神器を持っていた。一つは自身の力でが会得した星の刀『アロンガスト』。もう一つはガーディア・ガルフから授かり、変化した天の剣『レクイエム』だ。そして属性を自由自在に変化させる能力が『アロンガスト』にはあったんだ」

「属性を変える?」

「自分が放出した属性を好きなように操れるんだ。これがあるからゲゼルさんは炎属性の使い手ながら全属性を自由自在に駆使したんだ」

「………………反則だな」


 ゲゼル・グレアが再び動き出したのはレオンが能力の詳細を語った直後で、剣に宿った炎が、振り抜かれ斬撃として打ち出される瞬間に風属性に変化。蒼野の放つ物以上の威力と速度で迫り、四人は別々の方角に跳躍して回避。

 

「!」

「ゼオス!」

「耐えろ! すぐ行く」


 その直後、ゼオスの目の前に彼は現れる。

 光よりも早く、それこそガーディア・ガルフに至るような速度でだ。


「我が剣。受けきれるか」


 壁に両足をつき腰を落とし、一切の淀みなく繰り出される抜刀術の鋭さは凄まじいもので、けれどゼオスはこれを止め、真後ろにあった壁に背中をぶつける程度の被害で済む。

 自分に迫った直後にわざわざ一度刀を仕舞い、溜めるような動作を見たゆえにゲゼル・グレアの次の動きが把握できたのだ。


「大丈夫かゼオス!?」

「…………一つ、わかったことがある」

「?」

「…………意識がない亡霊である弊害だろうな。所々で一目でわかるような攻撃の予備動作がある。それを凌げば好機が来るはずだ」

「なるほど! つまり今か!」


 すぐに合流し自身の身を案じる蒼野に対し、ゼオスは自身の考察を披露。

 それを聞いた彼らの前でゲゼル・グレアは再び居合の構えを見せ、


「防ごうと思うな! その人の繰り出すものは、同じようで全部違うんだ!」

「「!!?」」


 レオンが叫んだのと同時に思い知るのだ。剣聖ゲゼル・グレアという存在の真価を。


((………………重い!?))


 構えから振り抜き、加えてゼオスに直撃する速度まで、ゲゼル・グレアが行う全ての動作は先程と完璧に同じものだ。


 だというのに、威力の桁が違う。


 神器『レクイエム』をかざし守る体勢に入っていたゼオスに刀は直撃するのだが、先ほどのように後退する程度では済まない。

 体中の骨と筋肉が軋みだし、負荷に耐え切れずに背後にいる蒼野ともども真後ろにある壁に叩きつけられ全身の酸素が抜け、


「受けよ。我が拳」

「おっかしいだろこの威力はぁ!!!!?」


 続けて繰り出された手刀は二人の胴体を易々と貫き、その奥にある『神の居城』の壁さえ貫通。

 慌てて援護にやって来たレオンや優の一撃を躱すと回し蹴りを繰り出すが、この威力も凄まじく、二人は耐え切れず地面に衝突し、小規模なクレーターを作り出した。


「同じ動作なのに威力が全然違うんですけど、これにもなんか種があるんですかレオンさん」


 そのまま頭を踏みつぶされるはずだった二人を助けたのは『時間回帰』と『時間破戒』の合わせ技で即座に回復と救出を行った蒼野であり、その問いを聞き、口から血の塊を吐いたレオンが両足で地面を踏みながら口を開いた。

 

「天の剣『レクイエム』の持っていた能力は動力変化アクセルチェンジという奴でな。俺の持つ神器アスタリオンの『スタイルチェンジ』の自由度をあげたようなものだ」

「自由度をあげた?」

「自分の持っているパワーやらスピードやらを数値化して、好きなように組み替えるんだ。ゲームとかでデータを弄るようなものだと言えばわかりやすいか?」

「………………厄介、だけど」


 聞けばそれは確かに厄介な能力である。

 だが優は思うのだ。先に聞いた属性を自由自在に変える能力も含め間違いなく面倒な類ではある。しかし超がつくほど強力な類。蒼野の持つ『原点回帰』やガーディア・ガルフが持つ『絶対消滅』ほどの反則さはないのだと。


 だというのにあり得ないほど強い。それが少々不可解であり、


「…………………………今になって俺も理解したよ」

「何をですか?」

「あの人はいつだって『もっと強くなりたい』と言っていた。俺は『そこまで強くなって何を馬鹿な事を』なんて思ってたんだが、あれは千年前に戦った人らを目標にしていたからなんだな」


 その理由をレオンは告げる。

 ゲゼル・グレアが強くなった理由。それは自分らとは見ていたものが違うからであったのだと。



 


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


VSゲゼル・グレアその一。だというのにタイトルは三頁目という不思議な数字なのは、遥か昔の話の続きゆえ。

振り返ってみてみるとわかるのですが、2019年の百羽を超えていない時点で二頁目までの話があるんですよね。

その時点ラスボスがゲゼルさんとイグドラシルとは決めていたので、五年以上経ったロングパスになりますね。うん、感慨深い。


次回は続いてゲゼルさんパート。それに別サイドの話にも入れればと思います。


それではまた次回、ぜひごらんください!

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